
西日本新聞 20241202
バリアフリーなし、廊下水浸し…築94年の門司区役所、移転まで「だましだまし」
北九州市の複合公共施設造成着手
北九州市門司区の複合公共施設の建設予定地で見つかった初代門司駅遺構の取り壊しが始まり、施設の造成工事が進んでいる。工事中断を求める声がある中、北九州市は事業を推進する理由について、老朽化した同区の公共施設の集約による「市民の安全安心」の早期実現を強調する。移転対象の施設で、建築から90年以上が経過する門司区役所を訪ね、現状を探った。
「ピンポン、ピンポン」
区役所2階の総務企画課。壁のランプが点滅し、呼び出し音が流れた。職員2人は事務作業を止め、1階正面玄関に大急ぎで向かった。目的は車いす利用者の介助だ。正面玄関から入ると扇状の階段があるが、スロープがない。2人は協力して車椅子の高齢女性を階段端のリフトに乗せた。
ほかにも2階廊下の途中に階段があるなど、車椅子では進めない場所が2カ所。ここにはリフトがなく職員4人がかりで持ち上げて移動させる。同課の高橋久美課長は「職員の業務が止まるのは仕方ないが、市民に不便を強いるのが何より心苦しい」と嘆く。
門司区役所(1930年建築、3階建て)の築年数は94年。市内区役所で最古となっており、次に古い八幡東区役所でも62年だ。「バリアフリーの概念がない頃の建物」(市職員)で、時代とともに改善は進んだが、敷地の狭さなどから一部で後付けの整備ができなかった。足の悪い高齢者が歩行器を抱えて階段を上り下りする姿もあり、同区の60代男性は「転倒事故が起きないか」と心配する。
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目に見えて老朽化が進む箇所も多い。外壁はひび割れやさびがあり、剥落の危険があるとして防護ネットを張る。また本棟南側では、屋根の防水シートの劣化により頻繁に雨漏りが発生。雨になれば3階廊下は水浸しになり、2階の保健福祉課は天井から雨水が滴れ落ちる。同課では雨を受けるビニールとバケツを置いて対応するが、大雨時は職員がバケツにたまる水を幾度も捨てているという。
50年前に設置された空調設備も効きが悪く、3階の大半は冷気がほとんど届かない。「夏場は3階の室内温度が30度を超える。『座るだけで汗が垂れる』と言う人もいる」と男性職員。
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それでも改修・修繕に手が出せない事情がある。市は2016年2月、老朽化した7施設を集約し整備する計画を決定。当初は23年度の完成予定だったが、新型コロナや遺構調査で幾度も延長。現計画通りに進めば、27年度に供用開始予定だ。防水シートの交換だけでも数千万円がかかるとみられ、区役所幹部は「3年後に移転するのに、多額の費用がかかる改修は税金の無駄遣い。だましだまし使っていくしかない」。
門司市民会館(築年数67年)、門司図書館(同61年)、港湾空港局庁舎(同59年)…。他の集約予定施設も大半が建築から半世紀経ち老朽化が進み、対策は喫緊の課題だ。
市が遺構の一部保存を決めて以降も、学術団体や市民団体は市側に保存箇所の協議や工事中断を求めておいる。一方で、地元住民から「利便性の良い施設に早く移転した方がいい」「高齢者も若い世代も集まる新施設を作るべきだ」との声も聞かれる。市民が納得のいく“答え”は何か。未来の暮らしと文化保存の狭間で投げかけられた問いは重い。
(井崎圭)

















