建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

20241009 西日本新聞

83回西日本文化賞 受賞者の業績と横顔

公益財団法人西日本新聞文化財団が九州・沖縄地域の文化向上や発展に貢献した個人・団体に贈る西日本文化賞の第83回(2024年度)受賞者・団体が決まった。それぞれの業績と横顔を紹介する。

 学術文化部門は長崎大名誉教授のともながさん。社会文化部門は詩人の伊藤比呂美さんと、熊本県合志市の菊池けいふう園絵画クラブ金陽会。若手・中堅を対象にした奨励賞は、学術文化部門が九州大教授のおのうえてつさん、社会文化部門が俳優の高良健吾さん。いずれも各分野で顕著な業績を上げ、第一線で活躍を続けている。

 西日本文化賞は、西日本新聞社の前身、福岡日日新聞社が紙齢(新聞の発行号数)2万号を記念して1939年に制定し、翌40年に第1回受賞者を選定した。表彰件数は今回を含めて401件(うち奨励賞12件)となる。

 贈呈式を113日、福岡市中央区天神のアクロス福岡国際会議場で開く。

 

被爆医療の成果 核廃絶へ

学術文化部門 長崎大名誉教授 朝長万左男さん(81

 2歳だった1945年の夏、爆心地から25キロの長崎市内で被爆。自宅は半壊したが外傷はなく、火が回る前に助け出されて九死に一生を得た。従軍地から戻った父は被爆者医療の専門家となったが、自身は歴史学者を夢見て育った。

 転機は高校生の時。血液がんの一つ、白血病を患う同世代の被爆者が増えてきた。「自分もなるんじゃないか」という恐怖と同時に強烈な興味が湧いた。「人間の体に放射線が当たるとなぜがんになるのか。それを解明したい」。そう思って長崎大医学部に進んだ。

 師となった父からは、被爆者を長期にわたって丹念に観察する科学者としての姿勢を学んだ。毎日、市内の病院を回り標本を採って顕微鏡で観察。やがて「骨髄異形成症候群(MDS)」と分類される病変が被爆者に多いことに気付いた。

 MDSは、大量の放射線で骨髄幹細胞が傷つき、半世紀以上かけてがん化することもある。この症例が被爆によって増加することを同僚らと世界で初めて証明し、2013年にノルウェー・オスロで開かれた国際会議では、核兵器が人体に及ぼす影響が生涯にわたって続くことを訴えた。

 被爆者であると同時に被爆者医療の専門家であることから、伝える役割は近年ますます大きい。被爆者団体の代表となり、昨年11月には米3都市の市民千人に会った。「市民一人一人が被爆の影響を理解し、自国政府へ働きかける時代にならないと核兵器はなくならない」。被爆国の日本でも地域によって意識の差が大きいと実感する。「受賞を機に、九州の多くの人に核廃絶への理解を広げたい」(川口安子)

 ともなが・まさお 1943年、長崎市生まれ。長崎大医学部卒。同大名誉教授。同大原爆後障害研究所所長、日赤長崎原爆病院院長などを経て、恵の丘長崎原爆ホームの診療所所長として現在も被爆者医療に携わる。核戦争防止国際医師会議(IPPNW)日本支部副会長、長崎県被爆者手帳友の会会長。2023年に日本血液学会功労賞。

 

「女性」という枠超え説得力

社会文化部門 伊藤 比呂美さん(69

 1の時、東京・山手線の電車に揺られ何げなく外を眺めていた。突如、「詩が分かった」と思った。中原中也の「秋」という作品だった。「理屈じゃなくて感じるのね」。文学少女はこの時から詩にはまった。

 大学時代に詩作を始めた。卒業後、中学の国語教師になったが1年で辞めた。詩人になるためだったが、それに加えて当時付き合っていた男性は妻帯者。心身共にぼろぼろだった。食い詰めたが、詩の道を突き進むことに迷いはなかった。

 赤裸々なセックスの話、産後うつの苦悩、母性本能への疑問-。1980年代、タブーを破る詩と言動はいわゆる女性詩ブームの第一人者と位置付けられたが、本人は強く反発する。「詩人になりたくてやってきたんで、女性詩人になりたかったわけじゃない」

 詩の朗読に力を入れ、中世の庶民に親しまれた語り物「説経節」に傾倒。子育てエッセー、小説、絵本など詩以外の仕事にも積極的に取り組んだ。98年、西日本新聞で始めた人生相談「比呂美の万事OK」がライフワークの一つとなった。

 掲載数は1200回を超えた。「相談者を絶対見捨てない」。悩む人がすぐそばにいるとの思いで、その人が生きていける言葉を探す。内容は拒食症、不倫、結婚、出産、離婚、介護、みとりなど多岐にわたる。「女性としての圧倒的身体性(体験)が性別の枠を超えた説得力を持つ」と作家高橋源一郎さんは評する。

 今回の授賞式では説経節を、記念講演会では人生相談を披露すると意気込む。「最近ぼけてきたんじゃないのって言われながら、でも味のある人生相談を人生の最期まで続けたい」(伊東秀純)

 いとう・ひろみ 1955年、東京都生まれ。青山学院大卒。78年、第1詩集「草木の空」で現代詩手帖賞。85年、子育てエッセーの草分け「良いおっぱい悪いおっぱい」を著す。2006年、詩集「河原荒草」で高見順賞。07年、詩集「とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起」で萩原朔太郎賞。08年、地域の文学振興を図る「熊本文学隊」旗揚げ。熊本市北区在住。

 

生き抜くために握った絵筆

社会文化部門 菊池恵楓園絵画クラブ 金陽会(熊本県合志市)

 ハンセン病患者への国の強制隔離政策で家族や社会と引き離された菊池恵楓園の入所者が、筆と絵の具で希望をつないだ集まりが「金陽会」である。望郷の念や言葉にできない感情を表現した作品群は、そのつらい境遇と裏腹に命の輝きや温かさを感じさせ、「光の絵画」と称される。ただ1人、制作を続ける吉山安彦さん(95)は言う。「生き抜くために描いてきた。絵は人生の道しるべだった」

 金陽会の発足は、入所者の労働や外出を制限するらい予防法が制定された1953年。絶望しそうな時こそ太陽のように明るく描こうと「陽」の字を当てた。独学で絵を学び、毎週金曜に作品を見せ合ってきた。

 強制堕胎など悲惨な記憶を想起させる絵もあるが、作品からは恨みより自由に表現する喜びや人生への肯定感がにじむ。17歳で入所し泣き暮らしていた吉山さんも前を向くため、自分を癒やすように古里の海や空を繰り返し描いた。幻想的な青は今では「吉山ブルー」と呼ばれ、展覧会などで見る者の心を癒やす。

 熊本市現代美術館で初の企画展を開き、活動が知られ始めたのは結成から半世紀の2003年。当時10人ほどいたメンバーは次々と他界し、残るのは吉山さんと矢野悟さん(82)だけ。矢野さんは光の表現が巧みだったが数年前に視力を失った。それでも展覧会の感想が届くたび「希望が誰かに届く喜びを感じ、頭の中で絵を描けるんだ」と笑う。

 アトリエの隅に今は亡きメンバーたちの写真が飾られている。「受賞はうれしいね。皆が生き返ってきそう」と吉山さん。「仲間の分も命ある限り描き続ける」と誓った。(川口史帆)

 きんようかい ハンセン病の国立療養所だった菊池恵楓園(熊本県合志市)で1953年に始まった絵画クラブ。独学で美術を学び合い、画派や技法にとらわれない作品を多く生み出した。900点を超える作品が保存されている。2020年にくまもと県民文化賞、22年に瀬戸内国際芸術祭に出品。

 

地球の過去と未来を推理

奨励賞(学術文化部門) 九州大教授 尾上哲治さん(47

 「証拠を集めて過去に何が起きたか推理する点で、その仕事は探偵と似ている」。地質学者の研究法をそう説明する。自身が取り組むのは、地球で過去5回起きたとされる生物大量絶滅の“犯人”捜しだ。

 探偵との大きな違いは、過去だけでなく未来も推理すること。大量絶滅の道筋解明は、将来起こるかもしれない破局へ警鐘を鳴らすことにもつながる。「今の地球であと6度ぐらい平均気温が上がれば、大量絶滅の引き金となり得る」

 大量絶滅では、恐竜の時代が終わった5番目、6600万年前の白亜紀末が有名だが、研究対象は4番目、約2億年前の三畳紀末。岐阜県の木曽川河床から採取した岩石試料の分析により巨大いんせき衝突の事実を明らかにし、宇宙空間に漂う微細なちり(宇宙じん)が大量に落ちたことも解明した。

 南極を除く世界各地を巡り、砂や泥が固まった堆積岩を分析する。岩の中に閉じ込められた微細な化石の動向などから当時の地球の姿を復元していく。「天体衝突か火山噴火か、現象により環境変化の仕方が違う」。三畳紀末の大絶滅は火山活動が主因だったと今は考えている。大量の宇宙塵がどう地球環境に影響を与えたかにも関心を寄せる。

 地学に興味を持ったのは大学に入ってから。この学問には地球や宇宙の歴史の解明だけでなく、地震や火山、気象など災害に関する研究も含まれる。「災害多発国で生きる私たち日本人は全員地学を学ぶべき」と語るが、自身もそうだったように高校での履修者は少ない。「地球の歩みの解明と共に、地学学習の重要性を広めることも自分の役割かな」と考えている。(古賀英毅)

 おのうえ・てつじ 1977年、熊本県出身。九州大大学院博士課程修了。鹿児島大助手、熊本大大学院准教授を経て2019年から現職。23年、「科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)」を受賞。著書に「大量絶滅はなぜ起きるのか」など。福岡県糸島市在住。

 

演じることで復興後押し

奨励賞(社会文化部門) 俳優 高良健吾さん(36

 俳優としての表現の幅広さは随一だ。映画「白夜行」(2011年)では罪を犯し、闇を背負う亮司を、「横道世之介」(13年)ではお人よしで憎めない主人公世之介を演じた。NHK大河ドラマ「青天を衝け」(21年)では、主人公渋沢栄一の幼なじみである渋沢喜作役。熱い心の武士を好演した。

 俳優活動の一環で、故郷の熊本県で16年の熊本地震後に始まった「くまもと復興映画祭」に毎年参加するなど、地元との関わりを絶やさない。受賞について、自分で良いのか迷いもしたというが「熊本、九州への思いに対しての賞だと思う」と受けとめる。

 熊本市生まれ。小中学生の頃は北九州市福岡市にも暮らした。中学2年で熊本に戻り、九州学院高在学中の05年、テレビドラマ「ごくせん」で俳優デビュー。卒業後に東京へ移る際は「熊本から通えないかと事務所の社長に相談した」ほど、離れがたかった。

 その故郷を襲った熊本地震では発生直後、給水ボランティア活動に従事。被災後の熊本で行定勲監督が撮影した「うつくしいひと サバ?」で探偵を、仮設商店街が舞台のドラマ「ともにすすむ サロン屋台村」で美容室の店主を演じるなど俳優業を通じ復興を後押ししてきた。一連の仕事は「僕自身が熊本とつながっているためでもある。だから『熊本のために』と言われると少し恥ずかしい」と率直な心情ものぞかせる。

 23年には初の監督作品「CRANK」を手がけ「俳優ってすごい。細かく指示しなくてもシーンを作ってくれる」と実感した。作り手の立場を経験したことで演技にもさらに磨きをかける。(諏訪部真)

 こうら・けんご 1987年生まれ、熊本市出身。映画デビューは2006年の「ハリヨの夏」。映画「横道世之介」(13年)でブルーリボン賞主演男優賞。今年は映画「劇場版 アナウンサーたちの戦争」などが公開された。待機作に「ルート29」「レイニーブルー」などがある。

 

 

 

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