以下の記事は「西日本新聞 20240909 鶴智雄記者」によるものです。
文末、専門家としての私(藍蟹堂藤原惠洋)のコメントが掲載されました。
良い機会ですので、新聞社による再整理以前に私がどのような内容を伝えようとしていたのか、当初のコメント案をお示しします。
言い足りなかったこと、の補填分をご理解いただきたく思います。
合わせて新聞社による限られた字数での的確な再整理の成果が見て取れるかと思います。
藍蟹堂藤原惠洋拝 9月12日(木)午後
西日本新聞 20240909 鶴 智雄記者
西シ銀本店、イムズ、マリノア観覧車…福岡市都市景観賞、街の発展映す「顔」は今
【福岡のミカタ】
福岡市都市景観賞。160万都市・福岡の魅力度アップに貢献した建築物や営みを表彰する福岡市の取り組みだ。1987年度に創設され、これまでに229件が栄に浴した。街の発展とともに取り壊されたり、消滅したりした受賞作も存在する。賞を通して福岡市の変遷を見つめた。(鶴智雄、撮影は佐藤桂一)
3回受賞も取り壊し
5年ぶりの福岡市・天神。大阪市の会社員、田中勝さん(53)はぼうぜんと立ち尽くした。思い出のデートスポットが工事現場に変わり、巨大なクレーンが夏空を突いている。「金色のタイルの外壁を見るたび、胸が高鳴ったのに…」
2021年に閉館した商業ビル「イムズ」。独創的な外観は1990年度の福岡市都市景観賞を受賞。最先端のおしゃれさにひかれ、福岡での学生時代、当時交際中の妻とよく出かけた。現在は取り壊され、跡地に高さ91メートルの複合ビルを建設中。「次も金色になるんやろか」。田中さんはうっすらと寂寞(せきばく)の涙を浮かべた。イムズは「吹き抜け空間のアート展示」(2004年度受賞)「閉館を告げる懸垂幕」(21年度受賞)も含め計3度、賞を授与されている。
8月、四半世紀の歴史に幕を閉じた大型商業施設「マリノアシティ福岡」(西区小戸)も01年度に栄誉に輝いた。観覧車が地域のランドマークだった。早良区の吉田聡美さん(38)は「子ども時代から通った。景観賞に選ばれた『福岡の顔』として多くの人に愛されてきたことは誇らしい」と振り返った。
当初の受賞作は重厚
賞はバブル期の真っただ中に創設された。豊かな世相を背景に、機能や効率性だけでなく「ゆとり」「潤い」を求める市民の声がきっかけだった。
市都市景観室によると、毎回200~300件の応募があり、専門家10人でつくる審査委員会が20件程度に絞った上で、委員全員が実際に見て回って選考する。10年度までは毎年、その後は隔年で授与している。
当初の受賞作は、重厚できらびやかな建物が目立った。「福岡銀行本店」(中央区天神、1987年度受賞)「西日本渡辺ビル」(同、88年度受賞)「福岡タワー」(早良区百道浜、89年度受賞)などだ。
バブルが崩壊した90年代以降は、ソフト面を重視する社会の風潮を背景に「西鉄100円バス」(2000年度受賞)や「美しい奈多海岸づくり」(03年度受賞)「博多祇園山笠」(23年度受賞)といった企業の営みや伝統行事、自然保護活動が対象に加わった。同様の賞は長崎市や高知市など各地にあるが、福岡市は分野の広さが際立っている。
一方、イムズやマリノア以外にも「日本たばこ産業九州支社」(中央区大名、1987年度受賞)「福岡シティ銀行(現西日本シティ銀行)本店」(博多区博多駅前、同)など、市の発展をけん引してきた受賞作が相次いで姿を消した。建築物以外も合わせ、その数は1割に当たる20件。存続不明の行事や取り組みも21件に上る。建物が更新期を迎えているなどの事情があるにせよ、多くの受賞作が過去のものとなっている。
賞の足跡に流行反映
賞ができて以降、福岡市の人口は50万人増加した。受賞作が消えていくのは、都市の新陳代謝の裏返しともいえる。イムズと西シ銀本店の建て替えは、再開発促進事業「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」がそれぞれ後押し。マリノアの閉館は、競合する商業施設の相次ぐ進出や、ネット通販の普及といった消費行動の変化が影響した。30回目の節目となった昨年度は、天神ビッグバンで誕生したホテルなどの複合ビル「福岡大名ガーデンシティ」(中央区大名)が受賞した。
福岡市の都市観察を続ける九州大(同市)の藤原恵洋(けいよう)名誉教授(建築史、文化財学)は「福岡市は民間資本による商業集積が活発だったため、消費動向や評判、流行が賞の足跡に如実に反映されている。興味深い」と分析する。その上で「都市景観を形成する未来の街づくりに何が必要か、行政主導や商業資本優先ではなく、市民参加で問い直す時期に来ているのではないか」と指摘した。
ご参考まで【藍蟹堂藤原惠洋による当初コメント】
元来、景観という考え方は私たちの視覚が捉える景色や風景の「景」と価値観の「観」から成るもの。「良好な景観」や「美しく風格のある」といった耳障りの良い都市景観の「基準」は、今から20年前2004(平成16)年、景観の整備・保全を目的に公布された景観法に準拠するものの、主観的な評価や共通理念を設けてしまう場合が少なくない。
福岡市では福岡空港将来構想やよかトピア博を前提とした総合計画第2次基本構想・第6次福岡市基本計画が策定(1988(昭和63)年)された前年に都市景観条例が制定され、市民啓発へ都市景観賞事業も始められた。当時の景観行政は景観形成に加え建築物や広告物の規制が課題であったが、福岡市は民間資本による商業集積や界隈づくりが活発に展開したため、消費動向や評判・流行が社会的評価の下支え役となり、都市景観賞の足跡に如実に反映されており興味深い。
しかし都市景観とはいったい誰にとっての価値なのか、未来へのまちづくりに何が必要か、行政主導や商業資本優先ではなく、多様な市民参加で問い直す必要がある。
藤原惠洋 ふじはらけいよう 九州大学名誉教授、工学博士。2012年〜2021年文化審議会にて世界文化遺産を担当。現在も福岡県文化芸術振興審議会委員、人吉市景観審議会会長、日田市文化的景観委員会委員長等をつとめる。
▶福岡市都市景観賞の受賞作品
以下、写真はすべて西日本新聞デジタル版より























