NHK 20140904
旧門司駅の遺構保存で警告文 イコモスが公表
北九州市が複合公共施設の建設に伴って取り壊す予定の旧門司駅の遺構の保存を求めて、ユネスコの諮問機関、イコモスが「ヘリテージ・アラート」と呼ばれる警告文を出しました。
北九州市門司区では、明治時代に開業した旧門司駅の機関車庫の基礎部分などとみられる遺構が去年、見つかっています。
北九州市は、周辺の公共施設の老朽化などを理由に、遺構のデータを記録したうえで取り壊して、区役所や図書館が入った複合公共施設を整備する計画です。
この遺構をめぐり、フランスにあるユネスコの諮問機関、イコモスが「ヘリテージ・アラート」と呼ばれる警告文を出し、4日、公表しました。
警告文では、遺構について「近代門司誕生の地の再発見という、重要な歴史的価値を持つものだ」などとしています。
そのうえで、「文化遺産を軽視していることを深く遺憾に思う」などとして、市に建設の中断などを求めているほか、文化庁や福岡県には、市が適切に価値を評価できるよう、助言や指導を行うことを求めています。
イコモスは、これまでにも保存を求める声明文を出してきたほか、日本の国内委員会も「国の史跡に値すると考えられる」などと指摘していました。
イコモスの国内委員会の副委員長を務める九州大学の溝口孝司教授は「アラートが出たことは国内外にこの状況が知られることになり、大変不名誉なことだ。市には真摯な対応を強くお願いしたい」とコメントしています。
一方、北九州市の武内市長もコメントを発表しました。
この中で、アラートの発出について「文化遺産の保存と保護に関わる立場からの大切な意見と認識している」としています。
そのうえで、「さまざまな観点から検討を行ったが、集約予定の公共施設の老朽化は待ったなしの状況だ」などとして、事業を計画どおり進める考えを改めて示しました。
【ヘリテージ・アラートとは】
イコモスは世界遺産の認定などに関わるユネスコの諮問機関で、「文化的資産が直面している危機に対して、保全と継承のために出される声明」として、「ヘリテージ・アラート」を出しています。
イコモスの国内委員会によりますと、アラートは今回を除いてこれまでに世界で24例出されているということです。
このうち、日本では、▽おととし東京・港区の鉄道遺構「高輪築堤跡」の保存を求めて発出されたほか、▽去年は東京・明治神宮外苑の再開発を対象に出されるなど、これまでに3例出されています。
アラートに法的な拘束力はありませんが、国内委員会によりますと、アラートが出たあとに建築物の保存が決まった例もあるということです。
「ヘリテージ・アラート」の持つ意義について、イコモスのメンバーを務める九州大学の福島綾子准教授は「アラートは相当な状況でないと出ないものなので大変不名誉なことだ。それを国際社会に広く知らせることになるので、本当に重大な問題だ」と指摘しています。
【これまでの経緯】
遺構は去年発見され、1891年・明治24年に開業した旧門司駅のものとみられる機関車庫の基礎部分やレンガなどが確認されています。
このうち機関車庫は、元の海岸線をまたいで建設されています。
海側には、丸太を敷いて地盤沈下を防ぐ江戸時代の技術が使われている一方、丸太の上には近代的な西洋の技術であるコンクリートが流し込まれていることから、時代の変わり目が感じ取れる作りとなっています。
専門家などからは、こうした技術的な観点や、旧門司駅をはじめとした鉄道が日本の近代化や産業革命のけん引に貢献したことなどが評価されています。
一方で、この場所に建設される複合公共施設は、周辺にある区役所や図書館など、老朽化している複数の公共施設を1か所に集約することで、公共施設の面積を減らすほか、周辺のにぎわい作りにつなげたい考えです。
現在の門司区役所は築94年で老朽化が激しく、壁のひび割れや雨漏りが至る所で見られるほか、階段が多く、狭いことからバリアフリーの対応が難しい箇所もあります。
北九州市は、市議会の要望を受けて追加の発掘調査を行っていますが、遺構を取り壊して施設を建設する方針は変えていません。
これまでに武内市長は「施設の老朽化は待ったなしの状況だ。市民の安全安心が第一という考えのもとで、責任を持ってしっかりと進めていく」と述べるなど、計画の意義を強調してきました。
これまでの取材では、市の複数の幹部が「アラートが出されたとしても計画は変えない」と話していましたが、新たな局面を迎えたなかで改めて今後の対応が注目されます。