9/14 18:00〜19:30 映像を通して再会できました!!!
20240915新井英夫くんへ 藤原惠洋メッセージ
昨夜9月14日(土)18:00〜19:30 YCAMで「とけていくテクノロジーの縁結び」映像作品を鑑賞しました。
私+連れ合い(藤原馨)+河村一郎さん(山口県山陽小野田市在住の仙人・元半導体エンジニア)
会場は前後の観客席をさらなる善男善女が埋め尽くす、おお盛会ならん。
当日のプログラム仕立てを事前に知らず、午後2時半、会場へ自家用車で到着。
暑さを凌いでいたら、15:00〜17:00 事前にフォーラムがあるとのこと。それじゃ聞こうかと会場で合流した山陽小野田市の仙人河村さんと聴講へ。会場は盛会ならん。
フォーラム「Art for Well-being-表現とケアとテクノロジーのこれから」
スクリーン向かって右手に自動音声認識システムを利用した字幕あり。素早さに驚く!これはえ〜わい(AI)。途中で、「工学」を経費がかかる「高額」とまちがってくれて愛嬌あり!
冒頭、一般財団法人たんぽぽの家の小林大祐さん、たんぽぽの家ならびにArt for Well-beingプロジェクトの説明。アートやケアを通して障害のある人の生きる力を高めること、誰もが生きやすい社会をデザインする、とわかりやすい。
続く緒方壽人(デザインエンジニア、Takrmディレクター)さんは私たちがいつ何時、病気や事故にあったり、加齢・高齢化しても、引き続き表現活動を継続していくことができるようにVRやMRを用いながらサポートできると実践を紹介、とりわけたんぽぼの家の障害のある人たちとの試行的取り組みを報告。
一方、今回の取り組みを会場=場として支援するYCAMアーティスティック・ディレクター、YCAM では20年来教育普及を担当してきたという会田大也さん、YCAMにおける表現とテクノロジーの多彩な取り組み事例を積み上げてきたことを報告。
その後、ディスカッションの進行は情報科学芸術大学院大学[IAMAS] 教授の小林茂さんがつとめ、三者の報告に、表現とケア、ケアとテクノロジー、テクノロジーと表現といった共通するものが見えてきたと整理しながら、三者に課題や今後の可能性を問いました。障害のある人やそのケアに携わる人、Well-beingを高めるためのエンジニアやデザイナーの創意工夫が評価されながら、表現とケアとテクノロジーの課題や今後の可能性が闊達に論じられた。
ただし惜しむらくは、せっかく「とけていく・・・・」映像作品上映会を前にしたフォーラムなら、新井英夫くんが遠隔zoomあたりで登場してくれて、ALSだけれど相変わらずのダジャレや落語家ともおぼしき語り草を発揮する姿を見せてくれればさぞかし良かった。被写体になった生身の人間が、すぐ向こうに登場してくれれば、まさに「解けていく」のに〜〜(おそまつ)。
さて小休止の後、いよいよ上映、作品鑑賞へ。
う〜む、私は発病後再会できないままコロナ禍で「安寿と厨子王」状態になっていたこともあり、このような新井くんを見たのが初めて。そのため電動車椅子の姿を固唾を飲んで集中的に把握せねばと凝視。
みずから実験公演と命名したというが、車椅子に乗っていることを忘れるほどに、ジャワ舞踊家の佐久間さんとパートナーのバンバン(板坂)さんと繰り広げるしなやかなコンタクト・インプロビゼーションとも言えるダンスは見事だった。
野口三千三先生直伝の野口体操を伝授されたうえで、ありとあらゆる条件に向け、体奏家として、ファシリテーターとして、コミュニケーターとして、エデュケイターとして、身体表現と身体を媒介としたひとつらなりの創造活動を所狭しと日本各地で展開してきた新井くん。
彼が突如として難儀な病魔に襲われたことを遅れて知り、遅れて愕然としていた私も、風の噂にご加護を得て蘇りだしたと聞いたからこそ、この作品をぜひ見ておきたいと考えた。
しかし、映像では、すでに上半身も下半身も、そして頭を支える首さえも力をこめることができず自律できなくなっている姿を直視せざるを得なかった。
軽やかに上半身のぶら下げやおへそのまたたきを楽しむ野口体操の美しい動きや脱力の追体験を、誰もが実感できるように巧みに指導してきた体奏家としての新井くんだったが、そうした記憶を過去のこととして思い出さざるを得ないのか、と衝撃的だった。
がしかし三者が相互に関わり、触れ合い、支えあう動きの中で、表現者として見せる新井くんの顔や目玉・眉毛の動き、手首の動きや指先のくねりかた、そしてつぶやかれる軽妙な言葉遣いはかねての体奏家の語りとなんら変わりない。
三者のコンタクトを終え、汗を拭ってもらいつつ、その後の場面では電動車椅子から立ちあがろうとする姿を見せながら、今ならまだ立って歩けるから記念に見ておきましょうと観客席へ共感を誘う。しかし複数の介助者を従えても電動車椅子から立ち上がるのも容易ではなく、私はそのおおいなる困難さを初めて知り、車椅子へ無事着地できるかどうか、目を覆うばかりにはらはらしながら映像を見つつ衝撃を感じた。
さて後半、ようやく新井くんらしい本領発揮のシーンが展開した。
ザーザーと波打ち際の音や雨降りのような音を発するレインスティックがダンスに仕込まれる。ジャワ舞踊の佐久間さんは長いスティックを背筋にまっすぐ添えるようにガムテープでぐるぐる巻き。新井くんも首の周りに巧妙にセットし、両者が前後や左右へ揺さぶるたびにインドネシアの波濤が響き渡る。
さらに公演会場には、新井くんの首の揺さぶり動きにシンクロするように回転するレインスティックが複数台設置されており、緩急に合わせ、波が重なり合い、スコールが降り立つような音の演出がなされていく。
その後、身体に付帯されていたレインステックが外されつつ、佐久間さんの手が新井くんの足首をゆっくりと優しく丁寧にひっぱりあげ捻ったり引きずっていくコンタクトに転ずるが、おお、これは野口体操の定番「ねにょろ」の中の死体のポーズだ、と懐かしくなる。床に横たわる新井くんの下半身はすでに脱力しており、まさににょろにょろと佐久間さんの動きに任せているものの、佐久間さんが新井くんのからだを横へやや無理に捻りそうになるとスクリーンに引き寄せられた私までもが大丈夫か、と案じてしまう。
かねて野口三千三先生にご指導いただきながら直に私も何度も「ねにょろ」を楽しんだ。仰向けになった私の足首手首を介助する相方がゆっくりと持ち上げ、水平面内・左右に揺すっていく。私のからだは皮膚の袋の中にたっぷり入れられた水溶液の中に五臓六腑がぷかぷかと浮かんでおり、小さなエネルギーを波のように送り届けながら体全体を揺すっていくと波動が隅々まで行き渡る。そのイメージを繰り返しながらからだに振動や波動として伝えていく。じつに気持ち良いのだ。そんな「ねにょろ」の発展形として、床の上をずるずると引きずられる死体のポーズもおおいに楽しんだ。介助の相手方を信頼してすべてを任せるという相互関係を体感できる。これこそコンタクト・インプロビゼーションの祖型とも言える野口体操を楽しむ醍醐味だった。
佐久間さんも新井くん相手に、この死体のポーズを施していたのだと思うが、ちょっと心配した。先に足首・手首をゆっくりと揺らしだす「ねにょろ」のエチュードを見せてから死体のポーズに転じた方が、見る側にとっても安心感を担保できよかったのではないか。
続く光と影による空間異化作用の演出は、1980〜90年代前衛演劇集団「電気曲馬団」の座主・演出家・役者・舞踏家・ダンサーでもあった新井くん自家薬籠中の創意工夫を思い出させるもの。場を生み出す床・壁・天井・窓へ強弱・拡散の光や灯りを投影し、揺らぎや濃淡を醸し出す陰影を演出に加担させてしまうものだが、寝たきりのからだに発光体をどう設置するのか、どう光と影で物語るのか、小さなこどもの影絵遊び以上にそう簡単に予定調和の演出とはいかずハラハラしながらこのシーンを鑑賞した。
共演の佐久間さんがジャワ舞踊家だったのなら、ワヤンクリッ(Wayang Kulit)のインドネシア影絵の効果や語りをもっと巧みに取り入れてもよかったかもしれない、と思った。
さて再び新井くんが電動車椅子に座した状態でフィナーレ。会場が明るくなった。この時間を過ごしたおかげで、舞台が始まる前と今とではALSの体奏家新井くんの印象が異なって感じられた。
陰になり日向になりパートナーの板坂さんが人形浄瑠璃の黒子のような呼吸と動きで安全に支えていたことをはじめ、佐久間さんの柔らかな動きと新井くんを優しく包み込む表情が映像観客の私たちにも伝播し、なにかれと難儀な病人をケアする・介護する、のではなく、共に呼吸し、共に眼差しを交わし合い、共にダンス作品の舞台を作り出そうとする共演者たちの見事なコラボレーションの振る舞い表現が脳裏に残った。
そしてその中の動く王座とも言える電動車椅子に座した不思議な主人公として、新井くんは困難な病と疎外感に打ち震えることなく、ケアや介護の手厚さに申し訳ないと萎縮することなく、晴れやかな趣きの口調で、障害を得たうえでの企てと自己省察を的確に縁取る表現者=自己説明・自己納得を果たしていた。
安堵しうる仲間たちに支えられながら、みずからを語り、みずからを伝える、そしてみずからを踊る、そこから三者で優れたコンタクト・インプロビゼーションを産み落とした成果の滴(しずく)として、額に気持ちの良い汗を流していた。とけていく、とはまさに「溶けていく」と同時に「解けていく」であり「説けていく」でもあったにちがいない。(さらに、おそまつ)文責:藤原惠洋(40数年前、新井英夫くん文学部学生時代のオルタナティブな「書を捨てよ町へ出よう」美術史講師。九州大学名誉教授/建築史学・文化政策学)
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