20240714 西日本新聞 古川努記者
門司鉄道遺構の解体、危機感広がるレトロの街 北九州市の説明会「考え直して」全員挙手
北九州市の開発計画によって門司区で出土した明治期の初代門司駅関連遺構の解体が決まったことに対し、九州有数の観光地「門司港レトロ」を育ててきた街づくり団体内に、土壇場になって異論が広がっている。6月下旬に非公開で行われた団体向けの説明会の音声データを西日本新聞が入手。会場の空気は「開発ありき」の市へのいら立ちと、レトロの街の雰囲気が崩されかねないという危機感が占めていた。
ある女性の訴えを拍手が後押しした。
「レトロ地区は30年の歩みがある。国の重要文化財の門司港駅を中心に歴史的建造物を保存活用し、街並みに生かし、ここまで歩んできた歴史がある。今回、門司港駅に関係する遺構が見つかった。当然、保存活用するべきだ」
6月28日夕、門司区内。市は、門司港レトロの草創期から関わる1985年設立のNPO法人「門司まちづくり21世紀の会」や、景観保全に取り組む「門司港まちなみづくり協議会」などへの説明会を開いた。出席者は約40人。約2時間の音声データには、その一部始終が記録されていた。
遺構は門司港レトロの主要施設、JR門司港駅と九州鉄道記念館の間に位置する。地元関係者によると、これまで官民協働でまちづくりが進められたレトロ地区には「遺構や開発計画への意見がはばかられるムードがあった」という。だが、この日は計画見直しを求める声が大勢を占めた。
風向きを変えた要因の一つは学術界の動きとみられる。多くの学会が保存を要望し、「国史跡級」と評価。国際記念物遺跡会議(イコモス、本部・パリ)は、市の対応次第で国際的緊急要請「ヘリテージ・アラート」を発出する構えだ。
説明会で市担当者は一貫して開発推進を強調。遺構の経済効果を尋ねると「全面保存できないという前提に立っているので試算していない」、門司港レトロについては「観光地として非常に重要だが同時に住んでいる方々も大事。同じくらいというか、そちらの方が大事」と述べた。
音声データには、会場のいら立ちのムードも記録されていた。
説明会終盤、ある男性が「いったん立ち止まって考え直したほうがいい人は」と声を上げた。出席者によると、全員が挙手したという。男性が「この圧倒的多数を議事録にしっかり残しておいてほしい」と念押しすると、市担当者は「この会の数字として把握しておく」と返した。 (古川努)
旧門司三井倶楽部(中央)やJR門司港駅(右上)に近い明治期の初代門司駅関連遺構の発掘現場(左上のブルーシート部分) (西日本新聞)