20240401西日本新聞 古川努
門司の鉄道遺構出土 北九州市の複合公共施設計画どうなる? 両立求める声も
北九州市門司区で出土した明治期の鉄道遺構の影響で、現地で北九州市が整備予定の複合公共施設にも注目が集まっている。市は遺構を取り壊し、その上に区役所と図書館、ホールを集約した5階建てビルを建設し、コスト削減と利便性の向上を図る計画だ。市が説明する地元の声は「一刻も早く建設を」。だが、多くの識者が「国史跡級」とも評価する遺構への関心も高まり、保存と施設整備の両立を求める声も上がり始めた。民意はどこに向かうのか。
「コスト面で言うと約3割縮減できる」。武内和久市長は1月25日の記者会見で、施設整備のメリットをこう強調した。
市建築都市局(1日から都市戦略局)の2022年時点の試算では、門司港地域の老朽化した公共施設をJR門司港駅近くに集約することで、約2億9千万円かかっている年間の維持管理費を8千万円程度削減できるという。施設の床面積の6割は区役所と港湾空港局の庁舎が占め、ほかに図書館とホール、会議室が入る。
全体事業費は103億8800万円(うち本体工事費78億3千万円)で、供用開始は27年度。18年10月時点では同77億1千万円(同64億円)と試算していたが、物価や人件費の上昇で膨らんだという。
建築都市局は昨年11月末、実際の工事に関する設計図や費用をまとめた実施設計を作成したが、そこで試算した最新の事業費は非公表のままだ。物価高騰の影響で、事業費はさらに膨らんでいるとみられ、市議会でも開示を求める声が上がるが、同局は「本体工事の予算化に合わせて公表する。時期は未定」としている。
「声」の根拠は
「区役所が坂の上にあって不便」「バリアフリーが不十分」「早く耐震化して安全な建物にして」「一日も早く完成させて」-。これが武内市長が語る市民の声の代表的なものだ。
市は14年以降、アンケートやパブリックコメント(意見公募)、意見交換会などで住民の思いを丁寧にくみ取ってきた。ただし、遺構出土後は市民への説明も意見聴取の機会もない。同局によると「電話の問い合わせで聞き取ったものがある」のみだという。
最新のまとまった「民意」としては、22年3月実施のパブリックコメントがある。市はホームページで354件の意見を公開中。これを読めば、市長が語る地元の声と同様の意見のほか、巨額の事業費や高潮への懸念も入り交じり、賛否両論であることが分かる。
安全性に関しては、施設ごとに事情が異なる。旧耐震基準の施設は港湾空港局庁舎(1965年建築)と門司市民会館(57年建築)で、市民会館は客席天井の補強が完了している。最も古い区役所(30年建築)は耐震補強済みだ。
戸惑いと変化と
2月20日~3月25日の市議会定例会を経て、市の姿勢に変化も表れている。遺構出土後、住民への説明をせずに着工する構えだったが、市議会正副議長から「丁寧に市民と議会に説明すべきだ」との申し入れもあり、同局は「形式や時期は未定だが、市民への説明を検討している」という。
一方、地元では2~3月、専門家の講演会が相次いで開催された。世界文化遺産の評価を行う日本イコモス国内委員会が共催した緊急シンポジウムでは、施設内で遺構を保存する「折衷案」が選択肢として提示され、これが民意に影響を与えている可能性もある。
「遺構保存か、施設建設かの二者択一だと思っていた。両立できるならそのほうが良い」。門司区大里東校区の佐々木二郎自治連合会長は「遺構を見て、私たちの先祖が暮らした明治の門司港の風景が目に浮かんだ。今の区役所は坂の上で不便だから便利な場所に移動してほしいが、遺構も保存してほしい」と望む。
この両立策について建築都市局は「現地に一部遺構を残す場合、計画見直しで(施設整備は)3年間遅れ、少なくとも5億円の費用が必要」と説明する。いかに価値ある遺構でも、未来に残すには時間と費用がかかる。
小森江東校区の都城(みやしろ)俊彰自治連合会長は「住民が遺構の価値を知らないまま、どんどん事が進んでいく」と困惑しながらも、訴える。「遺構は1度壊せば元に戻せない。いったん立ち止まって住民説明会を開き、意見を聞いてから結論を出してほしい」。未来の古里をどう描くのか。門司港の住民は、その岐路に立つ。
(古川努)


















