
北九州市門司区の複合公共施設整備予定地で出土した明治期の鉄道遺構に関し、「一部移築保存」とした武内和久市長の政治判断の学術的根拠が揺らいでいる。学会からは現地保存の要望が相次ぎ、市が判断材料とした専門家6人のうち5人が現地保存を求める中、市が「移築して一部保存」の意見を出したと説明する唯一の専門家も、西日本新聞の取材に「現地での部分保存が理想」と回答した。
25日午前、武内市長は記者会見で一部移築保存の方針を明らかにし、専門家の「遺構の一部移築保存を行うことも考えられる」との見解を紹介した。だが、その政治判断の根拠となる「専門家」の名前は非公表とした。
武内市長は「本人の希望で詳しい経歴や実績の公表は控えてほしいと申し出があった」と釈明。だが、市側は午後、報道各社の求めに応じ、現地保存を主張した市文化財保護審議会委員5人の個別意見とともに、「専門家」を公益社団法人土木学会フェロー会員の小野田滋氏と明らかにした。
西日本新聞は小野田氏に取材を申し入れ、メールで29日に回答を得た。それによると、小野田氏は「個人的な見解なので個人名や所属を出さないよう市にお願いした」と真意を説明。その上で「現時点では『現地での部分保存』という着地点が理想と考える。九州の鉄道の歴史をたどるエリアとして、総合的な視点での保存が重要」と強調した。
さらに「私の意見は一案に過ぎない。ほかの専門家の意見や市民のアイデアを集め、合意形成を模索すべきだ」とし、「市側としては、最も影響が少なく保存の意見にもある程度応えた『移築保存』にとどめたいということかと思うが、合意形成をどのような方向へ持っていくのかが今後の鍵」との見解も示した。
この遺構を巡っては、鉄道史学会や都市史学会などが現地保存を求める要望書を提出。29日にも九州産業遺産研究会(会長・時里奉明筑紫女学園大教授)と、NHKの人気番組「ブラタモリ」にも協力したNPO法人「北九州市の文化財を守る会」(宇野慎敏理事長)が連名で要望書を提出した。
この要望書では「近代日本の発展を伝える、九州最高級の記念碑的遺構」と評価。時里会長は「門司港レトロの新たな魅力となる地域の宝。移築決定はあまりに性急すぎる」、宇野理事長は「日本の近代化の波が九州に上陸した地を示す貴重な遺構。その価値を分かってほしい」とそれぞれ指摘している。
武内市長は移築保存とした理由について、25日の会見で「施設の早期完成を望む地域、公共施設マネジメントを着実に進める行政、鉄道遺構を保存すべきだとする専門家の三方良しとする方策を考えた」と述べた。 (古川努)
写真 西日本新聞古川努記者撮影
表 西日本新聞記事中掲載資料

















