

TSMCが呼び水 半導体企業熊本に進出加速…21年度以降30件超 生産拠点集積に期待
熊本県で半導体関連企業の進出が加速している。半導体受託製造大手「台湾積体電路製造」(TSMC)の進出が呼び水となり、2021年度以降で工場の新増設などは30件を超えた。世界的に不足する半導体は、政府も国内生産を後押ししており、生産拠点の集積に期待が高まっている。(橋谷信吾、有馬友則)
「起爆剤に」
半導体工場向けに特殊ガスなどを供給するジャパンマテリアル(三重県菰野町)は29日、熊本県大津町と立地協定を結んだ。新工場は今年11月から操業を始める予定で、TSMCへのガス供給や配管施工などを手がける計画だ。
田中久男社長は記者会見で、「半導体が必要なくなる時代は絶対来ない。九州のシリコンアイランド再構築の起爆剤になりたい」と意気込みを語った。
TSMCは24年12月に出荷を始める熊本県菊陽町の新工場で、製造する半導体の部品などの5割を国内で調達する方針を示している。これを受け、熊本県によると、半導体関連企業の新増設などの立地件数は21年度に過去最多の22件となり、22年度も10件に上っている。
富士フイルムは9月、熊本県菊陽町の工場内に、最先端半導体材料を生産する設備を新設すると発表。半導体の製造に必要な化学薬品の物流を手がける日陸(東京)も9月、熊本県大津町に新たな拠点を設ける方針を示した。
半導体製造で発生するガスの浄化機器を生産するカンケンテクノ(京都府長岡京市)は、熊本県玉名市に工場を新設する計画だ。台湾でTSMC工場の施工を手がけた実績があり、担当者は「TSMCの工場が稼働するまでに完成させたい」と話す。
用地確保が課題
九州フィナンシャルグループの試算では、TSMC進出に伴い、県内で約80社が拠点を構えるか、工場を増設する見通しだ。ただ課題は工場用地の確保だ。相次ぐ進出で足りなくなっており、用地不足は半導体産業の集積のチャンスを逃しかねない。県は26年度までに計約50ヘクタールの工業団地を菊陽町の近くで整備する計画だ。
地方経済総合研究所(熊本市)の漆嶋秀郎主任研究員は、「TSMCの進出で半導体の供給網構築は進むが、人材育成と土地の確保はすぐに解決できる問題ではない。官民での取り組みが必要だ」と指摘している。
「土地がない」熊本・菊陽町、半導体バブルで悲鳴200社の問い合わせ殺到、交通渋滞の解消に全力
着々と工場建設が進んでいる(写真:町民提供)
世界的な半導体不足が続く中、いま、熊本県がアツい。世界最大の半導体受託製造企業、台湾積体電路製造(TSMC)が、熊本県菊陽町への進出を発表。投資額は1兆円超(日本政府が最大4760億円補助)と巨額だ。
以降、同町と周辺自治体への進出を希望する企業が相次ぎ、工業地をはじめとする地価が急上昇している。さながら菊陽町を中心とした"半導体バブル”の様相を呈している。
TSMCの工場は2023年後半に完成、2024年に出荷開始を計画している。昨年12月にはアップルのティム・クックCEOが菊陽町のソニーグループ企業の工場などを訪問、今年に入ると熊本県知事が台湾のTSMC本社を訪れるなど、ここへきてにわかに動きが活発化している。
水、アクセス、安価な土地、半導体関連企業が揃う
TSMCが進出を決めた菊陽町は、総人口が4万3714人(2022年12月末)。昭和の時代には1万~2万人という規模だったが、半導体関連などの企業誘致や、商業施設の整備など居住性の向上で平成、令和以降も増加し続けている。
TSMCが菊陽町に白羽の矢を立てた背景にはさまざまな要因がある。菊陽町に限らず熊本全般に言えるのだが、まずは半導体生産などに欠かせない良質な地下水が豊富にあること。それも県の地下水保全条例で事業者に涵養計画の提出、実施が義務付けられるなど管理が徹底されている。
次に交通アクセスの良さ。菊陽町は阿蘇くまもと空港から約10分、九州自動車道熊本ICからも約10分の距離。福岡市へも車で100分程度だ。車で1時間ほどの八代港からは台湾に向けて国際コンテナ定期航路があり、八代港から台湾への輸出は3日で可能となっている。
土地の取得コストも首都圏に比べ破格的に低い。国土交通省の都道府県地価調査(2020年)によると、住宅地は東京の約13分の1、商業地は同約14分の1、工業地は同約20分の1となっている。そのため、これまでに多くの企業が熊本県や菊陽町に進出してきた。
菊陽町には、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(SCK)、富士フイルム九州、熊本ニチアス、SUS熊本事業所などの半導体関連企業がある。TSMC工場建設地の隣にSCKの工場があり、ソニーグループはTSMCと菊陽町に設立した生産子会社(JASM)への570億円の出資を公表している。菊陽町におけるSCKの存在、そしてアップルとの強固な関係などがTSMCの菊陽町進出の決め手になったのだろう。
半導体製造の世界最大手の進出が決まったことで、菊陽町と周辺の地価が急上昇している。2022年の地価調査の結果を見てみよう。全国一の上昇率(31.6%)となった工業地(9-1)は、1平方メートル当たり前年の3万4200円から4万5000円に跳ね上がった。
この10年間の変動率を見てみると、2019年まではマイナスかゼロ圏だったのが、2020年以降1.2%、2.4%、そしてついに2022年には31.6%と急上昇。TSMC進出発表以降、県内の半導体関連産業で工場の新設や増床が相次いでいることが上昇に拍車をかけた。
菊陽町は住宅地(菊陽-3)も8.8%(前年は2.3%)で県内の上昇率トップ、商業地(菊陽5-1)も13.6%(前年は3.9%)で県内1位の上昇率となった。あらゆる用途の地価が急騰しているのである。
問い合わせ殺到も新たな悩み
TSMC効果で菊陽町の名前は全国区の知名度となり、地価はバブル状況となっている。進出発表以降、全国各地から企業立地がらみの問い合わせや相談が殺到している。地元の熊本銀行にはこれまで国内外の半導体関連企業など約200社から「菊陽町に土地を確保したい」といった相談が寄せられたという。
しかし、ここで新たな悩みが出てきている。菊陽町には企業立地のために提供できる土地がほとんどないというのだ。役場の担当者がこう説明する。
「町内の土地の多くは農地を守るために開発が厳しく制限された農業振興地域に指定されているため、企業進出に必要なまとまった規模の空いている土地はほとんどないのです。そのため問い合わせは多くいただいていますが、(TSMC以降に)新たに進出が決定した企業は今のところありません。なんとかニーズにお応えできるように取り組んでいきたいとは思っていますが、すぐというわけにはいかないですね」(菊陽町商工振興課)
そんな状況を尻目に県内の他の自治体で誘致の動きが活発化している。1月25日には八代港や九州新幹線・新八代駅がある八代市の中村博生市長が定例会見で「TSMCの熊本進出を契機とした市町村間の企業誘致競争などを踏まえ、新八代駅周辺の物流・人流拠点機能を高めるとともに、将来を見据えた企業誘致の整備を進めていく」などと語り、新八代駅周辺及び企業誘致用地整備推進本部を設置したことを明らかにした。
県や国もイケイケドンドンだ。熊本県はTSMC進出を機に半導体産業集積強化推進本部を設置し、受け入れ環境整備に取り組んでいる。1月11日から14日にかけて蒲島郁夫知事や経済団体を中心としたメンバーが台湾を訪問し、TSMC本社で同社幹部と面談。県の取り組みを説明したほか、経済交流セミナーを開催するなど積極的に熊本をアピールした。TSMC幹部との面会後、蒲島知事は「相互信頼という意味でとてもいい機会だった」などと語った。
住宅、交通インフラの整備が進む
TSMC新工場の2025年時点での従業員は約1700人体制となる見込み。そのうち新卒・中途採用は約700人で、その他はTSMCやソニーグループからの出向者、アウトソース(外部委託)とみられている。23年春の新卒採用は100人超で地元大学からの内定者が多いと報じられている。
住宅や交通手段について、町は「1000人規模の住宅需要を見込み確保に向けて取り組んでいます。交通渋滞の解消に向けても、無料バスの走行試験などを踏まえて関係機関と対策を進めていきます」(商工振興課)と受け入れ体制整備に追われている。
菊陽町を起点に熊本県、九州全体が半導体産業の集積・誘致で気勢を上げているといったところだ。肥後銀行などを傘下に置く九州フィナンシャルグループは、TSMCの熊本進出による経済波及効果が2022年から10年間で4兆2900億円になるとの試算を公表している。九州の"半導体バブル”が本格化するのはこれからである。
2023年5月9日 日経XTECH
4兆円超の経済効果を生むTSMC熊本工場、その巨大さを現地で体感
熊本空港から車で15分ほど離れた熊本県菊陽町で現在大規模な工事が実施されている。世界最大の半導体受託製造企業、台湾積体電路製造(TSMC)が過半を出資した「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)」の工場建設だ(図1)。2023年4月に熊本市で別件の取材があった。「熊本市に行くなら外せない」ということで、その建設現場を外から見てきた。

図1 JASMの建設現場熊本空港に着く直前の飛行機内からの写真(写真:日経クロステック)
田畑が広がる、のどかな道を車で進んでいくと、「セミコンテクノパーク」と記された看板が見えてきた。看板の案内に従って進んでいくと、巨大な建造物が突如姿を現した(図2)。

図2 JASMの正面図(写真:日経クロステック)
その建物の右肩には、「JASM」という文字が大きく描かれていた。この建物に続く道の左右には、全く違う景色が広がっていた。道の右手は田畑。視界を遮るものは何もない。一方の左手は要塞のようにそびえ立つJASMの建物だ(図3)。

図3 車内からの様子(写真:日経クロステック)
そのまま車を直進させ、工場の横を走った。JASMの社名が刻まれた建物は巨大な工場のほんの一部だった。この建物を通りすぎると、外壁こそまだできていないが、巨大な棟が見えてきた(図4)。後でJASMの完成イメージと照らしてみたところ、どうやら半導体製品を製造するFAB棟であったようだ。FAB棟の先にもう1棟建設中の建物があり、そこが敷地の端であった。工場の敷地面積は東京ドーム4.5個分に相当する約21.3ヘクタールで、FAB棟やオフィス棟といった4棟の他、ガスヤード、駐車場ができる予定である。

図4 JASMの正面やや右側からの撮影JASMの完成イメージと照らすと、正面のJASMが書かれている建物がCUP棟、その奥の建物がFAB棟だと思われる(写真:日経クロステック)
作業現場の出入り口を眺めていると、人やトラックがひっきりなしに出入りし、その流れが途絶えることは無かった。建設現場の近くには、建設会社の仮設事務所のような建物も建設されていた(図5)。

図5 建設現場から出てきた作業員の様子建設現場から出てきた作業員が奥に見える事務所のような建物に向かって歩いていた(写真:日経クロステック)
JASMの建設現場の近くにいた方に話を聞いてみると、「写真を撮りによく人が来ている」と言う。筆者が訪れたときも、写真を撮影している人を見かけた。

図1 JASMの建設現場
田畑が広がる、のどかな道を車で進んでいくと、「セミコンテクノパーク」と記された看板が見えてきた。看板の案内に従って進んでいくと、巨大な建造物が突如姿を現した(図2)。

図2 JASMの正面図
その建物の右肩には、「JASM」という文字が大きく描かれていた。この建物に続く道の左右には、全く違う景色が広がっていた。道の右手は田畑。視界を遮るものは何もない。一方の左手は要塞のようにそびえ立つJASMの建物だ(図3)。

図3 車内からの様子
そのまま車を直進させ、工場の横を走った。JASMの社名が刻まれた建物は巨大な工場のほんの一部だった。この建物を通りすぎると、外壁こそまだできていないが、巨大な棟が見えてきた(図4)。後でJASMの完成イメージと照らしてみたところ、どうやら半導体製品を製造するFAB棟であったようだ。FAB棟の先にもう1棟建設中の建物があり、そこが敷地の端であった。工場の敷地面積は東京ドーム4.5個分に相当する約21.3ヘクタールで、FAB棟やオフィス棟といった4棟の他、ガスヤード、駐車場ができる予定である。

図4 JASMの正面やや右側からの撮影
作業現場の出入り口を眺めていると、人やトラックがひっきりなしに出入りし、その流れが途絶えることは無かった。建設現場の近くには、建設会社の仮設事務所のような建物も建設されていた(図5)。

図5 建設現場から出てきた作業員の様子
JASMの建設現場の近くにいた方に話を聞いてみると、「写真を撮りによく人が来ている」と言う。筆者が訪れたときも、写真を撮影している人を見かけた。
くまもと半導体産業推進ビジョンを策定しました
TSMCの熊本進出を契機とし、今後、本県における半導体産業の更なる集積や新産業の創出等の波及効果を生み、県下全域における県経済の成長に結びつけていくため、「くまもと半導体産業推進ビジョン」を策定しました。
ビジョンでは、「半導体インフラを支え、挑戦し続ける熊本」を目指す姿として掲げ、具体的な取組の方向性として、「半導体サプライチェーンの強靭化」、「安定した半導体人材の確保・育成」、「半導体イノベーション・エコシステムの構築」という3つの方針を軸に構成し、それぞれの方針に重点取組みを設定しています。
今後、目指す姿の実現に向けて、本ビジョンに基づき、県、企業、大学等が一丸となった取組みを進めていきます。
また、ビジョンの策定に当たっては、本県のみならず日本や世界各国における半導体産業の現状や課題を把握するため、関連企業へのヒアリング調査や文献調査等を行いました。調査結果についても掲載します。
半導体産業調査結果 (PDFファイル:4.68MB)
ビジョンでは、「半導体インフラを支え、挑戦し続ける熊本」を目指す姿として掲げ、具体的な取組の方向性として、「半導体サプライチェーンの強靭化」、「安定した半導体人材の確保・育成」、「半導体イノベーション・エコシステムの構築」という3つの方針を軸に構成し、それぞれの方針に重点取組みを設定しています。
今後、目指す姿の実現に向けて、本ビジョンに基づき、県、企業、大学等が一丸となった取組みを進めていきます。
また、ビジョンの策定に当たっては、本県のみならず日本や世界各国における半導体産業の現状や課題を把握するため、関連企業へのヒアリング調査や文献調査等を行いました。調査結果についても掲載します。
半導体産業調査結果 (PDFファイル:4.68MB)
























