みなさま、藍蟹堂藤原惠洋先生がコロナ禍の嵐の中で、本年度末に九州大学を退職されようとしています。
常に禅問答のような議論を営んでこられた先生には、このたびも「辞めることを祝う」というのは壮大な矛盾とも言えて結構なことだ、が、実際にはコロナ禍の状況下で迂闊に三密会合などをしてはならない、逢いたくても逢えない、その気持ちを示すだけで良いのではないか、と厳しく自粛を求められています。薫陶を仰いだ教え子たちとしては、わずかな叡智を振り絞り、先生が長年願っておられた「樹下問答会」(じゅかもんどうえ)を基軸として、以下の退職記念の最終講義を二部構成にて開催することとしました。
第一部では、今年度、コロナ禍の中で緊急避難を余儀なくされた学部講義・大学院講義の補講を兼ねた最終講義を九州大学大橋キャンパス最大規模の511教室(5号館1階)にて開講します。テーマは「渾沌から創造へ」。適切な定員は70名となりますので、学生を優先させつつ、ご予約の方々から先着順といたします。
第二部では、藍蟹堂藤原惠洋先生が日本近代デザイン史上の再評価を試みてきた九州芸術工科大学創立・初代学長小池新二先生による箴言「大学は1本の樹があればどこでも生まれる」を体現すべく、キャンパス中央の玉楠の樹の下で、先生を囲み「樹下問答会」を開催します。テーマは「わたしたちはどこからきて、今どこにいて、これからどこへ行くのか」。集われたみなさまがたとの当意即妙な問答を時間の許す限りお楽しみください。
また、当日は、このたびのご退職を言祝ぐ関係のみなさまがたのご寄稿に基づく「藤原惠洋先生 九州大学退職記念誌 渾沌から創造へ」(2巻組、無料進呈) が発行されますので、どうぞお手にとってお読みいただきますれば幸いです。
最後に、本案内を記念して、20年ほど前の先生の小論をご紹介しておきます。
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藤原惠洋 小論「未建築な建築 エスキースとして」
1 建築の省察への径(みち)
建築をあらためて味わい直すこと。いくつかの出来事が偶然に符合するかたちで老境の私にもたらされている。自分を見つめる鏡など持ちはしないが、まわりに生じている状況をたぐり寄せながら、この偶然をどう必然に変えて行けるのか、ふたたびの省察よろしく考えてみるのも悪くない。
1970年代に学生として建築を真摯に学ぼうと志した頃、鉄とガラスとコンクリートという素材に基づく近代主義(モダニズム)建築が前提とされていた。わずか数年の後、その禁欲ぶりが諧謔的に乗り越えられようとして、いわゆるポスト・モダニズム建築が流行り出した。当時は十分に無垢だった建築学徒にとって幸いだったのか不幸だったのか、今もって知る由もない。なぜなら熱情的な思いをもって建築デザインの世界に漕ぎ出そうとしながら、わずか数歩踏み込んだだけで頓挫してしまったからだ。建築外に理由を背負って、なにも果たせぬまま、いち早く私は建築デザイン世界の傍観者を決め込んだ。
つまり創らず、手を染めず、近寄らず、常に建築を内省すること。長い間、私がとり続けたスタンスは省察への径を掃き清める小坊主のような態度にほかならない。
2 小屋への偏愛
だからなのか。建築ではなく、小屋への偏愛がある。しかも私はそれらを小屋とは呼ばず、未建築な建築、と長らく称してきた。完成度や建築デザインの強度のようなものを直視せず、むしろ未完成さや未成熟さを念頭に置きながら、それらをゆっくりと愛でてみようという嗜好である。
ところで人の成長を見る言葉に「ビルドゥングスロマン」という概念があるように、人間的成熟と建物を構築していくことが、すこぶる近似していることは興味深い。ヒトとして成長し、道徳的に立派になることが社会的には是とされることと同じく、構築されるものには予定調和とも言える設計行為や丁寧な細部の納まりが戦略的に用意される必要がある。本来の建築デザインとはこのように誇らしげな作業を言うのだろう。律儀な建築学徒として奮闘していた頃の記憶を辿っていけば、そのことはどこかでわかっていても、実際の設計行為の現場には数えきれないほどの外的要因のジグゾーパズル的組み合わせが立ちはだかっており、この間の設計行為のほとんどが対立や対峙の調停作業であった。
そのためか、設計事務所での無限軌道のような仕事にわずかな暇が見つかると、私は町の路地裏や田舎風情の中の未建築な建築を味わいに一夜の漂泊やささやかな旅へ出た。近代特有の素材や頑迷な自我や意識によって構築された建築が鎮座し屹立し社会を睥睨する、のではなく、自分の足元とつながった大地や風土の中に静かに佇む存在感に感じ入っては、どこか酔いしれた。設計事務所での予定調和を構築していく作業に余儀なくされながらも、感受性のレベルではどんどん傍観行為へ傾斜していく。こうした若い時期の自堕落な行為に含まれた私自身の未建築な建築の探訪作業とはいったい何だったのか、今もって正直に語ることはできない。現実逃避か。風化の美学か。完成を阻んだり、自己解体に至るような真似も設計行為以外に繰り返した。
このような自家撞着とも言える長くて蒙いトンネルをようやく抜け出そうとしているのかもしれない。最近になり、小屋や未建築な建築に対する冷静な分析作業への関心がとみに生じて来た。
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感染症対策のため、講義室とオンラインを併用して行う予定です。
記
日時:令和3(2021)年2月27日(土)
(15:00〜17:00第一部「芸術文化環境論 渾沌から創造へ」)
(17:00〜18:00第二部「藍蟹堂先生 樹下問答会」)
会場:
(1)第一部 九州大学大橋キャンパス511講義室(5号館1F)(※要申込70名程度)
第二部 同上キャンパス中庭玉楠周辺(並べられた赤いストゥールが座席です)
(2)Zoom(オンライン)
● なお、ご聴講を希望される場合は、下記要領にて参加申込をお願いいたします。
(1)講義室でのご聴講について(要申込 ※ 70名程度)
感染症対策として、人数を70名ほどに制限いたします。
そのため、学生の方およびZoom視聴が難しいという方(コメント欄よりお知らせください)を優先いたします。その他の方は先着順となります。
折り返し2月20日までに、ご入室可否をご連絡する予定です。
【講義室での聴講希望 申込先】締切 2月14日(日)
https://forms.gle/Y4oUoDryX7DooFyN7
(2)オンラインでのご聴講について(要申込)
Zoomによる遠隔配信を実施いたします。
聴講方法は2月25日までに、メールにてご連絡する予定です。
ご確認のうえご参加ください。
【オンラインでの聴講希望 申込先】締切 2月23日(火)
https://forms.gle/GptBWrKmnpaPUEaU7
ご多忙の折とは存じ上げますが、皆様にご参加頂けましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
敬具
九州大学大学院 藤原惠洋研究室
九州大学藤原惠洋先生退職記念事業実行委員会
問い合わせ先:高口 葵
電話: 080-6107-0198
mail: aoikaryo@gmail.com