建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
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  2016年6月17日(金)17:30~20:30
  アクロス福岡 円形ホールにて

  一般社団法人地域素材利活用協会第3回シンポジウム
    「チソカツが九州を元気にする」を見てきました。

 1960年生まれの建築家3人がアトリエ事務所、組織設計事務所、ゼネコン設計部、それぞれの立場から「チソカツ」の可能性について熱い議論を繰り広げます。

  パネリスト
   山下保博(建築家/アトリエ天工人代表)
   山梨知彦(建築家/日建設計執行役員設計部門代表)
   水野吉樹(建築家/竹中工務店東京本店設計部部長)
 モデレーター
   松岡恭子(建築家/スッピングラス・アーキテクツ主宰)

 チソカツとは、
 地域素材利活用の略語。地域にありふれた素材・事物を別の視点から再編し、新たな資源/価値に仕立て上げること。一般社団法人地域素材利活用協会はチソカツを通じ地域に新たな仕事をもたらすことを目的とした建築家・研究者・民間企業・行政を交えたプラットフォーム。

 地域素材利活用協会(チソカツ)の目的は
 「この組織は、頭で考える人々、現実化する人々が力を合わせ、様々な地域に眠っている素材や工法を再編集・新開発することにより、その地域に仕事をもたらすことを目的とする。そこに、人々が集まり、街が形成されることを推奨する。」
  →その地域々々にあるものを使い、建築をつくることで仕事を生み出す。

 そして、地域素材を活かす3つの方法論
  1.「みすてられたもの」から考える
  2.「そこいらにあるもの」から考える
  3.「うつろいゆくもの」から考える

 パネリスト3名はこの1~3を自らのテーマにして発表下さいました。
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 まず、 松岡さんの作品から紹介されました。
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 カレスピラル:4つの吹き抜けが建物内部の隅々にまで光と風を導く集合住宅。
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西鉄の路線バス。日本で最も台数の多い西鉄バスは単なる公共交通ではなく、都心景観の一部で動く家具としてデザイン。複数重なっても美しいデザイン。
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 久山のバス停。構造部材には程遠い細い平銅を扇の骨のように組み合わせ、三層に重ねあわせて壁と屋根を構成。屋根にはフッ素樹脂膜使用。↓
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一番有名は、新北九州空港連絡橋で長さ2.1㎞の海上橋です。中心部のアーチ、橋脚、桁などの主要構造部から高欄や照明までデザインしたとのことです。
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 仕事というのは、
 着想(きっかけ、夢)→課題(分析・戦略)→プロセス(メンバー・方法・スケジュール)→最終成果物 となっていて、着想+課題がコンセプトで、最終成果物が世の中に出ていくもの。

プロデュースは「生み出す、生産する、制作する」。
コーディネートは「上手く調整する」。
ディレクトは「指導する、デザイン」

 着想→課題→プロセス→最終成果物

プロデュースはこの過程のはじめから終わりまでを指し、
コーディネートはプロセスに、
デザインは最終成果物にあたり、
ディレクトはプロセスと最終成果物の部分にあたります。

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 福岡の水上公園。
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 次の水野吉樹さん(建築家。竹中工務店東京本店設計部部長)
 水野さんは「うつろいゆくもの」から。そこにある大切なものをみつけること、そこに期待される人々の思いを形にすること、眼に見えないものを可視化する。そんな視点から地域素材の利活用を考えるということです。
 写真は安産と子授けのご利益がある日本橋の神社水天宮のリフォーム。宮大工の伝統工法、それを支える先端技術に地域素材を活用している。
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次に「15分の為の建築」ということで富岡八幡宮仮設観覧所・休憩所。2012年の天皇皇后の為の建築が紹介された。2012年富岡八幡宮例大祭での観覧席で、江戸深川の歴史と文化を参照しつつ、東北震災からの復興の願いをできる限り東北産の材料を使い作った。使用後は捨てるのではなく、形をかえ再生し、長く使える休憩所
にした。
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 山梨知彦氏は建築家で日建設計の設計部門代表。代表作は木材会館とNBF大崎ビル(ソニーシティ大崎)。木造会館で使われている木材は日本の代表的な地域ともいえる伝統的な尺貫法にもとづき製材されたありふれた角材。ソニーシティ大崎は、雨水で建物を冷やす装置を備えているが、そこで使われるのは部材を生産した多治見の工場近くにあるありふれた白い土。
 最近は、桐朋学園大学音楽学部調布キャンパス1号館もてがけた。
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 on The Waterは一つの大きな空間になったということです。↓
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 桐朋学園大学音楽学部調布キャンパスの造る過程。
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 山下氏は鹿児島の奄美出身。
 「みなさんの地域には見捨てられたもの省みられないものがたくさん眠っている。普段見向きもされなかったものが技術的知見、発想の転換によって地域に仕事をもたらす素材として利活用されることを待っている。」
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 ↓はR・トルソ・C 火砕流堆積物シラスに着目し、様々な実験を重ね、個別大臣認定を経て日本初のシラスコンクリート建築物が実現した。骨材にも石灰質の素材を用いることで再利用可能な「環境型コンクリート」になった。未利用資源の活用が地域の新しい産業の始まりとなる。
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 第1部終了。休憩時間は名刺交換タイムでした。
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 第2部は 各メーカーさんから新素材や地域にあるものを利用開発した素材の紹介。

 昭和鉄工、日本乾溜工業、東洋ステンレス研磨工業、日東電工、三井住商建材、木構造建築部、九州木材工業が紹介されました。

 こちらは天神地下街天井に使われている部材の会社、エフキャスト。アルミ鋳物の会社です。
山梨氏からは鋳物は型への考え方が重要。素材は液体なので、形をつくる鋳物の部分の素材が応用力のあるもの、工業化・汎用化に耐えるものが望ましい。
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 九州木材工業株式会社は、エコアコールウッドといい、低分子フェノール系保存処理木材を提供しています。
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 ここは、過酷な状況にさらされる建築物に対応できる長寿命木材を提供している。例えば、厳島神社の束柱と土台にエコアコールウッドというこの会社の開発商品が使われている。低分子フェノール樹脂処理剤は、九大農学部の先生と産官連携により生まれた。
 実際の木材はその土地の木を利用している。杉檜は溶液が入りやすいが松は入りにくいとのこと。


 九州では竹害にもなっている竹での素材。今はフワフワの竹繊維ができるようになったとのことです。
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 私が一番気になったのは、日東電工のフィルム。熱を電子と考え、フィルム一枚で電子をコントロールするとのことです。寒さも熱と捉える。フィルム1枚で魔法瓶効果があるとのことでした。

 ↓は三井住商建材株式会社のもの。
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 「私の研究対象は〇〇だからそれしかしない」などという考えは全くバカげている、「住む」「生活する」人間誰にでも当てはまるシンポジウム、私は建築家ではありませんが、将来に必要だと思える内容でした。20世紀型の重厚長大型・経済右肩上がりというのではなくなった21世紀において、地域にあるもの、見捨てられたものに発想の転換を加え、新たな価値をつける、そして、成果は市民住民にお返しをする、成果物の出し方はちがいますが、これは、まさに藤原研究室でやっていることと同じ発想です。
 特に興味があるのは、シラスコンクリートです。やっかいものを使い、家の建材にまで高めるというのは、着想やシラスへの意識転換の他に長く地道な実験や認証への過程があったと思います。そして、やっかいものが鹿児島地域の産業をつくり、雇用を生み出すことになればこんなに凄いことはありません。
 おどろきの3時間でした。

                                              岩 井
 
 
 








 

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