建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

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2015
1215日(火)18302100 九州大学芸術工学部 5号館531教室にて
九州産業技術史研究会12月定例会が開催されました。この日は九州大学芸術工学府
博士後期課程で韓国出身の金ミンジョン氏より『懸硯の成立と展開に関する研究
〜佐渡地方の生産地から全国への波及展開を通して〜』と題した研究成果が
発表されました。

 

金ミンジョン氏は韓国出身、日本の金属工芸に関心を持ち武蔵野美術大学に留学し
金工を学び修士課程修了を修了されます。帰国後もさらに金属工芸を学びたいと
思っていたところ、同国の博物館にて箪笥に施された金属工芸を見て、日本との
共通性を見出したことで研究に関心を持ち、再び日本へ留学し九州大学芸術工学府
博士後期課程に所属し、日本の船箪笥に関する研究を始められました。

日本の船箪笥には細密な装飾が施され、その美しさに魅了されるものの先行研究は
極めて少なく、さらに船箪笥は海運によって広域に移動しているため、その足跡を
追うことは容易ではありませんでした。戦国時代、中国から用いられた箪笥は
茶道の道具として用いられ、やがて懸硯へと繋がっていきます。中でも金氏は
懸硯に関心を持つようになり、研究の主題とされたそうです。日本全国の海沿いの
博物館を自力で調査するようになり、二年半ほどかけて懸硯の資料を集めて
ゆかれました。先行研究が極めて少ない懸硯の研究が進めば、船箪笥研究や箪笥の
研究にも新たな影響を及ぼすと考えられます。

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 懸硯とは、日本において比較的早い時期から付く会われていた正面片開戸・上部

手提げ付きの手提げ金庫であり、懸子(硯、筆、紙)の入った硯箱が起源となって
います。平安時代の重硯箱・浅硯箱が初源とされており、貴族が用いたもので
螺鈿などで装飾されています。金氏の研究では特に懸硯が最も発展した江戸時代を
中心に取り上げられています。先行研究には小泉和子の『船箪笥の研究』や
柳宗悦の『船箪笥』があり、装飾の分類にも言及されていますが、金氏はさらに
地域や場所によって異なる装飾の変化や関連性を見出し、詳細に捉えようと
されています。

 

金氏は北海道、新潟、秋田、山形、福井、三重、愛知、香川、岡山、山口と全国
津々浦々の博物館から個人像まで懸硯を追って調査し、地域や時代による装飾の
変化、土地との関連性に対して考察を深めてゆかれました。また、懸硯の機能や
サイズにも一定の共通性が見られることから、当時の商業形態の変化や、収容した
道具の大きさとの関連性を明らかにすることが期待されます。
 

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議論では、金氏がこれまで収集した膨大な懸硯の事例をもとに、1760年代以降の
航路の整備によって変化する人々の動線、商業形態、生活文化の流れを考えながら
懸硯の謎に迫ってゆくようなやりとりが行われました。木材家具の補強を目的に
施された金属が、やがて財、権力、美意識を反映させた装飾へと移ろって
ゆきますが、同時に、より広域化する移動距離や移動手段によってもまた
機能面が進化していたのでは、といった議論が行われました。
金氏の研究は、長年誰も手がけることのなかった懸硯に対して再評価・再検証を

もたらす貴重なものとしてとても期待されるものでした。詳細な記録や実証、
考察は、社会還元性も期待されます。留学先という異国の地の歴史文化を深く
理解しながら、一つの道具から産業、技術、文化といった様々なことを読解いて
いこうとされる姿勢に圧倒されました。
 

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研究会終了後は、九州産業技術史研究会の忘年会を開催!
藤原惠洋先生が先日韓国のヨミリ村で漬けてこられた本場のキムチで作った
キムチ鍋をいただきながら、さらに沢山の議論が交わされました。
2016年度も九州産業技術史研究会は、毎月定例会を開催してゆく方針です。

随時参加者を募集しておりますので、是非お気軽にお越しください。

来年度は1月19日(火)1830〜 
九州大学大橋キャンパス5号館3階 531教室を予定しております。

 

 

写真:岩井 文:國盛

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