九州大学芸術工学府大橋キャンパス多次元ホールにて、TOTOギャラリー・間
30周年記念講演会「アジアの日常から:変容する世界での可能性を求めて」
ヴォ・チョン・ギア講演会 「地球のためにできること Save our Earth」が
開催されました。
1914年に国内初の腰掛け式水洗トイレを制作をしたTOTOは、1885年に乃木坂で
無料の建築専門ギャラリー「ギャラリー間(通称ギャラマ)」を設立し、
2015年で30周年を迎えたことから展覧会「アジアの日常から 変容する世界での
可能性を求めて」と連続講演会が5都市で開催されます。
この日はベトナムを代表する若手建築家ヴォ・チョン・ギア氏の講演と、後半は
建築家で本展覧会のキュレーター藤原徹平氏、建築家でヴォ・チョン・ギア・
アーキテクツの岩本真明氏、本学教授の土居義岳先生らのパネルディスカッション
が藤原惠洋先生のコーディネートによって行われました。
ヴォ・チョン・ギア氏はベトナムホーチミンを拠点に国内外で活躍する建築家
です。日本との親交は大変深く、名古屋工業大学社会開発工学科を卒業後、
東京大学大学院工学系研究科で建築を学ばれました。特に大学院で構造の勉強を
されたことが、氏が未来の建築資材「グリーンスティール」として注目する
ベトナムの竹材を巧みに使った美しい建築を生み出す基盤となったそうです。
氏は、地球全体の環境問題に建築家はどのようにアプローチしていくべきか
ということを、足元であるホーチミンから取り組まれています。ホーチミンは
人工密度が極めて高く、緑化計画が大変遅れてしまっているとのこと。大気汚染、
洪水、精神病、オーバーヒートといったことが問題として顕著に表れているのは
人間の生活が自然から離れてしまっていることにあり、様々な不安が沢山の問題を
引き起こしてしまっています。その事に対処するためにも、建築は自然と人間を
繋げることが必要とされていると仰いました。
Save Our Earth
緑地の再生、エネルギーの過剰消費を押さえる合理的な建築、五感を再生する
自然素材と開放的な共有空間を創ることを必要と考え、緑化や竹材を使った建築を
創られています。House for Treesと称されるプロジェクトは、「人のための家」
ではなく「木のための家」という明解なコンセプトで、個人宅から幼稚園、
大学まで幅広く手掛けられてきました。この日はその数々のプロジェクトに
ついて語っていただきました。
http://votrongnghia.com/projects/fpt-university-ho-chi-minh-city/
Farming Kindergarten
工場が密集する場所に建てられた幼稚園。2万3000人が働く靴工場に勤務する
子ども達が通う。屋上を緑化し、なだらかな丘陵で構成された回遊性のある建築。
屋上には農場を併設し、安全は食育と農業に関する関心を高める。
FTP大学
ホーチミンにあるFTP大学は2万3000平米で5000人を収容しなければならない。
平坦な建築にせず、山のような起伏をつけた設計にすることで、共有スペースを
多数構え、自然を感じる吹き抜けや教室の窓からも緑が見えるように配置している。
http://votrongnghia.com/projects/fpt-university-ho-chi-minh-city/
wNw BAR
ギア氏の建築事務所は竹材を巧みに扱う地元の職人チームを抱えており、高度な
技術を要しながらもユニットから構成されたサスティナブルな建築を生み出して
いる。wNw BARは1つのフレームを作り、48個を連結させて円筒形に組み立てる。
http://votrongnghia.com/projects/fpt-university-ho-chi-minh-city/
Banboo Wing
同じく竹をフレームに使ったものであったが、開放的な空間にするためには構造の
問題を解決することが一番の課題であった。竹とテンションを繋ぐための技術に
苦労したという。
http://votrongnghia.com/projects/fpt-university-ho-chi-minh-city/
Son La Restaurant
ハノイから7時間離れた場所にあるレストラン。資材を運ぶことも一苦労であった
が、竹林のような開放的な空間は地元民にも評価が高い。
http://votrongnghia.com/projects/fpt-university-ho-chi-minh-city/
Milan Expo
ミラノ万国博覧会への出展作品。パビリオンに対する過剰な投資や消費的な建築の
在り方に対して作られた。HOUSE FOR TREEとGREEN STEELが合わさった
プレゼンテーション。
ギア氏は、自身の建築に対して「美しさは追求するが、それは二次的なものであり
建築に対する姿勢やコンセプト、構造、安全性に対する正しさへの追求を最も
大切なことと考えており、このことに対して妥協はしない。」とのこと。
自然と人間の距離を取り戻す行為には、五感を刺激することや心地良い空間の
提供が不可欠であり、アジア特有の素材を用いることで地域固有性や
サスティナブルな循環の構築を試みます。それらを現実のものとするためにも
ユニットによる施工のし易さの追求、メンテナンスに対する配慮、安価な価格を
重視されています。今回、ギャラリー間の展覧会では、竹を使った空間が実際の
スケールで設置されています。
ギア氏が、人との関わりや、生活の中といった身近なところから課題を見つけたり
インスピレーションを得たりする中で、普遍的な問題へと取り組んで行く姿勢は
真っ直ぐで温かく、竹材を使った建築はとても伸びやかで美しい造形でした。
講演会では言葉のひとつひとつも分かりやすく、学生に対して歩み寄って下さる
姿勢も感じられ、様々なことを学ぶことができました。
写真:何勤 文:國盛