今回はALA(アメリカ図書館協会)の総会および特別フォーラムの様子を書きます。
図書館という機関が本当にすべきことは何なのか、図書館に来る人だけを相手にしているだけでいいのか、図書館の資料や人が本当に求められているところ・本当に必要とされている所へ行き活動する、社会の中で「痛み」を受けた人々を大切にし、それに光を当て、評価する・多くの人々に知ってもらうという活動をすることを資源とすることが求められているのではないかと思う体験をしてきました。
熊のついた旗は、カリフォルニア州の旗で、草原にグリズリーのいる図とのことです。旗のみならず、お土産でも熊の図柄はよく見かけました。
ALAはアメリカに本拠をおき、図書館と図書館教育を振興する団体です。総会では図書館に関する新しいシステムや商品、本の紹介などなど期間中は700以上の展示や2000以上のフォーラムが開催されます。展示の視察やフォーラムに参加し関係者とネットワークを作ることも可能です。今回の総会の地はサンフランシスコ。 ↓はALA(アメリカ図書館協会)総会会場のMOSCONE CONVENTION CENTERでの受付の様子。
当たり前ですが、全て英語が使われています。
会場は広く、人は多かったです。全米からの参加者がいると思われます。
本やグッズもあり、ちょっとしたお祭りのようです。日本ならば静かな会議室での会議になるのではないかと思われますが、アメリカはスタジアムで立食、お酒、アイスクリームつきの会合になります。
会場内。
展示会の中で飲んだり食べたりできます。↓
日本ではパシフィコ横浜で毎年「図書館総合展」が開催されます。ALA総会と同じように、図書館に関わるシステムや電子書籍、棚などの紹介展(企業ブース)と、フォーラムを行う場が多数設けられますが、ALAの総会と比べると規模が小さく見えます。
このオープニングイベントが行われたのが6月26日(金)。
翌27日(土)はセッション参加と、今回の米国図書館研修で主催者が組んでくれたALA関係者からのプレゼンテーションです。
場所を移動して、特別フォーラム。
3つほどお話が提供されましたが、私が一番気になったのは、
War Ink projectです。
講演者はJason Deitch(CO-Creator of War Ink)。彼は元衛生兵で、現在は軍を研究対象としている社会学者で、カリフォルニア州のコントラコスタ群公立図書館と協力して、このWarInkプロジェクトを行いました。
これはベテランと呼ばれる退役軍人がその体に彫ったタトウーについて見せ、音声を発し、動画とすることを通して記録し発信することで、退役文人と市民が戦争体験を共有できる場を提供する試みです。
WarInkのミッション
9.11のテロ以降、250万人以上の男女がアフガニスタンとイラクという戦地に送られました。7000人以上が命を落とし、帰ってきた者たちも違った形で代償を払っています。彼らは戦争体験をうまく消化できずに、大切なものを失ったショックから立ち直れないでいるのです。
身体に彫ったタトウーは、死者への鎮魂、祈り、生きているものの償い。
ジェイソンダイチさんは、軍隊の文化と普通の人の文化は全く違うということを何回も繰り返していました。一度違う文化に順応してしまうと、元のところに帰るのが難しいそうです。普通の生活に戻れない退役軍人が多いとのことです。
このプロジェクトは退役軍人の貢献と犠牲を再確認し、民間のコミュニティと軍人との間に存在する壁を取り払う必要から生まれたとのこと。このタトウーを話のきっかけに退役軍人が自らの戦争体験を語ります。記憶と感情の視覚的表現です。
なぜ図書館なのか。
図書館は全ての市民にリソースを提供することが義務ですが、その中でも社会の中で忘れられがちな退役軍人にサービスを提供することに特に重きを置いています。図書館は社会として、「我々が誰なのかということを物語ってくれる物語を集めています」。退役軍人が語る戦争体験は文化的にも社会的にも大きな意味を持っています。そしてそれは、見る人の関心をひき、知る意欲を喚起すします。
↓はそのビデオです。
http://www.washingtonpost.com/posttv/national/war-ink-exhibit-tells-veterans-tattoo-stories/2015/04/02/176405c0-d98b-11e4-bf0b-f648b95a6488_video.html
日本では第2次大戦から帰ってきた人、シベリア抑留から帰ってきた人をどのように扱ってきたのでしょうか。
以前、シベリア抑留から帰ってきた方にインタビューをしましたが、零下50度の世界から生きて戻って来た故郷では受け入れてもらえなかったそうです。
このような社会問題を取り上げることは、社会教育機関である図書館では、非常に大切なことであると思いました。日本では戦争の記憶を文集にしたのは見たことがありますが、アメリカではそれを図書館と体験者が組んで映像化したということが重要です。
これは一つの文化資源と言ってよいのではないかと思います。これを生み出さざるを得ない状況がアメリカにはあったと思いますが、このように社会に考えさせる物事を提供するのも図書館の仕事だと思いました。
日本の図書館は社会問題提起・解決への糸口の場になっているでしょうか。日本の図書館は文学の館になってはいないでしょうか。以前司書として働いていた私の素朴な疑問があります。
講演者の方と参加者との交流の機会もありました。残念ながらダイチさんは忙しいということで帰られました。
このようにして、私のアメリカ図書館視察とALA体験・フォーラム参加は終了しました。
アメリカの図書館はアクティブだという印象です。常に能動的に物事に取り組んでいるように見えました。日本の雇用形態と違うので、何かしなければならないという事情もあるようですが、それでも図書館と社会が結びつき物事を解決しようとする意欲は理解することができました。日本の図書館はどうでしょうか。文学の館になっていないでしょうか。図書館は社会問題解決の場であるというのが私の認識になりました。
岩 井
6月28日(日)朝3:15に集合して空港に出発、サンフランシスコからシアトルに飛び、シアトルから成田に向かいました。成田到着が6月29日(月)の14:35。ここで図書館研修でご一緒したみなさまとは解散です。
1週間お世話になりました。
私の旅はアメリカで終わりではありません。次があります。成田から北海道札幌市に向かいました。