7月17日(金)、月曜日の振替授業日であるこの日、学部授業「芸術文化環境論」にNPO法人アーツ&ソサエティ研究センターの秋葉美知子先生をお招きし、特別講義を頂きました。
テーマは「アートと社会の関係を考える〜アートはアートとしての特質を失わずに、現実社会の役に立つのだろうか? ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)の可能性と課題〜」として、芸術概念の変遷とアートをめぐる論争、米国におけるパブリックアートの変遷、そしてご自身が訳され、最近様々な研究者の間で話題になっている『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』の内容にも非常に深く関わるお話を伺うことが出来ました。

秋葉美知子先生は一橋大学経済学部卒業後、株式会社パルコに入社、イベントスペースでの展覧会などを企画されてきました。その後音楽雑誌『FMステーション』編集部、(株)西友宣伝企画部を経験された後、パルコマーケティング情報誌『月刊アクロス』編集長などを経て、パルコが設立した、若者とファッションを観察・分析するシンクタンクでありメディアである『アクロス』の編集長として手腕を発揮、パルコ広島店の店次長を務められます。退職後、1996〜93年の間に福岡市飯塚に位置する近畿大学大学院産業技術研究科博士後期課程(造形学専攻)にて「地域づくりとデザイン・芸術」をテーマに研究、同大学院満期退学。以後はアメリカのパブリック・アート、コミュニティ・アーツを中心に調査研究を続けていらっしゃいます。2002~05年、福岡県星野村の(財)星のふるさと専務理事。現在、活水女子大学文学部現代日本文化学科特別専任教授、九州大学芸術工学部非常勤講師。訳書に『グラスルーツ・シアター アメリカの地域芸術を探して』があります。

今回の講義内容は以下のとおり
◆芸術概念の変遷とアートをめぐる論争
・アートの存在意義の変遷…前近代「ツールとしてのアート」近代「目的としてのアート」現代「ツールとしてのアート/目的としてのアート」
・表現の自由、アーティストのオートノミー(自律)を至上とするアートと社会の規範や宗教、慣習、政治権力などとの衝突
ex.) アンドレ・セラーノ「Piss Christ」1989
ロバート・メイプルソープの写真展「The Perfect Moment」1989
カレン・フィンリーら4人のパフォーマンス・アーティストとの衝突”NEA FOUR事件”1990
NEA(全米芸術基金)による芸術家や美術館への助成と規制、そしてそれへの論争によって米国のパブリックアートの表現と理解が発展する




写真はDIEGO RIVERA「Man At The Crossroads」1934
これは講義の中で触れられた、芸術と社会のあり方を象徴する芸術作品の1つ。メキシコの画家ディエゴ・リベラ(1886〜1957)による壁画です。ニューヨークのロックフェラーセンターに『十字路の人物(Man at the Crossroads)』と題して描かれましたが、アメリカの建国者たちと並んで社会主義者のレーニンの肖像を配していたことが発注者やマスコミの猛反発を呼び、完成直前に破壊されてしまいます。その後メキシコシティにあるベジャス・アルテス宮殿に描き直されました。

写真はカレン・フィンリー、ティム・ミラー、ジョン・フリック、ホリー・ヒューズら4人のパフォーマ―へのNEA助成中止と検閲についての事件についてのものです。フィンリーはジェンダーなどの社会問題を扱った作品が多く,ヌードになって,溶かしたチョコレートを身体に塗りたくるパフォーマンスで知られ、彼女以外の3 人のアーティストはゲイであることを公言していました。彼らの前衛作品は全米芸術基金(NEA)の助成が決定していたにも関わらず、作品の「わいせつ性」のために助成金が取り消され、NEA Fourと呼ばれて注目を集めることになりました。

多くの芸術作品は物議を醸し出し人々の感情や暗黙の対立構造、一つの価値観への疑問の投げかけを我々にもたらします。つまり、芸術作品は安全でクリーンなものではなく(そう捉えられる作品も有りますが)、危険で衝突をもたらすものでもあるということです。

そして日本でも彫刻作品を街なかに設置したパブリックアートが、米国でどのようにうまれ、変遷し、地域に受容または排除されてきたのかを知りました。




近年、アートワールドでも高い評価を得ているSantiago Sierra。
低所得者を雇い意味のない労働を美術館やギャラリーといったアートワールドの独壇場で行わせる作品で有名です。反資本主義、反グローバリゼーションを象徴する、強烈なインパクトを観るものに与えます。





授業後は、本学府芸術工学専攻 コミュニケーションデザイン科学コース/学部 音響設計学科 音響設計学の中村美亜准教授と研究室メンバーが藤原研究室へ来訪され、秋葉先生やふ印ラボ学生と日本と米国のソーシャルプラクティスや民主主義の受容の深度などについて意見交換を行いました。
中村先生は今年4月から展開しているソーシャルアートラボのコアメンバーであり、ソーシャリー・エンゲイジド・アートをはじめ社会と芸術の相互作用を探る研究活動をされています。かくいう私も先生主宰の読書会でこの本を輪読中で、この日は本を通じて人の出会いがあった良い日となりました。
翌日はいよいよソーシャリーエンゲイジドアートについてお話頂きます。
(文責:吉峰)
テーマは「アートと社会の関係を考える〜アートはアートとしての特質を失わずに、現実社会の役に立つのだろうか? ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)の可能性と課題〜」として、芸術概念の変遷とアートをめぐる論争、米国におけるパブリックアートの変遷、そしてご自身が訳され、最近様々な研究者の間で話題になっている『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』の内容にも非常に深く関わるお話を伺うことが出来ました。

秋葉美知子先生は一橋大学経済学部卒業後、株式会社パルコに入社、イベントスペースでの展覧会などを企画されてきました。その後音楽雑誌『FMステーション』編集部、(株)西友宣伝企画部を経験された後、パルコマーケティング情報誌『月刊アクロス』編集長などを経て、パルコが設立した、若者とファッションを観察・分析するシンクタンクでありメディアである『アクロス』の編集長として手腕を発揮、パルコ広島店の店次長を務められます。退職後、1996〜93年の間に福岡市飯塚に位置する近畿大学大学院産業技術研究科博士後期課程(造形学専攻)にて「地域づくりとデザイン・芸術」をテーマに研究、同大学院満期退学。以後はアメリカのパブリック・アート、コミュニティ・アーツを中心に調査研究を続けていらっしゃいます。2002~05年、福岡県星野村の(財)星のふるさと専務理事。現在、活水女子大学文学部現代日本文化学科特別専任教授、九州大学芸術工学部非常勤講師。訳書に『グラスルーツ・シアター アメリカの地域芸術を探して』があります。

今回の講義内容は以下のとおり
◆芸術概念の変遷とアートをめぐる論争
・アートの存在意義の変遷…前近代「ツールとしてのアート」近代「目的としてのアート」現代「ツールとしてのアート/目的としてのアート」
・表現の自由、アーティストのオートノミー(自律)を至上とするアートと社会の規範や宗教、慣習、政治権力などとの衝突
ex.) アンドレ・セラーノ「Piss Christ」1989
ロバート・メイプルソープの写真展「The Perfect Moment」1989
カレン・フィンリーら4人のパフォーマンス・アーティストとの衝突”NEA FOUR事件”1990
NEA(全米芸術基金)による芸術家や美術館への助成と規制、そしてそれへの論争によって米国のパブリックアートの表現と理解が発展する




写真はDIEGO RIVERA「Man At The Crossroads」1934
これは講義の中で触れられた、芸術と社会のあり方を象徴する芸術作品の1つ。メキシコの画家ディエゴ・リベラ(1886〜1957)による壁画です。ニューヨークのロックフェラーセンターに『十字路の人物(Man at the Crossroads)』と題して描かれましたが、アメリカの建国者たちと並んで社会主義者のレーニンの肖像を配していたことが発注者やマスコミの猛反発を呼び、完成直前に破壊されてしまいます。その後メキシコシティにあるベジャス・アルテス宮殿に描き直されました。

写真はカレン・フィンリー、ティム・ミラー、ジョン・フリック、ホリー・ヒューズら4人のパフォーマ―へのNEA助成中止と検閲についての事件についてのものです。フィンリーはジェンダーなどの社会問題を扱った作品が多く,ヌードになって,溶かしたチョコレートを身体に塗りたくるパフォーマンスで知られ、彼女以外の3 人のアーティストはゲイであることを公言していました。彼らの前衛作品は全米芸術基金(NEA)の助成が決定していたにも関わらず、作品の「わいせつ性」のために助成金が取り消され、NEA Fourと呼ばれて注目を集めることになりました。

多くの芸術作品は物議を醸し出し人々の感情や暗黙の対立構造、一つの価値観への疑問の投げかけを我々にもたらします。つまり、芸術作品は安全でクリーンなものではなく(そう捉えられる作品も有りますが)、危険で衝突をもたらすものでもあるということです。

そして日本でも彫刻作品を街なかに設置したパブリックアートが、米国でどのようにうまれ、変遷し、地域に受容または排除されてきたのかを知りました。




近年、アートワールドでも高い評価を得ているSantiago Sierra。
低所得者を雇い意味のない労働を美術館やギャラリーといったアートワールドの独壇場で行わせる作品で有名です。反資本主義、反グローバリゼーションを象徴する、強烈なインパクトを観るものに与えます。





授業後は、本学府芸術工学専攻 コミュニケーションデザイン科学コース/学部 音響設計学科 音響設計学の中村美亜准教授と研究室メンバーが藤原研究室へ来訪され、秋葉先生やふ印ラボ学生と日本と米国のソーシャルプラクティスや民主主義の受容の深度などについて意見交換を行いました。
中村先生は今年4月から展開しているソーシャルアートラボのコアメンバーであり、ソーシャリー・エンゲイジド・アートをはじめ社会と芸術の相互作用を探る研究活動をされています。かくいう私も先生主宰の読書会でこの本を輪読中で、この日は本を通じて人の出会いがあった良い日となりました。
翌日はいよいよソーシャリーエンゲイジドアートについてお話頂きます。
(文責:吉峰)