
6月29日学部「芸術文化環境論」の授業で特別講義としてゲスト國盛麻衣佳さん、藤原旅人さん、江上賢一郎さんからお話をいただきました。
今回の特別講義のテーマとしては
・ 國盛麻衣佳さん:アーティストの足跡とプロジェクトメンバーとしての体験
大牟田・荒尾の旧産炭地で展開してきた矜持再生型アートプロジェクトの事例を通して
・ 藤原旅人さん:大地の芸術祭、瀬戸内国際芸術祭、BEPPU PROJECT 等の事例を通しての
・ 江上賢一郎さん: アクティヴィズムの芸術的転回、1990年代-反グローバリゼーション運動の広がり
でした。

初めには國盛麻衣佳さんの発表をいただきました。
國盛麻衣佳さんは博士課程の学生として藤原研究室に所属していました。現在は福岡女子大学で非常勤講師として教鞭をとられています。
発表の内容:
・ 炭鉱というのは、エネルギー産業であり、一部の支配者層は大変に裕福となる産業であるが、
労働者の多くは長い間、地下での過酷な労働によって、労働力や金銭ばかりか、体の一部や命や精神的な尊厳さえも削がれ、搾取的で抑圧的な扱いを受けていました。
このような扱いは、時代によって変化するものでしたが、周辺や外部からの偏見の目にさらされる期間も長かったです。
閉山と共に、沢山の遺構は壊され、炭鉱に携わっていた人たちが過去を語ることも少なくなり、そもそも人はいなくなりました。
・ 炭鉱町というのは全国各地にあります。福岡天神の地下にも坑道が伸びていたり、北海道の空知地方、夕張なども含めて有数の炭田がありました。そこでも民間団体が炭鉱遺産の保存活用を行っています。
・国外では、建築・デザイン・アートの分野から都市再生を計画することは学生のプログラムでも行われています。
・18世紀から19世紀にかけて石炭産出、造船、港として栄えたカーディフもまた、2020年にむけた文化による都市再生を世界6カ国の学生と行うプログラムを実施しました。
・様々な課題を抱えた地域や、社会的課題に対峙する時、アートプロジェクトは風穴を開ける一つの可能性となり、その成果は国内外で期待され、成功事例も多数存在します。旧産炭地では、地域、歴史、労働に対する
誇りが失われつつあったが、芸術文化の支えによって取り戻す取り組みが日本国内外で行われています。
アートプロジェクトは、小規模なアーティスト主導によるものから、行政主体の大規模な文化政策など様々な形態があるが、大切なことは、関わった作家や作品、経済効果のみならず、それらが
生まれた背景に目を向け、フィールドや関わった人々が、どのように変化したのかを見ることです。
プロジェクトがどのように受け止められ、そこから次に向けて生まれたものがあるか、観賞のみでは分からないことも多々あるので、ヒアリングやボランティア体験、アートワークショップへの参加、スタッフ体験などを通して考えることも大切です。
2番目は藤原旅人さんからお話をいただきました。
藤原旅人さんは九州大学で修士課程を卒業して博士課程に在籍しています。
藤原旅人さんは日本各地で起こっているアートプロジェクトを対象に研究を進めています。
発表内容:
・アートプロジェクトの特徴
ープロジェクト型のアート活動であること
ーたくさん(様々な立場)の人々を巻き込みやすい
ーその地域の歴史的文脈・矜恃を含んだ作品(物語)
ーその地域の社会問題を解決するような力をアートは持っている
ネガティブな問題を、ポジティブな観点に変える力を持っている。
・事例1:瀬戸内国際芸術祭について
・事例2:別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」2015の事例
ー運営はNPO法人BEPPU PROJECTが行っている。
ー混浴温泉世界は今年で3回目の開催であるが
現在の体制での開催は、今回の会期をもって休止になり
新しい体制を模索することになる。
・アートプロジェクトの評価と課題
ー全てのアートプロジェクトがうまくいっているわけではない
ーアートプロジェクトはスタートアップの活動としてはインパクトが強くたくさんの人々を巻き込むことが出来る
ー継続性の問題
人材/その地域の芸術文化環境整備の充実
ー芸術祭型のアートプロジェクトから、より地域の社会問題に
フォーカスしたプロジェクトへの移行
江上賢一郎さんは早稲田大学、ロンドン大学ゴールドスミス校、文化人類学修士課程修了、イギリス留学中より、アートとアクティヴィズム、贈与経済、オルタナティヴな自律空間について調査、研究を始めまして。2011年より、東アジアのアート、社会運動のネットワーク作りを始めました。2012年4月には、香港で東アジアのアート・アクティヴィスムの国際会議「East Asia Multitude Meeting」を企画しました。
実は、江上賢一郎さんは藤原研究室で行われる様々なフィールドワークにも参加してくださっていて、今度は学部の授業「芸術文化環境論」でお話を聞く機会ができて学生たちにも私にとってもとても良い機会になったと思いました。
発表内容:
・現代美術における社会的転回
・The Criminal Justice and Public Order Act
(1994)
- 私有地への集団的侵入を禁止
- 音楽を野外で鳴らし集団で聴くことを禁止
- 警察権力の日常生活への介入
公共空間での人びとの集まり、自由かつ、経済活動に結びつかない諸活動への規制や民営化による社会保障の切り下げ、公共空間の管理が同時進行。
・ 徳昌里(Tak cheong lane),アナキスト•インフォショップ, 香港, 2013
油麻地の一画にあるインフォショップ。元々は2012年のオキュパイセントラルに参加していた若い活動家たちが、支援者の援助を受けてオキュパイ立ち退き後に古道具屋としてオープンさせたスペース。今は地元のたまり場になっている。
・徳昌里に集まるメンバーたちは、自らを反権威主義的アナキストだと呼ぶ。これまでにもホームレス排除反対運動や、深圳建築ビエンナーレでの再開発反対運動等、数多くの路上の直接行動を行っているラディカルな若者たちだ。
・東アジアで「場所を作る」
- 構造的暴力に対する(国家/資本主義)批判的意識の共有
- 美的-倫理的価値の創造•「面白さ」の価値化
- 集合的主観性/身体の創出 (界隈/コレクティブ)
- 国境を越えて、集団で交流する