

イコモスの勧告後に記者会見した内閣官房の担当者は「これだけ本格的なシリアル・ノミネーションによる推薦は初めてではないか」と、「登録」を勝ち取ったことに胸を張った。
「産業革命遺産」を構成する23施設の所在地は、岩手、静岡、山口、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島の8県と広範囲にわたる。識者からは「観光資源としてまとまりを欠く」との指摘もあった。しかし、政府は「産業国家が形成された道のりを時系列的に示している」という「連続性」を重視し、複数の遺産を「歴史的なまとまり」と位置づける「一括推薦」の手法を取った。これが功を奏した。
先の担当者は「時代を超えた『産業化』という現象を、いくつかの推薦資産を組み合わせ全体で一つの世界遺産価値として証明するのが一括推薦の本質」と強調し、この点でイコモスの理解を得たとの認識を示した。その上で「世界遺産の在り方として大いに参考になるだろう」と語った。
一括推薦は世界遺産に登録される基準「世界遺産条約履行のための作業指針」に規定されている。世界文化遺産では、ブラジルとアルゼンチンにまたがる「グアラニーのイエズス会伝道所群」のように国境を越えて登録された例もあった。
背景にあるのは、昨年までで1007件に上る世界遺産の肥大化。ユネスコには総数を抑えるため一括推薦を歓迎する傾向がある。日本の推薦遺産でも、2013年の「富士山」や14年の「富岡製糸場」が一括推薦によって登録された。
「富士山」は、富士五湖や浅間大社など25の資産で構成されるが、登録名称の「富士山−信仰の対象と芸術の源泉」が示すように、日本文化の象徴的存在として一つのまとまりで評価された。「富岡」は富岡製糸場(群馬県富岡市)や近代養蚕農家の原形となった田島弥平旧宅(同県伊勢崎市)などを一つの資産群として「養蚕と日本の生糸産業の革新に決定的な役割を果たした」と高評価を得た。
ただ、「富岡」は構成資産を当初の10件から4件に絞り込んで推薦しており、今回は施設が広範囲に点在するため「絞り込みが必要では」との声もあった。内閣官房の担当者は「一体的な保全管理に取り組んできた」と振り返った。
◇施設保全コスト課題
今後の大きな課題は、構成23施設をどう保存するかだ。稼働を終えた施設は劣化が進み多額の保全費用が必要な一方、稼働中の施設は建て替えや改修などで関係者の調整が求められる。
「軍艦島」の名で知られる端島(はしま)炭坑(長崎市)は、日本最古の鉄筋コンクリート製アパートなどが残るが、炭鉱閉山で無人島になって40年がたち風雨や波にさらされてきた。長崎市はどこまで保存・復元するかで5案を検討し、費用を概算で11億〜158億円と見積もる。
国は護岸と生産施設だけの保存で構わないとの姿勢だが、地元には島全体の外観を維持したいとの声もある。長崎市は3月、鉱員住宅や小中学校など5棟を優先保存する計画案をまとめたものの、具体的な内容は決まっていない。
また、23施設のうち8カ所が今も稼働している。政府側は「稼働中の民間企業の大規模な工業施設の登録は、遺産保全の新たなモデルを提示する」(昨年11月の衆院委答弁)と位置付けており、従来の文化財保護法でなく景観法や港湾法、条例などで対応するよう地区ごとに官民による稼働資産保全協議会を組織した。
ただ今後、企業側が施設の建て替えなどを希望した場合、関係者間で十分に調整することが必要になる。
産業革命遺産に関わる専門家委員会のメンバーの有馬学・九州大名誉教授(日本近代史)は、稼働施設について「変形してはいけないという従来の文化財保護の考え方では維持できない。軍艦島も一部は壊れていくことを視野に入れて保全する必要がある。成功すれば世界的にも先行例となり得るだろう」と指摘する。【小畑英介、馬原浩】
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■ことば
◇稼働資産 明治日本の産業革命遺産(8県11市23施設)には日本の世界遺産候補として初めて稼働中の施設が含まれた。稼働資産は岩手県釜石市の橋野鉄鉱山▽長崎市の三菱長崎造船所▽福岡県大牟田市の三池港▽北九州市の官営(現・新日鉄住金)八幡製鉄所(同県中間市の遠賀川水源地ポンプ室を含む)−−の4地区8カ所。将来、改築などが想定され、文化財保護法による保全になじまない。そこで景観法や港湾法、関係自治体の条例などで対応するため、地区ごとに省庁、自治体、企業などで稼働資産保全協議会を組織している。
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◇「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録への動き 2005年 7月
鹿児島県主催で「九州近代化産業遺産シンポジウム」を開く 08年 9月
文化庁が世界遺産暫定リストへの記載を決定 08年10月
鹿児島県知事を会長に関係自治体が世界遺産登録推進協議会を組織 09年 1月
ユネスコの世界遺産暫定リストに追加記載 11年 6月
岩手県釜石市と静岡県伊豆の国市が登録推進協に加わる 13年 8月
国の有識者会議が「明治日本の産業革命遺産九州・山口と関連地域」を推薦候補に選定 13年 9月ユネスコへの推薦を政府が決定 14年 1月
政府が推薦書(正式版)をユネスコに提出 14年 9月
イコモスが現地調査を開始 15年 5月
イコモスが勧告 15年
ユネスコが登録の可否を決める 6〜7月 会議を開催














