建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

先日、2015320日から25日まで韓国地域再生調査を行いました。今回の調査は、明治大学都市計画山本研究室と九州大学芸術工学府の藤原研究室との合同調査でした。調査先は韓国のソウルの東大門エリアと釜山のメチュク千村、甘川文化村、旧都心創作空間トタトガでした。藤原研究室では韓国の地域再生を先導する地域としてこれらの地域に注目し、現地調査を重ねています。今回はより深い研究調査のため、各地域の行政・住民・専門家などの多様な人々に聞き取り調査を行いました。そこでは建築家、公務員、アーティスト、デザイナーなどいろいろな人が地域の活性化のためにかかわっていたのですが、みんなの共通点は一つでした。「目に見えないものをデザインする」ということ。韓国ではまさにハードウェア中心の都市開発からソフトウェアへ中心の都市再生へ向かっていました。

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20日(金)韓国のソウルに着いて、初めに向かったのはソウル駅でした。そこには誰も知らない韓国の国民的詩人尹東柱詩人の点字詩がありました。尹東柱詩人は日本統治時代に日本へ留学しましたが、当時の治安維持法により捕まって獄死した韓国の国民的な詩人です。彼の純粋で、普遍性がある詩は韓国のみならず、日本でも読まれています。今年2月に行われた福岡尹東柱関連記念行事の一環で講演会をなさった尹東柱詩人の甥である尹仁石先生から、ソウル駅に尹東柱詩人の点字ペーブメントがあるという話を聞き、見に行ったのです。話を聞かなかったら全然知らなかった、新しい宝物大発見!きっと今回の調査では点字ペーブメントのような意外な発見が私たちを待っている気がしました。
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<ソウル市鍾路区チャンシン洞>

「東大門衣服産業の生産地、家内手工業の衣服工場は約
700か所、
 一日で捨てられる布の切れっ端
22トン・持続可能な地域発展を考える」

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チャンシン・スンイン都市再生支援センター
 

「都市は1つのギャラリー! 都市は人々が一人一人働いている終わらない作品だ(シン先生インタビューの中)」
 

韓国では20141月「都市再生活性化及び支援に関する特別法」が施行され師範対象地として13か所の都市再生先導地域13か所が選定されました。チャンシンドンはその対象地の一つで、韓国最大の衣類産業の集積地である東大門市場の衣服の生産基地であります。主に家内制手工業であり、19701980年度は2000か所以上の工場がありましたが現在は製造業の衰退により約700か所にまで減りました。チャンシン・スンイン都市再生支援センターは2014729日に開所し、共同体の回復、雇用創出、住居環境改善などを事業の目標としています。
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今回の聞き取り調査に協力していただいたシン・ジュンジンチャンシン・スンイン都市再生支援センターセンター長は成均館大学建築学科教授として韓国の「都市再生活性化及び支援に関する特別法」の制定に参加、チャンシン・スンイン地域を選定する委員会にも参加したそうです。その後ソウル市からの依頼によりチャンシン・スンインの都市再生のコーディネーター兼センター長を務めておられています。

 シン先生はもともと早稲田大学大学院の佐藤滋研究室の研究室に所属しており、日本のまちづくりを学び、韓国のまちづく
りの最前線のコーディネーターでもあり、研究者として日本のまちづくりのやり方を韓国地域再生の現場で試みています。シン先生はチャンシン・スンイン地域を手術をしている患者さんに例えながら、住民が参加しているプロジェクトに対しては一切インタビューや講義、対談をしていないようですが、大学の同僚である尹仁石先生の紹介により今回のインタビューを行えることになりました。
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 シン先生はチャンシン・スンイン都市再生に対して、まちづくりの考え方を通して都市のDNAを変え、それが都市全体を支えるという仕組みを考えていました。また、都市再生の目標は文化や建築などいろんな話があっても最終的に地域社会を再生させるとのことでした。と、いうことで住まいの場、働く場、遊び場の3つのことを組み合わせていくのが基本方針だと述べています。その手法として住民の力を育てていくために事業は住民公募式で行い、コンサルティングや協力をしながら既存の村のコミュニティを住民との関係のなかでスムーズに関係づくりを進んでいく予定です。


「都市をただ作る、ただ住むというと関係者間の葛藤がある。しかし、文化という話が入ってくるとお互いに刺激をしあいながら一緒に行ける。」

 

チャンシン・スンイン都市再生でも地域の再生のため文化や芸術の役割に着目しています。現在主に推進しているのはチャンシンドンにあった世界的な画家ベク・ナムジュン、イ・スグンというアーティストを活かした芸術通り計画です。チャンシンドンにはベク・ナムジュンの生家やイ・スグンのアトリエがあるので、隣のDDP(Dongdaemun Design Plaza,ソウルデザイン産業の拠点文化施設)で作品の展示をすることにより、ベク・ナムジュンというとチャンシンドン、イ・スグンというとチャンシンドンが思い出すようにしてDDPとチャンシン・スンイン都市再生との繋がりも模索していました。

 
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<公共空間>

「私たちはどんなアーティストとして生きていくのか? 芸術は社会へどんな影響を与えられるか?」
 

大学でファイン・アートを専攻した若い美術家二人は作家として活動しながらも、いつからかこういう疑問ができたそうです。そのうちに企業の社会貢献活動である芸術プログラムをチャンシンドンで1年間行うことになりました。その後人たちとのいろんなつながりができチャンシンドンで「000間」という組織を作って活動を続けています。数字の0で書いている000間は韓国語の発音で公共空間と発音されますが公共空間を利用する実態はないのではないかと思ってことば遊びで名前を000間で表現したそうです。000間は共同代表2名、マーケッター1名、フラットホームマネージャー1名、プログラムマネージャー1名、デザイナー5名、総勢10名が働きながら地域再生のためのコミュニティデザインを行っています。
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活動としては地域の子供たちと図書館を作ったり、村で捨てられた布の切れ端で座布団を作ったり、年間8000トンぐらい捨てられる布の切れ端を減らすためにZero Waste というシャツを作ったりしています。このZero Wasteシャツは5%、50%のルールがあります。それは捨てられる切れ端が5%未満、生産者に工賃代として販売価格の50%をあげるということでした。このように公共空間は地域と共存していくのが最大の目標だとも言えます。
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また、2013年度は「都市の散策者」というチャンシンドンのまち歩きプログラムを行って約350名がチャンシンドンを訪ねたそうです。現在はワークウェアを開発中であり、衣服製作者の育成教育や青少年インターンシップを運営しながら地域の共同体と一緒に地域の問題を解決しつつ、持続可能な地域再生活動に取り組んでいます。
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<ヘソン地域児童センター>

 韓国では1985年を皮切りにして貧しいところや、工場、田舎の子供たちのための勉強ルームができ始めました。しかし、1998年、韓国内の金融危機により国際通貨基金の救済基金を申請したころから子供たちを世話する勉強ルームが一層増えてきました。2004年児童福祉法が改正され、地域児童センターという児童福祉施設が制度化されました。2013年現在、韓国国内に4000か所の児童センターがあり、利用者は10万に至ります。

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 チャンシンドンで縫製勤労に長時間従事する厳しい環境の中で働く人人の子供を世話するため、へソン児童センターは、ほかの地域より早く1978年、ヘソン保育学校という名前で子供福祉活動を始めました。現在は子供と、両親、教師たちとのコミュニケーションの能力向上、芸術活動を通じた日常の芸術化、村共同対活性化の拠点になる活動を主な目標としています。

 ヘソン地域児童センターのキム・ミエセンター長は子供たちの世話だけでは子供たちの現実が変わらないということで、村の活動に積極的に参加しているのが特徴だといいます。その一環として住民と地域のアーティストたちと一緒に子供図書館を作ったり、村の遊び場を子供と一緒に作って行く予定だそうです。
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<東大門青年>

「デザイン産業のメッカDDP? No 屋上楽園DRP」
 

 東大門市場、50年も経ってしまった古い靴の卸売場商用建物の屋上。DDP(Dongdaemun

Design Plaza)が見下ろせるところで自らDRP(Dongdaemun Rooftop Paradaise)と呼びながら生活しているユニークな青年集団があります。その名前は「東大門青年」

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 東大門青年はソウル市の若者仕事創出事業から運営支援をもらい去年(2014年)2月からチャンシンドン靴卸売場モールの屋上で活動しています。団体の目標は東大門に蓄積している地域支援や空間を活かし青年たちの新しい仕事を発見することです。また、そういう仕事により東大門の生産、流通、文化、活動など全体産業を媒介できる活動を通じて地域再生の動きを作っています。
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 初めて、彼らは東大門に新しい仕事を創出するために来ましたが、24時間休む暇もなく忙しく動いている東大門の流通の仕組みをみて唖然としました。しかし、屋上に上ってみると驚くほど平穏な日常生活が広がっているのをみてここで活動をすることにしたそうです。彼らはとりあえず、50年間屋上で捨てられずに積み上げられているゴミを片付けましたがその中では50年間積みあげられていたお皿、看板、昔のビデオ、日記帳など住民の生活が見られるものをたくさん見つかったそうです。それで屋上で屋上遺跡パーティーを行い、これからの東大門青年の活動とこの空間の活用に関するいろんな意見を集めることになります。そしてダンスパーティーや、東大門の面白いイシューを集めるためにいろんな懇談会を行ったりして地域の商人や住民たちと関係を作ってきたそうです。

 さらに面白いのは屋上で蜂を飼っていることです。彼らは東大門のいろんな屋上に活動範囲を広げ、屋上に庭園を作り、蜂蜜を生産する予定だそうです。それは、ただ蜂蜜を販売する目的ではなくて生産した蜂蜜を各建物の人たちと分け合って関係づくりを続けていくためなのだそうです。そういうことで、長期的には屋上でマーケットや工房、クラブ、ゲストハウスをする予定です。青年たちの創造的な発想で東大門に新しい文化が生まれ、新しい青年の仕事ができるのという、これからの東大門青年の活動を楽しみにしています。
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  ソウルの最後の日は孫大雄(
ソン・デウン)先生との出会いがありました。ソン先生は九州芸術工科大学を創設した小池新二先生に関する博士論文「デザインにおけるクロスファーティライゼィションを主唱した小池新二〜21世紀に求められるデザインのあり方に関する研究〜」で千葉大学大学院を修了しました。藤原先生は再来年に九州芸術工科大学の50周年を向かえるにあたって、小池新二先生を再評価する展覧会を計画しているところ、千葉大学で小池新二先生に関する研究で博士を取った人がいるという話を聞き、話を聞くためずっと探していたそうです。しかも、その人が韓国人ということでびっくりしながら今回のソウルの調査の時に会うことになったのです。
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 その他、東大門の灯が消えないダイナミックな深夜市場の観察。
東大門は、昼は衣服の小売り場市場だとすると、夜は全国各地で貸し切りバスで上京した全国小売り商人たちのためのおろし売り場が開かれます。このように24時間動いている東大門には既存の流通仕組みが続いていつつ、その裏では今回の調査で見つけた新しい文化的な動きが始まっています。SPAブランドの流入や中国への工場移転などの激しい経済的な変化、それに対応するために20年間上がらない工賃で生活してきた結果生じた劣悪な労働、住居環境、競争によるコミュニティ崩壊などの社会問題のなかで東大門の24時間は今からどう続いていくのか今回の調査を通じて東大門の新しい未来を描くことができました。
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以上
D2ジャン

(続いて釜山編が始まります。)

 

 

Comments

    • カキン's comment
    • 2015年04月16日 02:03
    • 素晴らしい記事を拝見頂いました。!

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