毎日新聞 2014年11月25日 02時30分
映画俳優、高倉健さんの訃報を中国の新聞各紙が大きく伝えた。主演映画「君よ憤怒の河を渉れ」が文化大革命後の中国で大ヒットしたことはよく知られている。健さんの背筋の伸びた後ろ姿は、中国でも多くの人々を勇気づけたのだろう。
寡黙で不器用で筋を通す健さんが演じた男の魅力的な生き方に打たれたのは、日本人だけではない。健さんの素晴らしさは国境を超えて人を引きつけるものだろう。
日本と中国と韓国。3カ国の人々が文化や芸術で交流を深めることは、政治や経済で接点を持つのとは、また違った意味がある。それは美とは何か、社会をどう考えるか、人間の生きる意味とは何かと表現し合い、共感し合うことだ。
そこでは国や民族とは違う個人レベルの草の根の交流が生まれる。中国や韓国でも人気のある作家、村上春樹さんは文化交流を「魂の行き来する道筋」と呼んだことがある。
10月末に韓国・ソウルで第4回日中韓3カ国報道人セミナーが開かれた。日本新聞協会、中華全国新聞工作者協会、韓国新聞放送編集人協会の主催で、6年前から隔年に開催されているセミナーだ。今回は各国のジャーナリストが、3カ国の文化・芸術報道の特徴とメディアの役割をテーマに語り合った。
芸能分野での交流が特に盛んだ。たとえば、東京・新国立劇場とソウル・芸術の殿堂が2008年に合同公演した演劇「焼肉ドラゴン」。在日コリアンの鄭義信(チョン・ウィシン)さんの作品だ。演出や役者も日韓共演で、両国で大きな反響を呼んだ。1970年前後の関西の焼き肉店を舞台に、在日の家族の姿を描いていた。
演劇人の交流は枚挙にいとまがない。野田秀樹さんらも、韓国での実績がある。鈴木忠志さん率いる劇団SCOT(スコット)は今夏、富山県南砺(なんと)市で利賀アジア芸術祭を開き、中国や韓国の演劇人も参加した。
映画の共同製作や映画祭も成果を上げている。韓国のテレビドラマは日中で人気を集め、日本のアニメは中韓の子供たちが楽しんでいる。
メディアに求められているのは歴史や背景を踏まえた紹介や、相手への理解に基づく批評だろう。ジャーナリストや批評家同士の交流も必要だ。
3カ国には共通点と相違点がある。日韓合作の舞台では、韓国の俳優の骨太さが日本人の観客に強く印象づけられたと聞く。一方で、日韓の観客は同じ場面で泣いたり、笑ったりしたという。互いの文化は相手を映し出す鏡にもなるのだ。
文化や芸術は政治に翻弄(ほんろう)されやすい。しかし、決して壊してはならない通路だ。相手への知識と想像力を養い、交流を深めたい。














