11月12日(火)pm7:00〜九州大学芸術工学研究院公開講座「20世紀デザインの冒険」の第三回が開講されました。
ゲスト講師は、第一回、二回に引き続き、世界有数の椅子コレクターで有名な
永井敬二先生。海外出張の合間を塗って、お忙しい中、本学にに
お越しいただきました。
ドイツバウハウス、デンマークのデザインと続き、今回はフィンランドのデザイン。
期待とおり数々のデザインされた実物をお持ちいただくことができました、そのうえでお話を通し永井先生の美学をたっぷり堪能しました。
フィンランドの暮らしとデザイン
フィンランドの人口わずか500万人。福岡県の人口が510万人と、規模は同じ程度
であるのに、フィンランドの人々は自らの智恵や工夫で生活をデザインしてきた。
長いロシアによる抑圧の中で、ドイツのバウハウスのデザインの潮流に大きく
影響を受けるものの、独自の温かいデザインと人々の暮らしぶりが見えるような
デザインは、世界中でも愛されている。現在はNOKIAなどが海底ケーブル、
携帯電話などで有名になっている。
フィンランドはもっぱら木材を用いた家具がさかんに作られている。
家具メーカーのARTEKでは、実に多くの職人が一つ一つ素材に手をかけながら
美しい曲線美を持つベンディングチェアなどを製造している。ARTEKは
第一次世界大戦が勃発する1930年代から木材を曲げた家具を製造しだした。
ARTEKでは見学可能であり、古い事務所と新しい事務所で運営されている。
曲木による椅子は、様々なデザイン展開がなされており、貧しいフィンランドの
地をデザインでもって豊かな国へと発展させる、重要な役割を果たしてきた。
アルヴァ・アアルト(1898−1976)
建築家であるアアルトが、妻のアイノ・アアルトらとともに、1935年に
設立した会社、Artek(アルテック)。フィンランドを代表する家具ブランド
として一躍有名となった。
イルマリ・タピオバーラ(1914−1999)
イリヤ・クッカプーロ:ハイニチェアをデザイン。現在AVARTE社の筆頭
デザイナーとして活躍。
ヌルメスニアミ(1927-2003)
トリエンナーレチェア、サウナ用にデザインされたチェア(日本未発売)を
デザインした。
エーロ・ア−ルニオ(1932−)
プラスティックの家具を数多くデザインし、現在はADELTAから販売されている。
タピオ・ヴィルカラ(1915−1985)
彫刻家としても活躍。イッタラにて数々のカトラリーが取り扱われている。
ユキヌンミ(1925-1984)
数学、物理といったものを学んだのち、ヘルシンキの芸術学校にてデザインを
学ぶ。照明器具を主にデザインし、スカイフライヤー(アデルタ社で製造)は
とても有名。フライングソーサーなどもデザインした。
カイ・フランク(1911- 1989)
カトラリー、美しい多色のガラス製品などのデザインも多く手掛けた。
永井さんはカイ・フランクと合う時、蛸壺と地下足袋を欲されていたのでお土産に
持っていったことがある。永井さんは、フジツボと縄がついて潮の匂いがするもの
を持って行ったところ、たいそう喜ばれたそう。西武百貨店のために
デザインした一連のカトラリーをすべてデザインをしていたが、プランがなく
なってしまったこともある。
アルヴァ・アアルトの椅子は、フィンランド産のバーチ材を多く用いる。
バーチは樺材のこと。伐採後約3ヶ月で乾燥する。日本では信じられない早さでの乾燥であり
日本にこれらの椅子を持ち帰ると、形が元に戻ろうとして、足が開いてくる
ところが難点である。薄く製材したのち、接着剤を塗布して熱や力で曲げる。
自由自在に曲げることができる技は、デザインの向上、上質な家具の普及を促し、
双方の発展に大きく寄与した。
3本足の椅子はスタッキングが出来、コンパクトな収容を行うことができる。
ソリッド材(つなぎのない、一枚ものの板)と整形材(接着剤で薄い板材を張り
合わせていく)を両方用いている部分も美しい。座面はマホガニーのものもある。
一つ一つが機械に頼りすぎず、人の目と手がかけられ、美しくも温かみのある
独自の製品として生まれる。
永井さんは、ARTEKの3本足の椅子は座面がリノリウム張りのものからコレクションを始め、
フィンランドにてさらに少しずつ収集していくこととなる。
22年前には姪浜の愛宕にインテリアシアターがあり、そこでアアルトの展覧会を開催した
こともある。
アアルトの家具はフィンランドではだいたい一家に一つはある。
食器はアラビア、カトラリーはハックマン、イッタラであったり。
国民的なデザインとして活躍している。
アアルトの造形は非常に有機的で、木材が優しく馴染みが
良い。椅子の他にも様々な家具をデザインし、ラックや帽子掛けといった小物も
曲木で作られている。
フィンランドデザインの椅子も数多く、スライドや実物で見せていただきました。
フィンランドの椅子は、ドイツデザインと比べ、背丈の低い私でも安心して座れる
ようなものが多くありました。
カトラリーなども、プラスチックやアクリルを用いながら、カラフルな色遣いや
クールな黒色であっても、どこか格好付けすぎず背筋を正して生活感なく使う
というよりもむしろ、だれでも日常になじんで使えるような印象を持ちました。
フィンランドのデザインはもっぱら木製のものが多く、金属性の足はスイスデザインに多く見られるそうですが、日本人にとっても馴染むものが多いようです。
それでいて、はっとするような機能を併せ持ち、日々人々が感じている家具やカトラリーに対する無意識的なフラストレーションを、軽やかに解消している様はさすがだな、と思いました。
ポットの蓋についた突起が、お茶を注ぐ時に蓋が落下するのを防いでくれる
カップ・ソーサーは透けるように薄く、口当たりが良さそう
アルヴァ・アアルトのフラワーベース
老舗レストラン、サヴォイで使われたことからサヴォイ・ベースとも呼ぶ。
木型にガラスを流し成形したもので、ところどころの厚みが異なり
有機的な表情を見せている。
公開講座終了後は、近くの赤木酒店でさらにデザイン談義が行われていました。
家具を語るということが、人との出会いや、自らの暮らしそのものを愛でる
行為なのだと、短い時間ではありましたが、とても勉強になりました。
D3 國盛