1月29日16:40ー18:00 九州大学大橋キャンパスにて
谷口先生の博士論文公聴会が行われました。 谷口文保先生は神戸芸術工科大学で
教鞭を取られながら、研究室の博士学生として在籍され、近年興隆するアート
プロジェクトの背景・手法・表現形態・問題点・可能性などを独自の視点で切り
開き博士論文として執筆されました。
谷口先生の原点は彫刻のアーティストで、アートプロジェクトを通して社会的文脈
へ介入してゆくこととなります。 教育・福祉・地域再生といった場面において
アートプロジェクトはどのような存在か。 「公共事業とアート」の価値を共存させ
ようとしているアートプロジェクトは、多様な人々を介在させ「共創を誘発する」
仕組みとして機能してゆくと、力強いメッセージを込められていました。
「芸術創造と公共政策の共創を誘発するアートプロジェクトの研究」
日 時:2013年1月29日(火)16時40分~18時10分頃まで
場 所:九州大学大橋キャンパス 5号館521教室
主査:藤原惠洋教授(九州大学大学院芸術工学研究院教授)
副査:包清博之教授(九州大学大学院芸術工学研究院)
後小路雅弘教授(九州大学大学院人文科学研究院)
序論:アートプロジェクトが全国的に普及している
アートプロジェクトは芸術創造であり、公共政策でもある
総合的な研究が必要である
研究の背景:アートプロジェクト公開の検証
アートプロジェクトの仕組み・方法・課題の抽出
アートプロジェクトの意義に関する俯瞰的観点からの考察
研究目的:アートプロジェクトの発展過程を考察し、成立と展開を明らかにする。
本研究では「地域に芸術を投げかける社会的活動」と定義する。
第1章 アートプロジェクトの成立と展開
アートプロジェクトの発展過程を考察し、その成立と展開を考察する
発生の背景
芸術創造に関する要因……ランドアート インスタレーション 公共政策etc…
1990ー1993:黎明期− 1994−2000年代:実験期− 2000−2012年:発展期へ
第2章 地域固有資源を生かすアートプロジェクト
地方の重要性−—−現代芸術が大都市中心の活動から開放された
阪神淡路大震災−—−芸術文化・公共政策・アートプロジェクトの発展69事例
第3章 教育と地域社会をつなぐアートプロジェクト
・町ぢゅう美術館 ・ホタルキノコ ・加古川市立山手中学アートプロジェクト
第4章 コミュニティを育むアートプロジェクト
舞多聞ネイチャーアート
注文の多い楽農店 [たほりつこ]
阪神淡路大震災後、公共住宅の中庭に畑を構え、コミュニティを構築する要素を
直接的に支援するもの。
畑づくり−—−芸術創造としてコミュニティ形成を支援するものとなった
第5章 福祉と育みあうアートプロジェクト
・みっくすサイダー
・えびすアートプロジェクト
第6章 アートプロジェクトの方法と考察
住民参加 共同制作 領域横断→表現と交流の循環が生まれ、共創となる
企画方法10プログラム運営方法3段階10技法 ……………計画段階・実行段階・評価段階
アートプロジェクトの課題
図:谷口文保先生作(クリックで拡大)
アートプロジェクトの副作用………ファルマコン(薬と毒)
暴力 搾取 権力 支配といった状況を生んでしまうリスクがある。
公共政策・領域横断 ⇔ 純粋芸術としては質が低いのか?
交流を促進 ⇔ 混乱・トラブル 暴力性
文化を誘発 ⇔ 文化を変容させてしまう
このような危険性を事前に考慮することによって、より地域に対するアートプロジェクトの
有効性を高めることができるのではないか。
共同制作における著作権
地域固有の文化の創出
第7章 アートプロジェクトの意義
芸術創造的価値 共創芸術の特徴
共感性--------包摂性-------連鎖性
住民参加------共同制作------領域横断
芸術創造的価値・共創芸術の誕生・芸術の相対化が必要である。
公共政策的価値

図:谷口文保先生作(クリックで拡大)
質疑応答:
Q:非常に分かりやすく説得性のある論考であった。
黎明期、実験期、発展期の違いはなにか?
A : 黎明期は芸術性重視のものが多数であり、実験期に入ることにより参加者の
主体性あるいは公共的視点をもったアーティストによる作品が生まれはじめる。
実験期から発展期にかけては、社会的使命を明確に持ったプロジェクトが多数
生まれてくる。このようにアートプロジェクトが芸術家主体のものから市民参加型
あるいは市民主体のものが増えることで公共政策としての特性を持つように
なったと考える。
Q:このような活動および評価考察は今後、実社会の多様な場面でより必要と
されると感じる。 市民参画の公共政策とはなにか。共創の条件はなにか?
A : 公共政策は多岐に渡る。本研究における公共政策は、人々のコミュニティ
創出を望む場合に効果を発揮する。
例として瀬戸内国際芸術祭では、元ハンセン病患者の方々が暮らす大島
にて「やさしい美術プロジェクト」が実施され、画期的なものとなった。Q:伝統的祭礼との相違点はなにか。
A : アートプロジェクトは確かに新しい祭りとも言える。相違点は、
伝統的祭礼→ 血縁・地縁が基礎である。
アートプロジェクト→地域密着型であれども内外の人々の参画が可能である。
Q:非常に明解な論考で興味深い。今後は日本国内のみならず、東南アジア圏から
考察してみては?
A : 先日、福岡アジア美術館にて韓国における“現場美術”という美術が紹介されていた。
民衆の芸術という意味では需要が同じように高まっておりメキシコの「壁画運動」
もそのような潮流の初期段階にあると言える。国内においては民芸運動も存在し
デザインの分野においても類似する動きがあった。
これらは「国内」の「アート」のみの現象ではない。普遍性を持つ問題であり
今後発展する東南アジア社会にも注目したい。
Q:アートプロジェクトが投げ込まれるコミュニティについてはどう考えるか。
プロジェクトの質が問われるのと同時にコミュニティの質も重要であると考えるが。
A : 確かにコミュニティの特性によって成果が左右される。
本研究においては小規模で人間関係の密度の高いコミュニティにおけるプロジェクト
が比較対象となっている。
谷口先生のご発表は、まるで良質な講義を聞いているかのように明確で分かり易く
その上独自の知見に溢れたものでした。 どのような質問に対しても納得できる
回答を述べられる谷口先生はとても輝いて見え、同じ研究室生であることに誇りを
感じました。谷口先生の研究を大いに尊敬し、影響を受けながら、私自身もアート
プロジェクト研究に活かしてゆきたいと思いました。
谷口先生、本当におつかれさまでした。とても輝いていらっしゃいました!
D3 國盛























