
11月7日夕刻より菊池隈府の御松囃子御能場を舞台に繰り広げられた壮大なワヤン・ベベル「スタソーマ」。主宰の小谷野哲郎氏の朗々たる語り、舞踊団による華麗なガムランの調べに艶やかな踊り、幻想的な時間が流れました。
約2時間にわたり、ガムラン音楽と舞踊、そして今回の公演の最大の目玉であるワヤン・ベベル(インドネシア語でワヤンは「影」から転じて「演劇」「芝居」,ベベルは「巻く」の意。総じて絵巻物語)『スタソーマ』が繰り広げられました。



(途中から写真におさめるのを忘れるくらい見るのに夢中でした。ごめんなさい。)
御能場の半屋外空間とバリ芸能が見事に混交し、隈府の一角がどこか別世界へと誘われたかのようでした。
『スタソーマ』がとても繊細で力強い絵巻物と共に物語られ、ガムラン音楽がその話の展開を盛り上げ、いよいよクライマックスへと向かったとき、御能場の正面にある菊池高校のその先にまで届くような小谷野さんの語りがぐわんと響いて、鳥肌が立ちました。まるで隈府全体を包み込むかのような響きでした。
公演後、ゆっくりと小谷野さんがこのワヤン・ベベルについてお話ししてくださいました。
インドネシアでは世界遺産にもなっているワヤン・クリ(影絵芝居)と同じく歴史があるワヤン・ベベルは、現在現地でもほとんどその姿を消してしまったバリ芸能、祭祀の一つで、その再興を試みようと立ち上がったのが、ガムラン奏者であり絵師でもあるデワ・スギさんと小谷野哲郎さんなのだそうです。デワ・スギさんは、この絵巻物を3年もの月日を費やし描き上げ、小谷野さんと何年もかけて構想し、ついに今回の公演を実現することができたとのこと。また、この絵巻物語のために、スギさんの弟のデワ・ライさんによりガムラン音楽が作曲されたのだそうです。


インドネシアでは、このような芸能は娯楽として親しまれ、また神様へのお供え物として奉納されてきました。農耕社会の中では、ガムラン音楽やワヤン・ベベルなどの芸能は生活の一部であり、重要な祭事であるのです。またそれだけでなく、例えば物語は教訓めいたものが多く、そこから多くのことを学びとることができるのだと、小谷野さんは言います。今回公演された『スタソーマ』には、様々な対立や戦いの場面がありますが、そのいずれの結果にも「敗者」の姿はありません。武力を行使して相手を倒すのではなく、ただ穏やかなこころでいることで、相手がじぶんを顧み、非を認め、共存していく、そのような場面が幾度となく登場します。このことは、多民族国家であるインドネシアの、多様な中でお互いを認め合って生きようという精神をうつしとっているそうです。また、このことは、今のわたしたち、今の世界にとって、必要なことではないか、と小谷野さんは最後におっしゃいました。
多様であることは、ただそれだけでは成り立たないのだということ、互いが相手を思いやり、認め合うことではじめて成り立つのだという、その強いメッセージに深く感動しました。
[D3 nakamura]














