(…)みんなががんばってオープンした直後は花が咲いてお花見をする感じ。そして、花は必ず散るように、会期があるから展覧会も終わる。でも、終わった後には、種とかいろんなものをみんなが落とすんじゃないかな。(…)花が咲く背景には、土に還って養分となったたくさんの葉っぱがある。
—奈良美智の言葉より(『A to Z 奈良美智+グラフ』フォイル、2006年)
本展では、美術館になる前の煉瓦倉庫で開催された、弘前市出身の現代美術家・奈良美智(1959-)による三度の展覧会の軌跡を、さまざまな資料、写真や映像で振り返ります。
1988年に渡独した奈良は、海外での活動も積極的に行う中で2000年に帰国します。翌年から国内初の本格的な個展「I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.」が全国を巡回し、2002年には煉瓦倉庫を会場として開催されました。これを契機として、続く二つの展覧会「From the Depth of My Drawer」(2005年)「YOSHITOMO NARA + graf A to Z」(2006年)が煉瓦倉庫で開かれました。
タイトル「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」は、当時の煉瓦倉庫のオーナー・吉井千代子(吉井酒造株式会社社長)が、奈良の作品に強く惹かれ、自分の倉庫で展示をしたいとギャラリーに問い合わせたというエピソードにちなんでいます。この一本の電話が、吉井と奈良の出会いにつながり、煉瓦倉庫での奈良美智展が実現しました。
弘前での最初の奈良美智展から20年を迎える本年、煉瓦倉庫と地域との関係性において重要な意味を持つ、この三度の展覧会にあらためて光をあてます。当時の印刷物やグッズ、記録映像の資料、展覧会準備の様子や展示風景を撮影した写真家の永野雅子と細川葉子による写真で構成します。また、過去に出展された奈良美智の作品も一部展示します。弘前での「奈良美智展」というひとつの事例から、地域のアートプロジェクトや美術館、そしてそこに関わる人々について考えをめぐらせるための場の創出を目指します。
展覧会のみどころ
1.印刷物やグッズ、映像などさまざまな資料を中心に、三度の展覧会を多角的に振り返る
当時の関係者へのインタビュー映像のほか、市民の協力により集まった印刷物やグッズなどの資料を展示します。三度の展覧会準備から完成までの軌跡を紹介するとともに、煉瓦倉庫の持ち主であった吉井千代子と奈良の出会いや、展覧会運営を担ったボランティアの存在を起点とした持続的なコミュニティ形成のあり方など、異なる切り口から三度の展覧会をとりまく要素を考察します。
2.展覧会が生まれるエネルギーを伝える写真展示
「奈良美智展弘前」準備中の会場風景、展覧会づくりに参加した人々や当時の街の様子を撮影した、永野雅子と細川葉子による写真を紹介します。共通する対象をそれぞれの視点で捉えた写真群は、当時の建物や展示の詳細な記録を伝えるドキュメント資料としての役割を持つだけでなく、展覧会の完成というひとつの目標の下に集結した人々の熱気や、当時の煉瓦倉庫がまとっていた場のエネルギーを伝えます。本展の会場構成には、過去の弘前での展示のグラフィックを手がけたデザイナーの山本誠が参加します。
3.当時の展覧会で出展された奈良美智の作品を一部展示
三度の展覧会の資料とともに、過去の弘前での展示に出展された奈良美智作品の一部を展示します。煉瓦倉庫の記憶を継承しつつ美術館へと生まれ変わった展示空間で、絵画、ドローイング、立体作品などを紹介します。また、奈良が故郷の弘前で暮らしていた時代に親しんだ書籍やレコードもあわせて展示します。
4.展覧会と並走する参加型プロジェクトの展開
「弘前エクスチェンジ#05」では、「奈良美智展」の記憶をたどり、演劇を作ることであらたな考察を試みる「もしもし演劇部」や、三度の展覧会をきっかけに街や人にもたらされた変化を探る「小さな起こりリサーチプロジェクト」など市民参加型のプログラムや関連する展示を行います。三度の「奈良美智展」が地域に蒔いた創造性に光をあてつつ、それを大きな契機として美術館へと生まれかわった煉瓦倉庫のこれからの姿を考えます。
展覧会ブックレット
展示解説や展示風景写真などを収録した展覧会ガイドブックです。藤原旅人氏、高橋しげみ氏による寄稿をはじめとしたテキストも掲載しています。デザインは本展の会場構成やデザインを手がけたデザイナー、山本誠氏が担当。
美術館隣のミュージアムショップほか、オンラインショップで販売中。
・インスタレーションショット撮影:長谷川正之
・仕様:88ページ、フルカラー、A5判
・発売日:2023年2月3日
・販売価格:1430円(税込)