建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、藤原惠洋(ふじはらけいよう)教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
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天草を、天草と、天草へ、そして天草から

おおいなる想像力と創造力をはばたかせて

平成28年度九州大学社会連携事業「天草・下浦フィールドワーク2016」

開催へ寄せて

主催者代表 九州大学大学院教授 工学博士 藤原惠洋

 2016年もなかば。8月盆も過ぎましたが、例年にも増して、暑い夏が続きます。いたって天候が読めません。局所的な集中豪雨が断続的に襲ってきましたが、幸いにも大きな台風がなかなか近づいて来ません。本年4月14日の前震、16日未明の本震と引き続いて大災禍をもたらした熊本地震で気候や大地や気流の流れが変わっているのでしょうか。

 さて私事に及びますが、建築を専らとしながらも、私は1980年代初頭、まだ若い少壮の大学院生の頃から、建築・都市の歴史的文脈を探索するための「デザイン・サーヴェイ」手法を皮切りに、今和次郎発案の「考現学」の観察手法や文化人類学的「フィールドワーク」をたっぷりと身につけることができました。その経緯と詳細は、先に記したWeb版「月刊杉」の一文に譲りますが、おかげで日本国内はもとより世界79カ国を歩いて来たことになります。その挙げ句、今は、わが国の小さな村社会に対する関心を高めており、その良き事例のひとつとして、この三年間にわたり、天草市下浦地区の調査研究を進めてくることができました。そうした成果は、すでに幾多の学会や研究会でも発表をしています。あらためてその成果を以下に概括しておきます。

【天草・下浦から獲得した研究教育の足跡と発表成果】

1]元来、九州大学藤原惠洋研究室は、日本近代建築史学と芸術文化環境論を主軸とした実証的調査研究活動を基盤としている。近年は地域再生、文化政策、創造都市、世界遺産等の実践的な政策立案へ至る調査研究を進展させている。社会的要請を受けるかたちで福岡県内の数多くの自治体をはじめ、山口県山口市、周南市、防府市、下関市、熊本県阿蘇市、菊池市、大分県日田市、竹田市、長崎県平戸市、対馬市、佐賀県小城市、宮崎県椎葉村等、九州・山口をエリアに多彩な場所で基礎的フィールドワーク調査と課題解決・政策提案型デザインワークショップを展開。その際の作業規範は、地域の歴史(文脈)を実証的に紐解き、地元住民の誇り(矜持)を蘇らせ、住民同士や新旧のネットワーク(紐帯)をつなぎ直すことを基本にプログラムを組んでいく、という愚直な方法である。地元住民の地道な取組みが基本であるものの、いわゆる「よそ者」が参加・協働し蘇り活動を展開することで、日頃見えなくなった地域の宝を「地域資源」として気づき直し、他者の目を通し評価し、地域そのものの価値や魅力をあぶりだすことができる。これまで地域で取り組んできたことをリセットするのではなく、毎日・毎週・毎月・四季・年間の流れの中で、どのような取り組みがされていたのか、丁寧に振り返りながら文脈を見つけ出す。その取り組みを踏まえ課題を抽出、課題解決や改善へプログラムを組むことで地域住民の参加がしやすく配慮することが肝要である。また、これまでのフィールドワークで実験的に提案してきた「民泊」も今後の着地型エコツーリズムや遠来の「風の人」受け入れを考える上でも重要である。一方、参加者には一般の宿泊施設より「民泊先のもてなし方」「費用」「他人との交流」などの不安要素が残り、受け入れ側の課題と併せ受け入れは容易ではない。しかし民泊実施は毎回のフィールドワーク閉会式における学生からの感謝や受け入れ側の感謝の言葉を通して力強い可能性を感じることが多い。事業後も地域と学生との手紙やメールでの交流が続く等、参加と受け入れの相互による多様な波及効果が大きい。

2]九州大学藤原惠洋研究室では、平成13年(2001)市町村合併を目標とした新市建設計画案構想へ参加。その後、天草陶磁器窯元 の丸尾焼調査が発端となり、丸尾會へ参与した牛深ハイヤ祭りへの参加を通し、学生の教育フィールドとして天草上下島各地域への自主踏査を重ねるようになった。

3平成18年(200611月から開始された天草ルネッサンス「天草謹製認定委員会」事業が依頼し、藤原が審査委員長をつとめる「天草謹製審査委員会」が以下(1)天草の人(技)と素材が創り出すもの。(2)まるごと天草を伝えるもの。(3)天草のまごころを込めたもの。の3項目を主眼に選考した。その結果、第二回審査時、下浦石工の千葉順次氏が提出したオーディオ・スピーカー「あんぐり」が認定された。きわめてイノベーティブなアイデアで栖本石と水の平焼をコラボし、意匠上も優れ、低音域と高温域に特徴を示した音響特性上も高く評価された。そこから藤原は、以前より跡づけたいと構想していた小山秀之進と相俟って重要な歴史的存在である天草石工の故郷として、千葉氏が居住する下浦地区への関心と憧憬の念を一気に募らせることとなった。藤原を下浦地区へ案内した最初のナビゲーターであった。天草謹製の主旨に唱われた「天草で生まれ育った素材の良さを、伝統の技と新たな知恵、ふるさとを愛する熱い想いを胸に引き出すのは多くの職人たち。「天草謹製」の称号は、その手から創りだされた逸品の中からさらに厳選したものだけに与えられる」に相応しい作品を生み出した気概と創意工夫を満身に込めた天草石工である。

4]平成22年度より写真家藤田洋三氏をナビゲーターとしながら天草全島で世間遺産踏査を実施。五和町御領地区、牛深・加世浦地区、宮浦地区等へ幅広く展開。さらに平成24年度下浦地区において世間遺産踏査を実施。そこから生まれた成果を下浦公民館において写真展として開催。ならびに平成25年度、下浦石工千葉順次・友平親子を受け皿として、下浦地区において藤原の世界遺産関連調査を実施した。

5]藤原が文化庁文化審議会世界文化遺産特別委員会委員として世界文化遺産登録『明治日本の産業革命遺産群』(長崎の関連遺産群、三角西港等)ならびに暫定リスト『長崎の教会堂群』(大浦天主堂、崎津教会堂等)へ歴史的に貢献した天草石工の足跡を実証してきた。

6]平成26年度九州大学社会連携事業採択「ユネスコ世界文化遺産をものがたる天草石工と九大生がつながりもやう域学連携デザインワークショップ」

7Web版「月刊杉」特集 天草・下浦フィールドワーク2014報告

8]平成26年度九州大学社会連携事業報告書「天草・下浦フィールドワーク2014」

9Web版「月刊杉」特集 天草・下浦フィールドワーク2015報告

10]平成27年度九州大学社会連携事業報告書「天草・下浦フィールドワーク2015」

11]高倉貴子・藤原惠洋「地域固有資源の発掘と活用に基づく創造的地域再生デザインワークショップの評価と課題―九州大学藤原惠洋研究室による九州大学社会連携事業「天草下浦フィールドワーク」の実践を通して― 」文化経済学会2015年度高崎経済大学研究大会発表論文。2016.03,04

12]藤原は、一連の天草フィールドワーク事業による成果をもとに、新聞紙上で地域再生を論説。TOKYO FMにおける特別番組「小山秀之新特集」作成へ還元。そのうえで参加者相互のネットワークの構築や下浦地区と参加者の連携や協力支援関係の創出といった一連の流れを生み出してきた。

13]平成27年度九州大学社会連携事業「天草の地域再生デザインを先導する日韓デザイン系大学インターゼミ〈地域再生デザインセンター研究拠点創出〉天草ワークショップ」

14]さらに天草・下浦フィールドワーク2015に参加した韓国余美里村関係メンバーの要請に寄り、201512月には韓国余美里村を下浦住民代表10名が親善訪問した。地方再生を共通のテーマとした国際交流への基盤を創出した。

15]藤原惠洋「天草における文化資源としての下浦石工を活かした地域再生への挑戦的試行〜天草・下浦フィールドワークが炙り出す地域再生へのシナリオ創出と実践〜」文化経済学会〈日本〉大阪樟南女子大学研究大会発表論文 2016.07.2

16」藤原惠洋講演「廃校を、まちづくり創造拠点のチャンスとして考える
〜全国各地の注目すべき事例から学ぶ〜」下浦地区コミュニティセンター 2016.07.23

17]平成28年度九州大学社会連携事業採択「九州大学学生と日韓市民による国際協働型地域再生デザインワークショップの実践と下浦ガイドブックの作成の支援」



 すなわち本年度も九州大学社会連携事業として連続採択されました「天草・下浦フィールドワーク2016」も、その中から生まれた副産物となります。

 多くの下浦住民の方々の受け皿を頼りに、九州大学学生はもとより全国の大学生諸君、さらには海を越えて韓国産業技術大学の学生諸君、そして同じく海辺小村の再生に取り組むヨミリ村からの地域づくり実践活動家のみなさまをお迎えして開催するものです。九州大学の私の研究室で事務局とも言える準備活動を進めて来た大学院生諸君に聞くところ、下浦地区の住民の方々や他の地区からのギャラリー参加のみなさんまでを含めると、優に百人を越える大規模な参加人数の地域再生ワークショップとなっていることを誇りに思います。同時に、あらためて受け入れにご尽力くださっております松岡政幸会長をはじめとする下浦地区振興協議会実行委員会のみなさまと天草市まちづくり支援課のみなさまに感謝申し上げます。

 そしてさらに今回の地域再生ワークショップ開催が、長らく専門家として数々の同種事業を全国各地、さらには海外においても展開して来た私にとって、およそ最期ともなる企画として位置づけられることをあらかじめお伝えしておかねばなりません。

 思えば現在の天草市にも、以前の本渡市や牛深市をはじめとする郡部の各所へ断続的に調査研究で通った1990年代から数えれば、すでに20年を超えるほどのおつきあいとなっております。この間、地域社会を構成する住民のみなさんの暮らしや生業を多角的に知ることから、じつに多くの意義深い学びと気づきや喜びがありました。さらに数多くの課題があることもわかっていきました。研究教育の立場から、こうした課題を得た際には、私たちが最も得意とするデザイン分野の底力を用いて、地域改善や地域再生への提案を多々生み出してきました。しかし一方で、私たちの気づきや提案を一気に追い越すかたちで、2015年に「日本創成会議」人口減少問題検討分科会の推計は2040年地方消滅可能性都市の896自治体のひとつとして天草市や上天草市を公表・指摘しました。今後の人口推移の中、若年女性が大幅に減少する自治体は「将来消滅する可能性が高い」と指摘したのです。熊本県内では26の市町村が該当すると言われました。

 あらためて私は、眼前に広がる天草上下島の現実社会を直視しながら、緩やかな縮小と衰退を重ねて行く日々の課題をどのように乗りこえていくことができるのだろうか、とつぶやきのような思案を繰り返すばかりです。

 しかし、この私のつぶやきが誰かの耳に届き、誰かの想いに伝播し、誰かの叡智や活動を促すならば、他人事のように訪れる緩やかな崩壊を黙ってみているだけより、立ちはだかる巨大な岩を堀り砕いて行く石工の一撃のごとく、遥かに意義深い一歩が踏み出せるものと信じてきました。

 さて、このたびの「天草・下浦フィールドワーク2016」では、どうぞ私の名刺をお手になさってください。良き出会いの記念でもあります。そして、私の覚悟や態度をお伝えしたいと記したものでもあります。けれど、どこか気恥ずかしいので、さほど人前に曝したことがないものです。じつは、そこには私のもうひとつの存在[

「藍蟹堂 藤原惠洋」が次のように記されています。

  まちむらの辻々を歩いて、逍遥家。

  見えないものを観出して、観照家。

  忘れたものを炙り出して、文脈家。

 この際の雅号は「らんかいどう」と称します。好きなスケッチを描いたり、我流の画文を楽しんだりする際に用いてきたものです。若い頃から中国大陸を踏査することが多かったせいか、各地で彫って頂いた落款も数多く所有しており、昨年までの「天草・下浦フィールドワーク」ではたくさんの駄書と押印を見て頂いておりました。

 いよいよ今年の下浦三年目となるフィールドワーク事業となります。この間、多くのスタッフと支援者に恵まれました。彼等彼女等が成長することを願ってやみません。たくさんの地域社会から御支援を頂戴してきましたことに対して、十分なお返しはできておりませんが、数多くの若い学生諸君を中心に「わかもの」「よそもの」そして「ばかもの」を誘って来たことに関しては人後に劣るものではありません。良い現場への踏査チャンス。良い人物との出会い、そして良い課題への取組みと集った内外のメンバーによる人間力の交流交歓。きっと何かが産み落とされていくのではないか、と鶴首して待つほかありません。どうぞこれからも長いご交流をお願いします。

 長くなりましたが、みなさまへのこれまでの御礼とこれからのエールを兼ねて、私が先月、文化経済学会〈日本〉で発表した成果を最後にお伝えしておきます。



 天草・下浦フィールドワークはユネスコ世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」や今後へ続く長崎教会堂群へ向け貢献して来た下浦石工と世界中からの学生や教員・同人、デザイン仲間達がつながりもやうことを念頭に、地域と大学が「域学連携」しあう短期滞在型のデザインワークショップを創出してきたものである。

 将来のデザイナーおよび生活ユーザーでもある学生が石工文化の産地や技能者と直截的に交流をしながらデザイン力を育んでいく。同時に、地元はこうした機会を活かして情報発信や石工仕事のブランド化を展開することができるだろう。下浦における少子高齢化や石工産業の衰退化に伴う困難な課題に対し、私たちは「よそもの」「ばかもの」「わかもの」の視点から、多様で溌剌としたなデザイン提案を生み出していくことができるだろう。4) 石工技能者とのコラボレーションが育てば製品化も夢ではなく、近い将来、別の事業として展開して来た天草ルネッサンス「天草謹製」事業(下浦フィールドワークの企画立案者でもある筆者が、2007年創立以来、選考委員会委員長を務める地域ブランド創生事業)へのチャレンジを進めることができる。

 あらためて天草には、日本の宝島と言われながら、緩やかな崩壊へいたる道筋から誰も逃げられない厳しい現実がある。が、無垢だけれど溌剌とした笑顔と叡智を傾ける若い仲間達を集め、フィールドワークとワークショップを展開していくことで、下浦のまちを歩き、石工場を訪ね、技能者や先達といったマイスターと語り合い、未来の下浦を語りあう。そこから眼前の天草に対し、下浦に対し、地域再生へ向けたささやかなシナリオ創出と実践のための処方箋を提供してきたと言えよう。

 毎年開催してきたこのフィールドワークとワークショップは今年を最後として閉幕する予定である。数々の参加者の笑顔と叡智が溢れる現場を幾重にも構築することができてきた。これから集いは別のかたちで続くだろう。そこにはささやかなつぶやきから何かが生まれるような、何かが起こるような、待望の場が育っていくに違いない。

   

出典:藤原惠洋「天草における文化資源としての下浦石工を活かした地域再生への挑戦的試行〜天草・下浦フィールドワークが炙り出す地域再生へのシナリオ創出と実践〜」文化経済学会〈日本〉大阪樟南女子大学研究大会発表論文 2016.07.2



 平成28年8月吉日




 


 


 


 

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