建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
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2016年8月11日(木)山の日14:00~16:45快晴。
九大箱崎キャンパスにおいて、歴史的な九州大学の施設群や建物をみて歩きました。

これは、伊都キャンパスで藤原惠洋先生が開講していた学部1年生向け授業のオープンセミナー「まちあるきとブラ遺産」の補講版とも言う演習でした。
前期講義終了時に、学部1年生の受講生有志から、ぜひ九大箱崎キャンパスを案内して欲しいという申し出があったのです。
それが契機となり、今回の九大箱崎キャンパスのまちあるきが開催されました。

九州大学は現在、基幹教育が糸島市近くの伊都キャンパスにて行われており、近い将来には、ほとんどの施設が伊都キャンパスへ移転すると言われています。
そのため、すでに旧教養部だった六本松キャンパスは無くなり、さらに中枢とも言える箱崎キャンパスにおいても解体・移転作業が行われています。

いくつかの遺産的価値の認められた建築は保存されることが決まっていますが、全てが残されるわけではないため永遠に失われてしまう建築も少なくありません。
 

案内は日本近代建築史学を専攻されてきた藤原惠洋先生がみずからつとめていただくこととなりました。いつもの先生のお話らしく、けっして専門的な用語を用いた難しい話ではなく、いたってわかりやすいお話を通して説明を重ねていかれました。
参加者は、ふ印ラボ顧問の鈴木秀文さんをはじめ、ふ印ラボからは、博士後期課程の岩井千華、修士課程の吉峰拡、さらに学部1年生は法学部の戸倉さん、工学部の牟田くん、文学部の中村さんと門原さん、そして、まったく偶然に正門近くでお会いしたOBのかた(埼玉出身の九大理学部物理学科OBの小西岳さん。運良く、千葉から息子さんと九州旅行に来られていたのです。高校1年生の息子のたすく君を率いておられました)
 

炎天下で気温が35度近い14:00に正門前集合し、工学部本館、九大本部、旧図書館書庫を経て50周年記念講堂、さらに建築学部、航空学科と周り、中央図書館を経由して最後は農学部の構成見本園を見て、地下鉄貝塚駅にて16:45頃解散しました。


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 ↓千葉から来ていた九大理学部OBの小西さんも一緒に行くことになりました。
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 先生より、「空間的特徴と歴史的意義を見ていきましょう。」

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   九州大学の前身は京都帝国大学の医学部の分校、京都帝国大学福岡医科大学として明治36年(1903)に設立されました。その後、明治44年(1911)産業界などの要請と銅山経営で財を成した古河財閥(古河虎之助)の援助を受けて工学部(土木、機械、電気、応用化学、採鉱、冶金)が設置され、九州帝国大学が創立。東京、京都、東北に次ぐ4番目の帝国大学でした。大正8年(1919)には農学部が、同13年には法文学部が設立されました。戦後には教育学部、歯学部、薬学部などが新たに付け加えられ、総合大学として発展し現在に至っています。正門は再配置されたものとのことでした。

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正門門衛所(大正3年竣工)

 ↓は法文学部で1926-27年にできました。
建物は大きく古典型と非古典型に大きく分かれます。守衛室や旧工学部は古典型、この法文学部は非古典型です。工学部に対して、市民のデザインかくあるべしということで建てられたのだそうです。
九大は、東大、京大、東北大に続き4番目に建てられました。はじめは進んでいなかった九大の建物建設が古河財閥の寄付により工学部も建設されましたが、1923年工学部は火事で燃え、その後1925年に再建されました。以前の工学部はレンガ造りだったとのことですが、この火事にあって、使えるレンガをとり置き、新たな工学部再建の時にこの赤レンガを使ったそうです。現在の本部のある建物は1928年竣工。現在の建物は鉄筋コンクリートで赤レンガは化粧材とのことでした。

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大学本部(大正14年竣工)

古典系の表情をもつ鉄筋コンクリート造、車寄せのある堂々とした建物です。ネオバロック的と表現できます。旧本部が焼失した後のレンガをファサードに再利用している。左官仕上げの石のイミテーション(擬石・洗い出し)もあります。


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旧工学部本館

長石や鉱石のイメージにたち、ギザギザ、トゲトゲの意匠をモチーフによく使ったアール・デコ様式の建物となります。鉄筋コンクリート造ですが、表面には化粧材としてスクラッチタイルを芋目地張に施しています。正面の鷲の装飾は砂岩を加工したものですが、面を立体的に切り出しています。この砂岩の出自に興味がひかれますが、地元産の素材を活用していると考えられます。重々しさを払拭するため表面のタイルが横方向にストライプが伸びています。近代主義建築(モダニズム建築)が登場する前夜の時代のものとなります。

古河財閥の支援を物語る資料や、ふ印ラボ同人で市井で大活躍の市原猛志先生が助教を務める九大100年史編纂室もあります。
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  アールデコのモチーフは鉱物やダイヤです。それが鷲と組み合わさるとこのようになるのですね。
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 ↓この入口上部にあるのはフェンツーンといって歓迎の意を表すそうです。
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・旧法文学部本館(通称:法文経ビル)

建物を正面から見て巨大な外観を上下に三層分として分割するのはルネサンス期以来の西洋建築の方法ですが、印象はより近代的な外観構成を見せています。円形のドームの装飾を繰り返すモチーフはルント・ボーゲン・シュティール様式の特徴と言えます。これは、もっぱら南ドイツ一帯で見られるものです。一方で、アティック層に饕餮紋(雷紋や回紋)が見られますがこれは中国のモチーフで、もともとは永遠の命を表すそうです。戦前期の九大が展開させていたドイツに影響されながらも東洋研究していたことを象徴するモチーフです。

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旧附属図書館

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 旧アドミッションセンター。法文に属していた臨床心理の教室があったとのことです。
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・旧図書館、元購買部前の前方後円マンホール

通常の円形マンホールに長方形の蓋が接続して前方後円墳、または鍵穴のような形状になっています。これと同じ形状のものは東大駒場キャンパスや北海道大学、神戸大学などにあるということです。この形状の理由は横引き管を出し入れしやすくするための空間を確保する必要があるから。一種の地域内冷暖房システムといえるものを構築していることからこういったマンホールが設置されているのです。大学の設計とはつまり小さな都市計画ともいえるのですね。
 

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 ここは松原道路と言います。以前はこの近くまで海がありそれを埋め立てて現在の土地になったとのことです。ここの松はその当時の松で、古くて大きなカイヅカイブキもありました。
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   九大の50周年記念堂です。光吉健次先生によって設計されました。光吉先生は丹下健三先生のお弟子さんで、丹下は「都市は時代に応じて変化していく(メタボリズム)」を唱えられました。この建物は空間を2つの柱でささえています。コンクリートはプレスコンクリートでこれを使うことでコンクリートの弱点である「圧縮には強いが引張には弱い」を克服しているそうです。
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 この出っぱっている部分をキャンチレバーといいます。これを設計した光吉研究室のメンバー(加藤さん、松尾さん、古賀さん他I)に藤原先生はヒアリング調査をしたことがあるどのことです。
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 ↓のキャットウオークは、火事などで逃げる場合の緊急避難の場所になっているそうです。
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 ル・コルビュジエが設定した近代建築の5つの要素、「ピロティ」「自由な平面」「自由な立面」「独立骨組みによる水平連続窓」「屋上庭園」がありますが、これはそのうちの水平連続窓(工学部建築学科)。
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 元の辻組が設計しました。旧航空学科の建物。
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  レンガです。刻印があるものを先生が見つけました。1200度は土もの、1400度で磁きになるそうです。
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 ここで小西さん親子は次の地点へ出発しました。

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・農学部の構成見本園

農学部棟が立ち並ぶ一角にある庭園施工の模範例としての性格を持つと思われる庭。全体は箱庭程度の大きさで左右対称の作りになっている。床面はタイル張りされており、正面には茶色の丸瓦と平たい礫岩などが施された沖縄など南国風のモニュメントが特徴的です。その全面には小さな段々の池が配されており、池のそばには「構成見本園 1935」というレリーフが。その反対側の小池には小便小僧の姿も見えます。正面から向かって左手にはパーゴラ(四阿)があり、そこには「林学教室」の字が見えます。

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 私たちの所属する九州大学はキャンパスも広く福岡市内に点在しており、恥ずかしながら全貌を掴むどころか訪れたことすらない場所が少なくありません。その中で箱崎キャンパスは何度か訪れたことがありますが、今回初めて説明を受けてキャンパス内を歩いてみることで、非常に多様で異なる様式・スタイルで作られた建物が多いのだということに気づくことが出来ました。建築史上の知識はまだまだ浅いですが、これを機に目を養うことが出来れば今後の生活でも気付きを得ることができるのではないかと思います。またOBや学部1年生と歩くことで大学という場所がいかに多くの方々の交流と研鑽の場になっているのかということも実感することが出来ました。「一人ひとりがこういうこと(キャンパス内の建築の様式や人の歴史、由来など)を知っていればちょっとは違った(伊都キャンパスへの移転と思い出深い校舎の破壊が起きなかった)かもしれませんね。」というOBの方の言葉が胸に残っています。


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追記:『九州大学百年史写真集』をこの記事の執筆のに参考にさせていただきました。

D3 岩井
M2 吉峰 




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