建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、藤原惠洋(ふじはらけいよう)教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

 
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2015818日(火)18302140、九州大学芸術工学部(大橋キャンパス)

5号館531教室にて九州産業技術史研究会 8月定例会が開催されました。           

当日は毎月研究会で司会を務めて下さっております西日本短期大学教授の大石道義
先生より『地域固有資源を活かした郷土景観の保全と活用に関する研究〜福岡県
八女地方を事例として〜』というテーマのもとご発表をいただきました。

 

 

『地域固有資源を活かした郷土景観の保全と活用に関する研究〜福岡県八女地方を
事例として〜』
 

Ⅰ 対象地域……八女について

Ⅱ 八女の伝統的地場産業の価値と景観

Ⅲ 櫨・木蝋産業及びその郷土景観

Ⅳ 竹、筍産業及びその郷土景観

Ⅴ 水車動力源樹葉製粉業・水車場及びその郷土景観

Ⅵ 福岡県みやま市の内野天然樟脳工場

Ⅶ 水車・櫨並木・古民家 保存活動家香川徳男旧居[香櫨亭]の保存活用の
  ポテンシャルに関する基礎的考察

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 研究動機:
大石先生は福岡県八女市のご出身で、実家は八女茶の製造農家であったといいます。

画家青木繁の母方の実家付近で、原風景は櫨と茶畑が広がる景色であったそうです。
景観や造園に対して興味関心を持ち、職として携わりたいと思ったのは高校生の頃。
造園が風景を創造するものであるとして東京農業大学農学部へ進学されます。
しかし、やがて八女の𥽜蝋産業は衰退。𥽜のある景色は失われてしまいます。
景観保全のためには産業の復興、時代に沿った有益性、活用インフラを整備する
必要があると考え、30年以上に渡って八女市をフィールドに、様々な視点による
研究と実践を継続されてこられました。

当日は50頁に及ぶ膨大な資料と、数々の紀要論文をもとに、大石先生のこれまで
のご研究を総括的にお話いただきました。

 

 

昭和58年2月2日 西日本新聞 「用と景とエコロジカルと」記事掲載

用(ゆっくり歩く沿道施設)と景観と持続可能な景観の創出が必要不可欠であり、
八女の人々は生活の中にすでにそのような文化が生まれていたことと、その重要性
を述べた。

 

昭和58年2月9日 西日本新聞 「雨後の筍とコロンブスの卵」記事掲載

八女の人々は産業安定化に長けていた。筍の過剰収穫分を缶詰化することで
地域経済を安定させたことから、地域資源の活用の重要性を述べる。

 
山伝統的地場産業のゼロエミッション構造と八女郡是にみられる
廃資源類の統計事例

自給肥料をどのように作っているのか。副産資源を指数比較。
(蝋灰・米・種油粕など)

 

八女地方における景観の特質と保存活用

・筍生産量日本一:5年に1度の干ばつに悩まされる。竹害化という概念の台頭。
 かつては海苔業で20万本の竹が使われていた→グラスファイバー化→竹害の発生
 →竹材資源の活用についての考察。


・茶畑×櫨の生業:年中緑の茶畑×赤く色を帯びる櫨の景観美
 →青木繁ら画家たちの原風景

 


産業遺産の価値に対する考え方について〜後成的価値としての産業遺産〜

初源的価値の後成的価値

溜め池の後成的価値………生物の生息、洪水帽子、微気象の調整、景観日の形成
            コミュニティ基盤の形成等

 

 

八女地方伝統的地場産業の特質とそれを生かす地域CIとしての
「櫨と水車と地球儀の里」

八女在住の人物は、1843年に八女の地において、八女地方関連の竹、紙を使い
回転する地球儀を制作し現物現存している(日本最古)。この地球儀を
モチーフに「用と景とのエコロジカルの三位一体的産業構造」を提案

 

伝統的地場産業から出発した複合的価値創造視点の体験学習プログラム

→縦割りであった教育と地場産業を繋げたプログラムの実践と検証、提案

 

 

櫨・木蝋の多面的価値と「一日和ろうそく団らん運動」

1櫨産業の歴史的背景

2初源的価値と後成的価値、今日的価値の視点

3櫨産業の豊かな価値… 景観、歴史的連続性、自然生態系等

櫨・木蝋産業「語り部としての俳句」

校歌に歌われた櫨(小中学校、郷土の風景と向上心とに関係させたものが多い) 

 「櫨は見るまいとしても目にはいるものだ」 坂本繁二郎 昭和5

 「我が国は筑紫の国や白日別母居ます国櫨多き国」 青木繁

 

櫨を冠する地名…西日本に多く、櫨山、櫨谷、櫨畑。
        一方、地名レッドデータブックにも記載。

 櫨産業と関連していた養蜂業も盛んであり、現在は八女に養蜂業のみが残っている。

櫨と茶の兼作の調査

 

「櫨・木蝋産業の再生提言事例と筑後地方を中心とした25年目の検証」

櫨が切られてしまうことへの危機→櫨は産業景観である→産業生産は景観保全に
繋がる→産業復興に重点的に力を入れつつも、地域の原風景の再生に取り組む

 

 

九州高速自動車道の法面に櫨を植栽する基本構想が実現(1988年)。
ハゼちぎりWSの開催等。

→広報うちこ:愛媛県内子町 櫨の木がなく、櫨の実も収穫できないが、八女の
 実を送ることで学生のワークショップが実現。

 櫨の需要改革を考案(商品開発等)

 


温故知新の宝庫としての八女の水車場と八女エコミュージアムへの展開

資源(エコエネルギー)、水車用水の活用(灌漑用水、生活用水、アメニティ)

地形(州浜部を敷地に選ぶことで作りやすさ、維持運用のしやすさ等をカバー)

→八女エコミュージアムへの展開に有用な水車場
 (リーズナブル、ストーリ性に富んだ資源)

 

八女地方の水車の分布図

199015カ所稼働→2009年には2カ所に減少(電気稼働は5カ所)

矢部川流域における水車利用の地域別特色を表化

 

八女地方の樹葉製粉水車場の稼働・残存状況

2010年現在。山間部に多く設置されている。消失、継承者の不足等課題が多い。

 

 

福岡県八女地方の水車場の動態保存について

段階的・部分的動態保存:水車本体の保存飲みにこだわるのではなく導水路等関連
施設に目を向け、「半現役・半遺構」という形での保存も可能ではないか?


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討 論

藤原:大石先生が半生をかけ長らく独自の視点から、出身地の八女市が地域固有の
多彩で豊かな地域資源と手仕事・産業等に対してその成立と展開に関して複眼的な
関心を持って来られてことがわかると同時に、日本の典型的な地域社会とも言える
八女地方の全体性や環境循環性をどのように見て行くかという際に天与の恵みとも
言える「初源的価値」から、後発的に評価し資源化していった事柄を「後成的価値」
とに分けて明快に考察をされてきたことが大変興味深かった。

 

「資料35 郷土景観運営手法の一例 櫨景観を一例として」に研究がすべて集約
されると考える。1970年代以降、地域固有価値論が鶴見和子らによって研究され、
内発的価値と外発的価値という考え方が普及。鶴見らは地域における様々な資源の
先天的にあった価値と、後天的に生まれた価値の相関関係を指摘。
私自身も1987年〜1988年に書いた工学博士学位論文において、内発的な近代化の
あり方と、外発的な近代化の影響の相関関係を考察する方法をとり難解な事象を
整理して行く糸口を見つけたことがある。

「初源的価値」と「後成的価値」とに分けるアイデアは大石先生のオリジナルの
考え方なのか?八女の郷土景観となった天与の恵みの櫨を初源的価値として
意義づけ、後に産業化する等の後成的価値を整理していく、創出していくもの
としてまとめていくのは視点が良い。
 

 

大石:ご指摘の2つの概念は自分で定義したもの。茶、櫨、水車、いずれも産業に
よって形成された郷土景観であった。失われてしまった景観を再生し保存する
ためには、足腰である産業を再生することが大切であり、しかし現代に沿った
形ではないといけないので、再生提言事例という形で表にした。しばらく
この概念は用いていなかったが、考えてみたい。

 

藤原:八女は後成的価値を生み出しながらもその多くが淘汰されてしまった。
現代の暮らしにおいて人々は西洋ワックスを用いており、和ろうそくを用いる
暮らしもほぼなくなってしまっている。大石先生は後成的価値を多々見つけ出し
提案されているが、それ自体を批判検証するのではなく、八女に残るまほろばと
その全体性を見せてゆくことが必要ではないか。養蜂であっても、先天的な環境と
櫨から養蜂業が盛んとなったことも重要な事実である。
 

 

中村享一:島原は、220年頃前に木蝋産業に目を付け、島原藩がブランド化して
生産していた歴史がある。雲仙普賢岳噴火の被害を乗り越え先物の商売として
展開していった。八女と島原は地理的関係も近く、地域間の産業軸としての
流れはあったのだろうか?隣接する地域との関係性も重要な視点では。

 

大石:櫨、木蝋産業は享保年間に生まれており、八女は有馬藩に支配された一地域
で、木蝋は有馬藩のもとで生産されていた。相関関係についても考察してみたい。

 

藤原:櫨はどのような地域によく育つのか?

 

大石:みかんが育つような、温かく日当りが良い場所が必要である。みかんは
冬場の潮風が当たる方が甘くなるといわれているが、櫨は潮風が当たって
いてもよく育つ。島原もよく育っていた。大敵は寒さであり、栽培自体にも
影響を及ぼしていた。

 

市原:私はまさに大石先生が提唱されていた初源的価値と、後成的価値という
視点から産業考古学の道に入っていった。ぼた山に対する初源的価値が
景観として地域の誇りになるなどして後成的価値が生まれるということに
目から鱗だった。その地域のライフサイクルの地域の重要文化的景観に対する
研究を30年来、先んじて行っているという凄さがあるのではないか。
当初の産業から生まれた、新たな価値に対する考察の視点は、産業考古学的な
見方になるのでは。
 

 

鈴木:水車がこの地区に多数産業として使われていたという記録があるが、
他の地域にも八女のように多数使われている事例はあるのか?
小規模で、限られた目的に対して使われている(小石原など)は多いが。

 

大石:栃木県の日光が、多数の目的に応じて水車が使われていた。技術的な交流や
八女と日光間ではない。八女は水車のつくりが合理的に行われている。
資料としては、明治20年頃までの文献までが遡ることができるだろう。

 

藤原:村是、群是は明治20年以降の地域資産調査であり資料は有効であると
考える。周辺地域との比較も重要になってくるだろう。小石原の他にも、
長野県の岡谷も水車が数多く存在していた。

 

 

3時間に及ぶ研究会では、大石先生の独自の概念によって、八女の自然条件の
優位性と、そこから培われてきた伝統産業、そして産業景観から生まれる
たくさんの副産物や創出された価値について、じっくり分かりやすく学ぶことが
できました。2014年文化経済学会<日本>松山大会参加の際に、藤原研究室
メンバーはエクスカーションとして内子地区フィールドワークに参加したことが
あり、木蝋・𥽜蝋文化をまちづくりに活かして行く事例を学んだ経験も結びつき
大変興味深く発表を拝聴致しました。

また、明治期に日本の油画界を牽引した青木繁や坂本繁二郎の感性が、八女の
産業景観によって育てられていったことにも興味を持ちました。

大石先生、貴重な講義をどうもありがとうございました。


 *
 

九州産業技術史研究会の開催予定は以下のようになります。

    

9月特別シンポジウム 2015年9月20日(日)14:00〜16:00

ベトナム・ファッションデザイナー Minh Hanh氏講演会およびシンポジウム

会場:福岡アクロス地下イベントホール(無料)

 

 

10月例会 2015年10月20日(火)18:30〜21:00

TOTOギャラリー・間30周年記念事業との共催

ベトナム建築家ヴォチョン・ギア氏講演会およびアジアの都市と建築を考える
シンポジウム(無料)

会場:本学多次元ホール

 

 

11月特別講演会 2015年11月4日(水)18:30〜21:00
九州大学芸術工学部公開講座[建築探偵シリーズ13] 特別招聘講演会
 孫大雄氏(千葉大学工学博士)「デザインにおけるクロスファーティライ
ゼイションを主唱した小池新二〜21世紀に求められるデザインのあり方に
関する研究〜」
会場::5号館531教室

 

 

11月特別講演会2015年11月5日(木)15:00〜17:00
(九州大学課程博士(芸術工学)論文公聴会を兼ねて) 

研究発表:梅本良作氏
「戦後日本の工作機械のイノベーションとデザインに関する産業技術史的研究(仮題)」

会場:5号館531教室

 

 

11月例会 2015年11月17日(火)18:30〜21:00

研究発表:國盛麻衣佳
「旧産炭地の芸術文化環境の形成と展開に関する研究(仮題)」
(同氏の九州大学課程博士(芸術工学)論文提出の予備審査に向けた準備発表)


研究発表:中村享一氏
「長崎における端島坑(通称軍艦島)の成立と展開に関する研究(仮題)」
(同氏の九州大学課程博士(芸術工学)論文提出の予備審査に向けた準備発表)

会場:5号館531教室

 

 

12月例会 2015年12月15日(火)18:30〜21:00

研究発表:金・ミンジョン氏
「日本の懸硯の成立と展開に関する産業技術史的研究(仮題)」
(同氏の九州大学課程博士(芸術工学)論文提出調整に向けた発表)

会場:5号館531教室

 

 

忘年会 2015年12月25日(金)〜27日(日)韓国釜山・ソウルへ

 

 

九州産業技術史研究会では、本会会員に限らず、産業技術に関する歴史について
調査・研究にご関心のある方々のご参加をお待ちしております。
ぜひお気軽にお越し下さいませ。


文:國 盛   写真:岩 井、國 盛 

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