7月17日(金)、学部「芸術文化環境論」の特別講義が行われ、秋葉美知子先生からお話をいただきました。
そして続いて7月18日(土)も集中講義が展開しました。
テーマは昨日17日(金)の講義に引き続きソーシャリーエンゲイジドアートについて。
たくさんの実例を踏まえた、身近な実態に迫る重要なお話でした。
秋葉美知子先生は、一橋大学経済学部卒業後、株式会社パルコに入社、当時の流行とも言えたセゾン文化や西武文化とも言えるイベントスペースでの展覧会などをみずから企画されていきました。その後、音楽雑誌『FMステーション』編集部、(株)西友宣伝企画部を経て、パルコマーケティング情報誌『月刊アクロス』編集長へ。若者とファッションを観察・分析するシンクタンクでありメディアである月刊『アクロス』は有名な情報誌となっていきました。その後、パルコ広島店の次長を務められた後、ご退職。
退職後は福岡県飯塚市に位置する近畿大学大学院産業技術研究科博士後期課程(造形学専攻)にて「地域づくりとデザイン・芸術」をテーマに研究を開始、筑豊地区へのまなざしを深めていかれたのはこの頃のことです。
同大学院満期退学後は、芸術社会学者としてアメリカのパブリック・アートやコミュニティ・アーツを中心に調査研究を続けていらっしゃいます。
この間、2002~05年、福岡県星野村の魅力的な文化資源を総合的にマネジメントする(財)星のふるさと専務理事を経験されました。
さらには長崎市の活水女子大学文学部現代日本文化学科特別専任教授として活躍されています。
東京へ帰京された後も九州大学芸術工学部非常勤講師等で九州へ再訪されています。
これまでの研究成果を代表する翻訳書に『グラスルーツ・シアター アメリカの地域芸術を探して』があります。
前日の講義では全米芸術基金による助成(公的資金)とそれに対するアーティストの自由奔放な表現との衝突から米国内における、公共空間で展開する表現に対する理解の深化と、より即興性の高く仮設的なものへの支援、つまりパフォーマンスなどに対しても支援を行なっていくようになった経緯などについてお話いただきました。
講義内容は以下のようになります。
・ソーシャリー・エンゲイジド・アートとは?
ソーシャリー・エンゲイジド・アートとは、世界とエンゲイジして世界をよりよく変え たいと思うアーティストによって考案されたプラクティスである。
・ソーシャリー・エンゲイジド・アート」の因数分解
Socially ーポジティブな社会的目的が明確
Engaged ー参加者との相互交流が必須
Art ーアートに特有の創造性・革新性・ オリジナリティがある
・ソーシャリー・エンゲイジド・アートの特徴
1) 反表象主義
2) 人々の参加を促す
3) 現実の世界の中に場を設定する
4) 政治的な領域に踏み込む
ここで、SEA(ソーシャリーエンゲイジドアート)に近い概念としてスザンヌ・レイシーの「ニュージャンルパブリック・アート」を紹介されました。
・ニュージャンル・パブリック・アートの特徴 ースザンヌ・レイシー
1) 伝統的表現手段を超える
: 彫刻や壁画だけでなく、インスタレーション、パフォーマンス、メディアアートなども活用
2) 幅広く多様なオーディエンスとのインタラクティブなアートワーク
: アーティストからの一方通行ではなく、コミュニティとの協働
3) 生活に直接関わる問題をテーマに
: アートのためのアートではなく、アートによるSocial Changeを志向
・スザンヌ・レイシーによるアーティストの4段階
経験者としてのアーティスト>報告者としてのアーティスト>分析者としてのアーティスト>アクティヴィストとしてのアーティストの4段階があるとしています。
経験者としてのアーティストはプライベートであり孤高な性格に近く、アクティヴィストとしてのアーティストの方はパブリックで恊働行為に積極的であるとしています。
・パブリック・アートの概念が拡張
1)美術館の外で大衆が
等しく享受できる芸術作品
2)コミュニティの参加と理解に基づくプロジェクトであるインスタレーション、パフォーマンス、メディアアートなどが行われた。
>例としては リチャード・セラの 「傾いた弧」(1981-89)や
シーラ・レブラント・デ ブレットビル 「Biddy Mason-Time and Place」(1991-)がある。
・ニュージャンル・パブリック・アートの特徴 (新種のパブリック・アート)
1) 伝統的表現手段を超える (彫刻や壁画だけでなく、インスタレーション、パフォーマンス、メディアアートなども活用)
2) 幅広く多様なオーディエンスとのインタラクティブなアートワーク (アーティストからの一方通行ではなく、コミュニティとの協働)
3) 生活に直接関わる問題をテーマに (アートのためのアートではなく、アートによるSocial Changeを志向)
>新ジャンルパブリックアートは、係合に基づく。
・観客参加型のアートワークが リレーショナル・アートの名のもとに 現代美術の世界で大流行
2年に1回行われるビエンナーレ/3年に1回行われるトリエンナーレの増加で世界に広がる。
>国際芸術祭に世界各国から招へいされたアーティストたちは、芸術監督の要請に応じ、 地域の歴史、文化と向き合いながら、作品の設置場所を探し、自らの新しい表現を模 索して作品を制作、設置する。『トリエンナーレの時代』(吉本 光宏)
・ソーシャリー・エンゲイジド・アートをめぐる問題
1) そのプロジェクトは、いつ役に立つのか?
2) その意図は何か?
3) どんなオーディエンスが想定されているのか?
4) アーティストが自分のキャリアアップのためだけに、 ソーシャル・ワークのアイデアを利用しているのでは?
5) ソーシャリー・エンゲイジド・アートは時代の価値観に 共感しすぎて、政策の道具にならないか?
・クレア・ビショップによる Do-gooding 批判
参加型アートには失敗、不成功、未解決、退屈なものは ありえない。なぜなら、全てが同等に社会的絆を強化する上で必須なものであると前提されているから。 例えば、ティラヴァーニャのワークは、人間関係に存在 する緊張や衝突を隠蔽し、うわべを飾るような和気あい あい気分(conviviality)を演出するものだ。 私は、この種のワークの目的を否定するものではないが、 同時にアートとして、議論し、分析し、比較しなければ ならないと思う。
今度の秋葉美知子先生からの話を通して、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの概略、そして特徴、ニュージャンル・パブリック・アート等について知る事ができ、とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。
また私は、韓国での学部時代にパブリックアートについて学んだことがありますが、
今回の秋葉先生の講義を通してパブリックアートの歴史的文脈や社会的背景がさらに深く知ることができました。
パブリックアートは非常に強い力を持っていると思います。
それは、パブリックアートは私たちの日常生活の中に介入することが出来るからです。
韓国でも日本に劣らずパブリックアートが盛んです。
このパブリックアートの是非ついてはようやく韓国でも議論されるようになってきました。
この議論へ当事者として参加するためにも、米国におけるパブリックアートから民族や人種の誇り、コミュニティの感情の発信という回路を持つに至ったソーシャリー・エンゲイジド・アートまでの文脈をきっちりと抑え、また私自身の修士研究テーマでもある展示空間をどうデザインしていくかということもしっかりと考えていきたいと思います。
秋葉先生、本当に様々な示唆に富む講義をありがとうございました。
これからもどうぞ、よろしくお願いします。