建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、藤原惠洋(ふじはらけいよう)教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
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 2015年2月21日(土)13:30~別府市にある大分県立社会教育総合センターで和歌山大学教授・渡部幹雄氏の講演会に行きお話を聞いてきました。
  この会は「別府市の新しい図書館を実現する会(佐藤慶子代表)」が主催するもので、大分県緒方町出身の渡部先生の講演は2009年に続き2回目になります。
  渡部先生は、1953 年大分県豊後大野市緒方町生まれ。東京学芸大学大学院修了。1989 年東京都国立市民俗文化財調査員。1990 年大分県緒方町立歴史民俗資料館学芸員。緒方町立図書館をつくる。1994 年長崎県森山町教育委員会参事。森山町立図書館をつくる。2000 年滋賀県愛知川町立図書館長、2008 年滋賀県愛荘町教育長。2010年和歌山大学教授・大学図書館館長になる。只今 和歌山大学図書館の改革真っ最中!
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 「1963年から1970年にかけて公共図書館の発展に大きな影響を与えた『中小都市における公共図書館の運営』『市民の図書館』の刊行。東京都図書館振興策により急激に発達した。しかし、農村漁村のような第1次産業の地域では図書館の設置率が低い。市の設置率は100%に近いが、町村は40%に達していない。義務教育が終わったあとの本当の意味での生涯学習に対応していない。生涯学習とはいっても現段階では、趣味・健康にとどまっている。図書館は、人・施設・資料で成り立っているが、施設が悪いのではなく、人をあてがわず箱を作ったところで終わっているのがまずい。地方の図書館が上手くいかなかった理由の一つに、都会で選んだ本ややり方をそのまま農村に持ってきても普及しないというのがある。人々の本当のニーズに対応していないからである。
 別府でいえば、油屋熊八はどういう思いでこの別府に貢献したのか、別府の山の植生やミンミンゼミやクマゼミはどの位置で変わって来るのかなど、博物館の要素を取り入れた図書館もあってよい。サブジェクトライブラリアンというのがあるが、見えない資源を見えるようにする役割を担うことができると思うが日本ではまだ普及していない。
  図書館は自らの好きな時に学ぶことができ、もしかしたら、その“いつでも学べる”場所に本があり、その中での本との出会いが家族や自らをも救うことがあるという事例を紹介する。

 マラウィでの実話であるがウィリアム・カムクワンバという少年が、中等学校1年のとき、マラウイ全土を襲った旱魃により、学費を払えず退学になる。NPOの図書室で物理を独学し、廃品を利用して風力発電のできる風車を自宅の裏庭に製作、人口のたった2パーセントしか電気を使うことができないマラウイで、家に明かりをともすことに成功する。そのことが現地の新聞で報道され、2007年には科学者や発明家、起業家の国際会議TEDグローバルより招聘されスピーチをする。5年の空白の後、中等学校に復学し、さらに南アフリカ共和国の高校に進学。2010年9月からアメリカのダートマス大学で学び始める。
 
 図書館で出合った本がきっかけで、人生が切り開かれていく。「学ぶ」ということが、これほどまでに人生を豊かにしてくれるとは、私たち日本人が忘れていたことではないか。
 学ぶことは星の数ほどある。

 田舎に生まれて損をしたと思っている人がいるかもしれない。そのような人にも、豊かになることができ、人を育む施設としての図書館を知ってほしい。自分のテーマを掘り下げて自己実現ができる。」

 渡部先生は自らで、「図書館もない田舎町に生まれ、都会に進学して図書館というものを知り、非常に驚き、
長じて自らの出身地に図書館をつくることになった。」とお話されます。
 私は旧産炭地に生まれ、子どもの足では行くことのできなかった公共図書館の代わりに、学校図書館をよく利用しておりました。小学校5~6年生の時は、シャーロック・ホームズシリーズとアルセーヌ・リュパンシリーズ等にはまり、毎日1冊借り、学校が終わって家に帰ってからすぐ読んで、読書票(本のタイトルや読んだ日、本の感想などを描く)を書いて、翌日、クラスの図書委員に提出するということを繰り返しておりました。結果としてクラスで一番私が本を読んでおり白川さんという図書委員から表彰され、スヌーピーの定規をいただきました。私にとって11~12歳の時期は、楽しくて又は喜びとして本を読むという成長過程の一部であったのだろうと思います。
 マラウィのウイリアム君、渡部先生、私と 生まれ育った時期も場所も環境も異なりますが、どんな環境下にある人にも、知識や技術、ものの考え方、生きる指針、喜びなどを含む豊かに生きるための人生の糧を与えてくれるきっかけとなるのが図書館の役割なのではないかと思います。
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 また、渡部先生は藤原研究室で非常にかかわりのある田川市にも触れ、この田川市の図書館の館長・末永十四雄が、世界記憶遺産に登録された山本作兵衛の炭坑記録画の誕生にかかわったことを教えてくれました。末永館長は、作兵衛の資料的価値に着目して制作を依頼したことがキッカケであの世界記憶遺産は生まれました。
 渡部先生も末永館長と同じようなことをしました。紙粘土で農作業風景など人々の営みを作ってきた 後藤絹さん(緒方町小野在住,大正8年生)という方がいます。後藤さんは、73歳から紙粘土で人形作りを始める。戦中・戦後の苦しい時代の農家の風景をテーマにした人形は,当時の生活の様子を知らせる貴重な資料というだけではなく,当時の人々の喜びや悲しみまでも見るものに伝えてくれるもので、絹さんのつくる人形は「絹さん人形」と呼ばれ,緒方町の資料館や俚楽の里だけでなく県外の博物館でも展示されているほど貴重なものであるそうですが、後藤さんにその制作のキッカケを伝えたのが渡部先生とのことです。「あんたしかできないことをしたらどうですか。」と。絹さんは、「紙粘土人形のおかげで人生を2度生きた」と言ったそうです。その人その人の人生を豊かにしてくれる装置が図書館だと渡部先生は言いました。義務教育を終えてから「秘めていた能力」を引きだすことができる装置、お金は無くても勇気を与えてくれるのが図書館なのです。
 ↓は後藤絹さんの作品。
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 また海士町の図書館の事例をあげ、海士町は合併せず、財政破綻しそうな地方自治体でした。それが、町長以下の議論により、町長自らの給料を下げたり、隠岐牛、サザエカレーなど町の資源を前面に出した政策をうちだしました。その政策の一つが、図書館です。当時の人口は2500人しかいませんでしたが、図書館に目をつけ、大英断をしました。
“図書館のない島”というハンディキャップを逆に活かし、島の学校(保育園~高校)を中心に地区公民館や港など人が集まる既存の公共施設を図書分館と位置づけ整備し、それらをネットワーク化することで、島全体を一つの「図書館」とする構想をだしたのです。あるものを活かした図書資源の有効活用です。今ではこの海士町を行政関係者・図書館関係者のみならず、多くの人がこの海士町を視察にきます。「ないものはない⇒あるものはある」ということでした」
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 この他にも長野県下條村は医療費が無料で、図書館には88000冊の本があるとのことです。
 ↓はバンクーバーの図書館。シアトルの図書館には床に分類番号があるとのこと。シアトルの図書館には楽譜がずーっと並んでいたり、デザインにかんする書籍のみならずチラシもずーっと並んでいたりする、これがいろんな分野に及んでいる、いろんなものをとってあるということは創造活動につながるとのことでした。
 また、「資源が無くて冬が長い町は図書館に行くしかない、文化としての装置が図書館」「資料が人をつくる」ともお話されました。
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 「別府には知恵を膨らませることができる図書館をつくってほしい。税金でできている施設なので、知恵が還元され、対流を促し、市民に広がる図書館に」ということです。
 ↓はニューヨークの図書館、図書館には全て日本風に言うと「赤いのぼり」がたっているとのことです。
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 以上、渡部先生の話は、図書館を自らで一つ一つつくり、市民の方々とも交流してきた体験からのお話で、腑に落ちるものでした。人が図書館に求めることは単に知識のみならず、生きる原動力、マラウィのウイリアム君の事例のように貧しさに嘆くのではなく創意工夫によってよりよく生きるための知恵、創造の場所なのではないかと思いました。渡部先生の紹介してくれた図書館は、海外の事例を除き、全てどちらかといえば田舎の、人口の少ない町における図書館です。「ないものはない」ケド「あるものを工夫して用い」、図書館を「人が生きるための装置」にして提供することで、再認識され高く評価されたと思います。大々的に宣伝はできないけれど、全国各地でさまざまな努力をしている小さな図書館があることを改めて知りました。この後のちょっとした交流会にも参加し、渡部先生はじめ、別府市民のみなさんと交流してきました。
 渡部先生 貴重なお話ありがとうございました。

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 以下は別府市で見たもの、入った温泉。
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 夜になると↓賑わいます。
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 駅前高等温泉に入りました。1回200円。
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 ↓油屋熊八さん。別府では、1911年(明治44年)「旅人をねんごろにせよ」(旅人をもてなすことを忘れてはいけない)という新約聖書の言葉を合言葉に、サービス精神の実践として亀の井旅館を創業。この時、利用客に万が一の急病に対処する為に看護婦を常置していた。バス事業にも進出し、1923年(昭和3年)亀の井自動車を設立して、日本初の女性バスガイドによる案内つきの定期観光バスの運行を開始した。
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 ↓JR別府駅には、このポスターがありました。私も参加します。楽しみです。
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 JR駅西側のバス停付近。
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 磯崎新によるビーコンプラザ。
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 こちらはビーコンプラザのすぐ近くにある京都大学理学部付属地球熱学研究施設(文化財)です。
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 ビーコンプラザ↓
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 別府のまちなか。
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 ↓竹瓦温泉にも入ってきました。100円。
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 ↓ 竹瓦温泉には使われていないように思える入口もありました。
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  別府はやはり温泉が主です。渡部先生の講演会では、参加者の方から「自分は温泉の活用について知りたいが、温泉を研究している大学から市民に向けては何の情報提供もない。もっと市民に還元してほしい」という声が上がっておりました。私は大学に所属しながら図書館研究をしておりますが、地域における大学の役割、市民に還元できるものは何かということを忘れてはいけないと思いました。

                                           岩    井



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