バングラデシュ工科大学建築学科のカジ・アジズル・モウラ教授によるパナムナガールにある歴史的建築物についての講演があったのできいてきました。
以下に講義の大まかな内容を書きます。
「パナムナガールは古い地区で、ショナルガオンはバングラディッシュの首都、ダッカの南東約27キロのところにある巨大な区域である。中世(1204年~1338年)の間、ショナルガオンは重要な商業都市で、1338年~1538年まで独立したオスマン帝国がベンガル地方につくられ、ショルガオンが首都になった。
しかし、ムガール帝国はベンガルに建てられ、ダッカが首都になり、ショルガオンの重要性が失われていった。
1870年に、コルタカから来た裕福な商人たちは彼らの先祖が住んでいたショナルガオンにあるパナマ地区に新しい街を創った。
パナムナガールの町並みは植民地における市街地と似ていた。1947年後、南アジアの亜大陸は、インドとパキスタンに分けられ、ヒンドゥーがほとんどだった商人たちはインドに行き、パナムナガールは、ほぼ廃墟となった。
約50件のレンガ造りの家が道の両側に並んでいるが老朽化が進み、現在利用されていない状態にある。
ショナルガオンは何世紀もの間古代ベンガルの首都であり、その考古学的な遺跡が幅広い時代にわたってあるが、不幸にも古代にあった建物はほとんどない。数件の構造物の遺跡のみがムスリム時代にあったものを示している。前ムガール帝国とスルタン時代の建物がより多くある。
以前の居住地区全体に建物があるが、パナムナガールに建てられた建物のほとんどは植民地時代のもので、前時代からの概念、特徴、類型の移行が顕著にあらわれている。
以前は宗教施設の建材として使用されることが多かったレンガやセメントが住居に使用されており、装飾はヨーロッパ建築のデザインと地域固有のモチーフが融合している。
パナムナガールの住居の建物のタイプとしては、2つの特徴的なタイプがある。
1)混合の住居ー池、木、庭で囲まれ、中心部に位置する建物
2)通りに面している家ー自然の中に合っても都市的でその建物は道路に沿って一列に並んでおり、池と井戸と木のある裏庭を持っている。
そして、この通りに面している住居は、3つの基本的な類型がある。
1.中央ホールタイプ
2.中央庭タイプ
3.統合タイプ
4.仕切りタイプ
現在のショナルガオン地区は、新しくて計画されていない、発展の下にあり、それは歴史都市において非常な恐怖である。多くの建物はまだ使われているが、時間と腐敗に飲み込まれていく。そして多くの建物は不法に占拠されている。このエリアのメンテナンスはほぼない。
ショナルガオンは郡として成長しており、もうすぐ、都市になるだろう。それはパナムナガールにとって潜在的恐怖である。もし、都市が無計画に成長すれば、すぐパナムは請われるだろう。
パナムの死とともに、地方の伝統も死ぬだろう。
問題点は
・建物の不法占拠
・建物の不適切な使用
・建物のメンテナンスが無い
・建物の老朽化
・新しい都市になろうとするための無計画な成長
・地方の商業と手仕事の消滅
・旅行者の施設と魅力の欠如
パナムナガールの遺産地区保全のために、ユネスコがプロジェクトをたちあげた。モウラ教授もこのプロジェクトのWP0(プロジェクト全体のコーディネート)と WP5(報告書の作成)
WP0(プロジェクト全体のコーディネート)
WP1(パナムの目録の確立、データベースとGISによる調査)
WP2(調査・書誌化)
WP3(再建・計画・保存)
WP4(地元の博物館と連動したエコミュージアム)
WP5(報告書の作成)
そして 提案として以下のことがなされた。
大きな複合の建物→博物館、図書館、ホテル、レストラン、学校、短大
中庭付きの建物→展示スペース、ギャラリー、休憩所、宿泊所
小さな家→店、滞在施設。
バングラディシュにおいて利活用を通した遺産保全の試みはほとんどおこなわれていない。以上のプロセスを通してパナムナガール地区の町並みが保存され、再び活気を取り戻すことで、パナムナガールがバングラディッシュの文化の一部分として今後も生き残ることができる保全の倫理にのっとった官民パートナーシップの事例になるであろう。」
バングラディッシュにこのように美しい都市があったとは知りませんでした。日本でいえば、重要伝統的建造物群保存地区のように思えました。
これらの建物を不法占拠しているおそらく貧しい人々にどのような手当てをして退去してもらうのか、修理のための資金をどのようにするのか、修理する為の腕のいい大工さん・職人さんをどのように確保するのか、そもそも治安はどうなのか、ここにたどり着くまでの交通事情はどうなのか、本当に利活用できるのか、観光客をどのように呼び込むかなど、わからないことは沢山ありますが、私にはこのパナムナガール地区を廃墟にしてはいけないように思えました。今後の街の発展と同時進行するであろう大切な遺産の保全に期待したいと思います。
岩 井