建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
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  12月25日-26日と集中講義で福岡大学工学部社会デザイン工学科教授・柴田久先生の授業を受けました。柴田先生は福岡中心部にある警固公園のデザインで2014年10月グッドデザイン賞を受賞した先生です。   2014年グッドデザイン賞警固公園 
 警固公園は福岡市の中心部にあり、西鉄天神福岡駅、三越、ソラリアプラザ、リソラ天神 などの商業施設と南側の警固神社に囲まれた公園です。1951年に開園されましたが、施設の老朽化や公園内の見通しの悪さからくる安全性などが指摘され、2012年の春から全面改装工事が行われ、2012年12月に完成しました。警固公園は西鉄天神駅、地下鉄にも近いことから県外から来た人でもすぐ見つけることができる公園です。福岡に来て間もなかった私でもこの公園は知っており工事中なのも見ておりました。今回その警固公園のデザインをし、グッドデザイン賞を受賞した先生の授業を受けることができ大変よかったと思っています。
 柴田先生の研究室は景観まちづくり研究室。以下のような研究・実践活動を通して、美しい「景観」を形づくり、快適な暮らしを育む「まちづくり」のあり方を考えていくということです。

       ・景観や公共施設/空間のデザイン・計画
       ・まちづくりやコミュニティ・デザインの方法とそのプロセス
       ・都市形成に関わる歴史的な検討
 
 そんな柴田先生は九大大学院芸術工学府の講義では
 「多くの来訪者が利用滞在する公共的な空間、施設のデザイン、プランニング、マネジメントの事例を中心に演習やディスカッションを交えた実践的な講義を行う。」ということで始まりました。

 景観設計の重要な考え方=関係性のデザインということで篠原修の景観把握モデルが紹介されたのち、視点場を巡るポイント・居心地の良さとして J アプルトンのprospect-refuse理論(人は生態的に自分の身を隠しながら自分の視界が確保される場所を好む)も教えていただきました。
 視点場の方向性の工夫による景観整備の例として足利SAからの富士山、仙厳園からの桜島の事例がありました。主対象は景観要素を支配している対象で周囲の状況によって見え方が変化します。対象場においては景観の主役を引き立たせる背景のデザインで何を図として強調させるのか、何を地として周囲の環境に溶け込ませるのかを決める必要があります。
 しかし、誤った景観配慮をしてしまうとそれは景観に対してお化粧をすることになってしまいます。景観配慮はお化粧ではないと柴田先生は繰り返し強調されました。公共のものに対してディズニーランダイゼーションのような作りこみ、意味の伝わらない飾りマーク、表層のみを取り繕っている景観整備などは景観配慮ではないのです。小手先ではなく構造から考えるのが景観検討であるとのことでした。

 次に警固公園の取り組みが紹介されました。
 警固公園で解決すべき課題だったのは、
 1.見通しの確保 2.公園と公園周辺の双方向に開放された動線の確保 3.スケボーなど不適正な利用の抑制 4.公園をセットバックし、前面歩道を拡幅 5.目につきやすい場所にトイレを移設

 新たになった警固公園では、
 1.新たな動線の創出がされ、2.視覚的つながりがつくられ、3.芝生空間があり、オープンスペースが拡充され、4.南側園路が整備され 5.警固公園の記憶も残されました。5は、高低差のあったものをその差をなくしはしたものの、以前の警固公園で使われていた石を元の位置に置くということをし、全てが新しいのではなく人々の愛着のあるものを残したということです。
 この改修の結果、公園自体の安全安心が高まり、利用者が多くなったのは言うまでもありませんが、周囲の商業施設までもこの公園にふさわしいファザードに改修されました。波及効果があったということです。もちろん、改修工事の前後には利用調査がされております。

 コミュニティデザインもありました。コミュニティデザインとは、
 「空間の設計・計画プロセスに住民を取り込むことで空間形成のみではなく、地域コミュニティの成熟を図ろうとするデザイン方法論」住民を計画・計画プロセスに取り込むだけではなく、住民(利用者)同士のネットワーク化をも含みます。これが空間への愛着や関心の喚起になり、そこでの暮らしぶりに変化を引き起こすとのことです。コミュニティデザインの方法とプロセスとして、Randolf T Hesterの12ステップが紹介されました。
1.コミュニティの話を聞く 2.目標を設定する(これが大事!とのこと。) 3.コミュニティの特徴を地図と目録にする 4.人々が自分たちのコミュニティを知り直す 5.コミュニティの全体像を獲得する 6.予想される一連の行動を描く 7.場所の特徴から形態を構想する 8.検討項目を整理する 9.複数のプランを用意する 10.プランの事前評価をする 11.住民へ責任を移行する 12.事後評価をする。

 この後、プログラムデザインやKJ法、ファシリテーショングラフィックなど藤原研究室で学んだことが紹介され、その後、公園整備の住民参加型ワークショップの結果の事例が例示されました。住民参加も間違った方向に進むと、結果として非常におかしな公園が出来上がるというものでした。住民参加で公共性をもつものを作ろうとする場合には必ず専門家にも入ってもらうことが重要だと思いました。

 この他に湧水めだか公園、五島列島での文化的景観地区を含む公共事業デザインガイドラインの可能性、ひゃーしーと呼ばれる生垣のこと、アメリカでの活動のこと、コロンビアのサンホセ地区のことが紹介されました。
 
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特にコロンビアのサンホセ地区の公園整備は私の知らないことばかりでした。日本とは全く違い、人々が生きていけるかどうか、衛生はどうかということまで考える必要があるとのことでした。
 単に公園整備をするのではなく、現在、急勾配の劣悪な環境に不法に住んでいる貧困層の人々の為に住宅をつくり、彼らにはそこへ住んでもらい、新たに公園を整備することでより良い環境つくりをしようとするものでした。しかし、せっかくの経済的な支援が活用されなかったり、集合住宅の作り方が日本と違い問題があったりするとのことで、日本という恵まれた環境にいる私たちには理解しがたい状況がサンホセにあることがわかりました。
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 (↓最後はこんな感じで授業の感想を言いました。) 
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 ↓アメリカのランドスケープデザイナー、アーバンデザイナー、環境デザイナーのPeter Walkerハーバード大元教授と柴田先生。
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 私にとってこの集中講義は、知っていることと全く知らなかったことの両方が取り上げられ、納得したり、関心したり、驚いたりしながら、受講するものとなりました。私は景観学を系統的に勉強したことはありませんが、先生は系統的に提示して下さったように思います。現在進行形のデザインのこと、歴史的な由来のあるもののこと、海外の事例、教育現場での活動、(文化的)景観における公共性、住民参加でのプロセス、何が大切なのか等々、研究全般に活用できることを教えて下さりました。どうもありがとうございました。

                    岩  井

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