建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
福岡県立大学の名物教授だった森山沾一先生はふ印ラボの古参の同人でもあります。

ふたたび田川プロジェクトを始めた私たちにとって、もう一度、森山先生の言説や活動の系譜を辿り直していきたいと考えています。

近々、必ずや邂逅できると祈念して。


201409260002_000_m


以下、森山先生の言説より

(1)
NHK解説委員室

視点・論点 「筑豊の作兵衛さん」2011年06月09日 (木)


福岡県立大学教授 森山沾一

5月25日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は福岡県筑豊の炭坑労働の様子などを独特の手法で表現した画家、山本作兵衛の絵画や日記697点が、「メモリー・オブ・ザ・ワールド」(通称・世界記憶遺産)に登録されたと発表しました。
日本の世界記憶遺産への登録は初めてのことです。
この知らせに私たちは「田川・筑豊の作兵衛さんが世界の作兵衛さんになった」と誇りに思っています。
人類が長い間記憶して後世に伝える価値があるとされる楽譜、書物などの世界記録遺産は、これまでに、フランスの人権宣言、ゲーテ直筆の文学作品・日記・手紙、アンネの日記、清朝時代の満州語による機密文書など76か国193件が登録されています。

亡くなる92歳まで記録画や日記で炭鉱を描き続けた山本作兵衛さんは福岡県筑豊の飯塚市で生まれました。7歳から兄とともに炭坑の仕事を手伝い、14歳から地の底の坑内に入り、63歳まで炭坑で働きました。
炭坑が栄え、石油へのエネルギー革命による炭坑の衰退を抗夫として体験してきたのです。
筑豊各地の炭鉱で働いた体験を基に「子や孫にヤマ(炭鉱)の生活や人情を伝えたい」と64歳から炭鉱労働者の日常を墨や水彩で描いたのです。
余白に解説文を添える手法で1038点以上の作品を残し、585点が福岡県有形民俗文化財に指定されています。

ユネスコの世界記録遺産に申請・登録されたのは、遺族が筑豊の田川市石炭・歴史博物館に無償で寄贈し、田川市にある福岡県立大学に保管を委託した1914~84年ごろの作品589点と日記・メモなど108点、合計697点です。
狭い坑道で採炭する半裸の男女や採炭工具、ガス爆発の惨状、混浴の習慣や炭住での子どもの遊びなど、明治から昭和の労働と生活を克明に伝える絵と日記や手帳です。
田川市や市民は当初「九州・山口近代化産業遺産群」の一環として、旧三井田川鉱業所伊田竪坑櫓(たてこうやぐら)や炭坑節のモデルになった伊田竪坑第1、第2煙突(いずれも国登録文化財)の世界遺産登録を目指していました。
平成20,21年度には、福岡県立大学の地域貢献事業として内閣府・経済産業省の地域再生事業・『世界遺産をめざす田川活性化事業-産・官・民・学が協働する保養滞在型エコツーリズムの実現』が採択され、その中に山本作兵衛研究が入り、残された絵画の確認を行ってきました。
世界遺産をめざす千人シンポジウムなどを筑豊・田川市で行う中で、国内外のユネスコ学術専門家が訪れ、作兵衛さんの記録絵に注目が集まったのです。
海外の専門家たちは「炭鉱の労働と生活を描いたユニークな記録」などと絶賛しました。
田川市と福岡県立大学は専門家の一人で世界遺産選定にも携わった経験があるオーストラリアのアジア・太平洋委員会のマイケル・ピアソン博士(産業考古学)を通じ昨年3月、パリの世界遺産事務局に日本で初めて申請書を提出しました。
今から10年前の2002年3月、「一応の調査は終わったが、まだあるのではないか」という作兵衛さんのお孫さんからのファックスが福岡県立大学に届きました。
解体寸前の作兵衛さんの最後の棲家に同僚などと6度訪問し、押入れの奥や衣装函(はこ)から、きちんと整理された日記・ノート類の箱、原画、葬式参列者名簿、そして「最後の書」とメモされた1編の用紙を発見しました。
今、学生やボランティアとともに、山本作兵衛さんを<読む>会を作り日記の解読をすすめています。
どちらかといえば作兵衛さんは優れた記憶力をもつ「炭鉱(やま)の記録画家」「語り部としての炭鉱絵師」と、関係者をはじめマスコミからも捉えられてきました。2千枚ともいわれる数多くの作品をなした、作兵衛さんですのでそのことは間違ってはいません。
しかし、絵筆と同時に、文章で炭鉱における日常生活、仕事の記録を取り続ける知識人でもあったのです。
田川市文化功労賞や西日本文化賞を受賞しても、自分を学歴もなく、変わり者で頭もよくないと語り、本当にそう思っていた作兵衛さんは、それ故に、努力し記録し、自分を対象化できる、「自ら無知であることを知っているのが本来の知識人」とソクラテスがいうところの知識人であったのです。
と同時に中小の炭坑を家族とともに渡り歩き、身体を張れる体力と胆力を持ち、無類の酒好きな生活者でもあったのです。
絵を描き始め、名をなしてきたのは65歳を過ぎてからであります。
しかも、独学なのです。

日記には生涯変わらず、天気やお酒と物価の記録、政治や社会事象、そして自分をみつめての記録がこと細かに書かれています。
昭和20年の終戦日には「十五日ハレ盆休。十二時重要放送アル由 無条件降伏トノ事ナルモ確実ナラズ」と朱書き、「夕方確定ス(意外ナリ)残念ナリ」と書かれています。翌年2月27日には長男光氏の戦死を知り「勝タザル戦争ナレバコトニカナシ」と記しています。

絵にかかれた記録が正確なのは無類の記憶力とともに日記をたびたび読み返していたからでもあることがわかります。
何度も読み、自らと対話し、日記にペンや色鉛筆でなぞった痕も出てきています。 
92歳で永眠する直前まで日記を綴り、24時間前まで記録しようとした表現への執念は生涯学習の体現者そのものであり、ユネスコの海外専門家たちが評価したのは当然のことだったでしょう。

炭鉱の盛衰を子や孫に残したいという情の深い内発的なエネルギーの持ち主でもあったのです。
学校に行かないでも自力で難解な漢字を体得し、障害者手帳を持ちつつもさわやかに表現してきた歩みは、九州・筑豊の自立・やさしさを象徴しているとともに、大震災後の東日本の人々をも勇気づけることでしょう。

現在、ユネスコの公式ホームページの発表やユネスコ国内委員会への連絡は来ていますが、近いうちに正式文書が届きます。
今後、田川市長・福岡県立大学学長・福岡県県知事の正式発表が文書の届いた時点で行われるでしょう。
それに向けて、保管・管理・公開体制の整備が早急に必要となります。
このきわめて貴重な、体験した人物による記録という人類の普遍的価値を持つ遺産が世界の人々に希望を与えることを期待します。 

そして、日本国内暫定登録されている「九州山口近代化産業遺産群」の一日も早い承認を望みます。 


(2)絵師・山本作兵衛/炭鉱節のふるさと田川市 http://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/yamoto_sakubei/page_848.html?pg=1
より

山本作兵衛氏の日記

山本作兵衛氏は、20代から92歳で亡くなるまできちょうめんに日記をつけていました。世界記憶遺産に登録された697点の中には、それらの日記65点が含まれています。

平成14年3月、作兵衛氏が生前住んでいた家が、老朽化のため取り壊すことになった際、遺族から連絡を受けた森山沾一教授ら県立大学関係者が家を調査し、約70冊にものぼる日記や雑記帳、絵などを発見しました。

同年4月、森山沾一教授の呼びかけで「山本作兵衛さんを〈読む〉会(野村喜七郎会長)」が発足。
福岡県立大学生涯福祉研究センター研究プロジェクト(代表 林ムツミ助教)と共同で、日記の解読作業に取りかかり、翌平成15年に解読資料集第1巻、2巻を刊行しました。

山本作兵衛氏の日記 「山本作兵衛氏の日記」

解読資料集第10巻刊行

「〈読む〉会」は、現在25人で、林助教の調整で毎週火曜日に集まって、日記のコピーを解読しながらパソコンに入力する作業を行っています。

平成23年、1932年から38年までの5冊の日記の内容を読み解いた解読資料集第10 巻が完成しました。現在、第10巻までに、37冊の日記が解読されています。
 

今回解読した日記は、作兵衛さんが40~46歳くらいのときのもので、当時作兵衛さんは日鉄二瀬鉱業所稲築坑(嘉麻市)で働いていました。

この第10巻で注目を引く記述は、当時自転車を愛用しており、米ノ山峠を越えて太宰府まで行ったり、冷水峠越えで久留米天宮を参拝したり、福岡の愛宕神社や宝満山へ行ったりと各地を自転車で回っていたことです。

部類のお酒好きな作兵衛さんでしたが、「禁酒幹事ノ辞令来ル」(1935年3月19日)とあるように、職場で禁酒に取り組んだこともありました。しかし、完全に絶つことはできなかったようです。
また、「安全週間ポスター一等賞、コーモリ傘ヲモラフ(1935年7月15日)」や「坑長自ラ賞品ト賞状トヲ下サル 安全週間ポスター一等賞ノ事(1936年7月6日)」とあるように、得意の絵でポスターコンクールなどに入選したという記述もありました。

平成24年は、昭和15年~18年までの日記を読み解き、第11巻として発行予定です。




(3)西日本新聞2014年09月26日

【意見】差別を許さぬ人権ネットワークを 森山沾一氏

◆国連人種差別撤廃委報告から 
 国連人種差別撤廃委員会が8月29日、日本でのヘイトスピーチ(憎悪表現)などの差別に対し、法規制を含めて「毅然(きぜん)と対処」するよう求めた最終見解を採択し、政府に勧告した。

 わが国は1995年、国連の人種差別撤廃条約(締約国176)に加盟。加盟国は2年ごとに条約に基づき履行報告書の提出を求められ、それが同委員会で審査され、取り組みの評価や、懸念される点を勧告される仕組みになっている。日本の場合、この19年間で3度目の勧告を受けたわけだ。

 今回はどんな勧告がなされたのだろうか。

 冒頭で国連障害者権利条約を1月に批准したことが一定の前進と評価された。その一方、「人種差別を禁ずる法律の欠如」「(人権の伸長、保護に関する問題に権限を持ち、政府に意見などができる機関を設けるとする)パリ原則にかなった国内人権機関の未設置」「ヘイトスピーチ・憎悪犯罪」「日本国籍を持たない者の生活支援」「マイノリティーへの権利擁護」などへの懸念が示された。

 それらはどれも重要な人権上の課題だが、ここでは2点について述べたい。

 一つは国内外で大きく報道されている日本のヘイトスピーチだ。勧告でも相当の紙数が割かれたが、日本での人種、民族を差別するデモ、集会を行う集団の人種差別的な街宣活動の広がりに対し、調査や防止措置の必要性が指摘された。同時に、防止、取り締まりが表現の自由を侵さないようにも求められている。

 京都地裁や大阪高裁のヘイトスピーチ違法判決を待つまでもなく、人種や民族を超えた多文化共生は、人類が勝ち取った叡智(えいち)である。福岡では表面化していないが、差別的な落書きやネット社会での匿名中傷サイトを防止し、先んじて差別の芽を摘むことが重要だ。

 もう一つは、部落問題が解決されていないという指摘だ。勧告は、日本国憲法14条にある「門地・社会的身分」に、世系(descent)の部落問題は入らないとする政府見解に遺憾の意を示した。そして悪質不動産業者などによる戸籍情報の不正取得に罰則、防止措置を科すように求めた。これも大切なことだ。

 勧告は、国際的な人権基準と、私たちの社会意識との間に、乖離(かいり)があることを浮き彫りにした。そのことを冷静に考え、改善に向けて行動することが必要だ。人種差別の未然防止のために世界各国や市民が行っている人権を守るためのネットワークが常に力を発揮して機能していくように、私たちも差別を許さず、人権意識を高めることが肝要だ。

    ◇      ◇

 森山 沾一(もりやま・せんいち)公益社団法人「福岡県人権研究所」理事長 1946年中国・奉天に生まれ、生後100日で両親と博多港に引き揚げ。九大大学院修了。福岡県立大副学長などを経て同大学顧問。2000年西日本文化賞を受賞。 


=2014/09/26付 西日本新聞朝刊= 

 

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