建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

先日の2014年11月12日(水)、韓国釜山の慶星(ギョンソン)大学で藤原研究室の同人であるタカクラタカコさんと豚星なつみさんによる日本の市民参加型まちづくりに関する特別講演会が行われました。

今回の講演会は、去る8月24日~27日に慶星大学から訪問されたイ・ソンフン先生と学生さんの日本フィールド調査の時にお二人が協力してくださったことが機縁となりました。
日田市のタカクラさん、湯布院のなつみさんが、協力し合って現地の案内をしていただいことがきっかけになって、今回は独特の市民参加型まちづくりを先導してきたタカクラさんとなつみさんが釜山に招かれ、同大にて講演会を行ったのです。
052

慶星大学は私(ジャン)の母校です。
最近、哲学科、フランス地域学科、ドイツ地域学科の三つの学科が学制間の融合教育を目指して、グローカル文化学部という新しく学部が再編されました。その中には文化企画学専攻、文化コンテンツ学専攻、文化サービス学専攻が設けられています。
今年から5年間、韓国政府の教育部から地方大学特性化事業に選ばられ、多様な行政からの支援が行われる予定です。

文化企画専攻の中では展示企画者養成、まちづくり活動家養成の二つのトラックがあって、その一環として今回の招待講演が行われました。

お二人をお招きしてのテーマは「まちづくりとはなにか?日本の二つの事例」ということでした。

今回の講演は、けっして専門的な話ではなく、学生たちに対して日本のローカルな地域社会のまちづくり活動家たちというのはいったいどんなことをしているのか、またそうした活動を進めていくには、いったいどんな姿勢が必要なのか、など学生諸君の関心を高めて行くための講座として設計されたものでしたが、大学の先生や学生のみらず、大学が所在する釜山市東区役所のまちづくり関連部署の職員のみなさんや、釜山発展研究院まちづくり支援センターの研究員のみなさんまで幅広い方々が参加してくれることとなりました。
046

まずタカクラさんの発表から。

タカクラさんは、まず最初に人口7万人規模の小さな日田市の歴史や特徴を説明して、地域の特徴を活かした地域のイベントなどを説明してくれました。その中から長年培われてきた九州大学藤原惠洋研究室との関係をあぶりだすように、かつて藤原惠洋先生がアドバイザーをつとめていた異業種交流プラザ日田の話から始まり、その後、タカクラさんのまわりの何気ない市民の方々が力を出し合うようになっていった市民主体のまちづくりの成立と発展など、多様な事例を紹介してくれました。
その中には、タカクラさんが自ら主導した「水面の盆」のようなユニークなまちづくりイベントも含まれていました。
015

つづいて日本ではたいへん有名な観光地としても知られる由布市湯布院に住まう豚星なつみさんは「ゆふいんという不思議なまちの私のくらし」というタイトルで、特技のペインティングパフォーマンスを行いながら、よそ者として由布院という町になじみながら、どのように住民との関係を深めていくのか、そのユニークな活動の経緯と成果を説明してくれました。
022

048

二人の講演が終わった後も有意義な時間が生まれました。約1時間もかけて聴講者の方々とじつに多様な質問や意見交換を取り交わすこととなりました。
058

Q1.
(司会者)昨日釜山に着いて甘川文化村を行ってきたと聞きました。今それぞれ活動している日田と湯布院と比べてどんな共通点や相違点があると思われましたか?

A1.
(タカクラ)両方とも、アートの力で町をよみがえらせようというところが共通点だと思います。しかし韓国釜山の甘川文化村のばあい、行政が主体的に活動が推進されているところが日本と違うなあ、と思いました。日本の場合も、たとえば私の日田でも、その昔は行政主体でやっていたと思いますが、今は日田の場合、それがだんだん民間や市民の力がついてきており、けっして行政主導ではなくなっている、というところが少し違うのではないかと思います。もちろん甘川文化村の活動もたくさんの住民のかたがたが参加されていると思いますが、日田市の場合はもっともっと多彩な市民や小さい市民(=たとえば小学生や高校生、子どもたち)までもが参加しているのです。

(豚星)甘川文化村に始めて行ってきました。そのためカラフルな街を見ながら、最初の印象は別にアートで盛り上げなくても、たくさんの崖に張り付いている家々がユニークな色が付いていたり、急峻な階段があったり、とかして面白いところだなと思いました。韓国と日本で同じく共通するところは、日本もアーティストを呼んで人が集まるのなら、それで町を起こそうというのがありますが、それがうまく進捗する所は宣伝もどんどんうまくなっていくし、アーティストも素晴らしい人たちがいて、地元の人たちも楽しんでくれるというところだと思います。違う点は、日本の場合だと、アートイベントが終わるとアーティスト達もさっさといなくなってしまうことが往々にしてあるが、甘川文化村の場合はじっくりと日常として残っているのでいいなあと思いました。

Q2.
(司会者)私たちが先日、日田市を訪ねた時に日田のバスターミナルでタカクラさんを待っていたことがある。待っているうちに小さいターミナルという空間に集まってくるさまざまな人々の姿を見ることができました。一方、その後行った湯布院駅の場合は、JRの駅舎建築の中に別のギャラリー空間を作って、多様な文化空間として活用しているのをみてとても感動しました。では日田市の場合も、あのバスターミナルを文化空間として活用する計画はあるのでしょうか?
A2.
(タカクラ)バスターミナルでは、野菜を売ったりされたりする人もいます。地元のおばあちゃんたちが買い物にきたりもしています。しかしそれ以上の活用というのは今のとこるないので、これからバスそのものが生活を便利にすることと同時に、他のこともできないかなと一緒に考えています。

Q3.
(司会者)毎夏に開催される湯布院映画際の場合、運営資金の多くが住民の寄付により運営されていると言われたが、その規模はどのぐらいのものなのでしょうか?
A3
(豚星)地元住民の寄付もありますが、国の文化庁から文化活動への助成金をもらっています。同じく文化記録映画際の場合は、だいたい半分は寄付に基づき、そして残り分を文化庁とスポンサーによって支えてもらっています。

Q4.
(司会者)私は日本の瀬戸内芸術際は2回目まで全部行ってきています。韓国も、甘川文化村及びトンニョンのドンピラン壁画の場合、文化を活用したまちづくりと言っても、主として視覚芸術の作品を用いて行っています。個人的には、こうした視覚芸術を活用したまちづくりのモデルは、そろそろ限界に来たのではないかと思っています。日田と湯布院の場合、視覚芸術以外にパフォーマンスアートの活用に関して考えたことがありますか?
A4
(タカクラ)日田ではないのですが、同じく大分県の国東という所で、去年からアートを用いた芸術祭を開催しようとした際に、どこに設置すればよいのか、アーティストや事務局と地元がもめたことがありました。もともと国東はとても神聖な場所です。そのため数々のお祈りの場所が散らばっており、地元ではそうした聖地が大切にされたところでもあるのです。それで、祈りが大事なのか、アートが大事なのかという議論がありました。
結果的には作品を設置することになりましたが、今後いろんなところで、地域社会がアートの力でよみがえるという点も大切だと思うのですが、合わせて、そこに暮らしている人たちの歴史や思いを大事にできるようなアートによる表現、つまりアーティストだけが表現したいから芸術祭を開催するのではなく、その思いを一緒に共有共感できるアートの設置というのがとてもたいせつになってくるのではないかなと思います。

(豚星)芸術祭をすることで町おこしをしようというのは、あくまでそのまちを訪れるきっかけづくりとして、町に訪れるためのものだと思います。
結局、アーティストはその一瞬しかいないし、そこで暮らす人々はそのまま一緒そこにいるので、お互いあの交流がとても大事かなと思います。湯布院の場合はイベントとかしてもすぐに消え去ってしまうものもあるし、さらなる新しい出来事を生み出していくこともあるし、いろいろです。音楽が好きだから音楽イベントをやろうと何人かが始まって、それが本当に皆が楽しければ続けていくようなことがきっかけとなってきました。先にお伝えしました東勝吉さんを顕彰した公募展のように、83歳以上のかたしか参加できない水彩画公募展はすでに3回目となりましたが、まだこれは、今後もっともっと育って行く可能性があるのではないかなと思っているので続いていくと思います。
その以外、隣の町の大分市では、店のトイレの中に絵画作品を展示するという意外な企画「トイレンナーレ」というのが始まりました。これはアートがけっして商業的には使われていないのですが、今後まちづくりや地域づくりへむけ、そこからどういうふに繋がっていくのかはまだ分からないですね。

Q5.
(東区役所)釜山のまちづくりは、山腹道路ルネサンス(山の中腹に位置されている町の再生事業)から始まったのです。釜山のまちづくりの特徴は韓国の近代化、現代化を経ちながら、解体された町の共同体を回復することと同時に、住民の暮らしの質を上げることを目的としています。その中でも甘川文化村の課題は少なくありません。実際に住んでる住民たちにとってはさほど恵みがないのです。
始めは芸術作品の設置による副作用もありましたが、最近になるとようやく恵みが現われているような状況です。今後の都市再生を考えた場合、一番活発的な活動をしながら先導的な成果を生み出している地域は東区だと言えます。さて質問ですが、まちづくり事業を通して生み出される利益とはいったい何で、それはどのように使うことができますか? そして日本での市民参加や市民主体のまちづくり活動はボランティアでやっているのですか?

(タカクラ)観光客が町の中にお金を落としていくということで、次の商売につながっていくということはあるかも知れませんが、まちづくりそのもので利益が上がっていくというのは私自身は経験したことがありません。
少し利益があがっても次のイベントのためのお金に使って行きます。先ほど紹介されていた瀬戸内芸術際のような巨大な事業なら、相当に次のお金を生んでいるのではないかと思いますが・・・・・。

(豚星)高倉さんと同じです。地域社会でのアートイベントやまちづくりのような活動の多くが赤字になっていると思います、まんがいち黒字になって残った分があるとすれば、それは次の会に使っていきます。湯布院でも一回で終わったイベントが多々あります。たとえばイベントの後に、その利益を使って木を植えようというキャンペーンがありましたが、3回で終わったようです。

(東区役所)釜山では1004名の町活動家養成計画があります。この方たちは、一つの町当たり80万ウォン(約8万円)を支給されています。一人がだいたい3-4ヵ所で働いていますから、都合240万ウォン以上のお金をもらっていると考えられます。なぜなら、釜山の場合は始めは行政が関与して、誘い水の役割をするためでもあるのです。東区の場合は、住民たちが集まったりする中ようやく住民組織ができてきており、これは成功事例として見て良いと思われます。

Q6.
(釜山まちづくり支援センタ支援チーム長)私は町活動家の教育や育成、町活動家1004名の企画を担当しています。釜山では、山腹道路ルネサンスと幸せまちづくりが代表的な事業です。
その中で、必ず、釜山市が公開募集を通じて委嘱された町活動家が町の中で活動することになっています。町活動家が町に入る際に、初めてする活動は住民組織化です。そして、1年~1年6か月ぐらい活動したら、その町を出なければならないので、自分の代わりに町のリーダーを発掘する必要があります。
活動手当の場合、私が担当しているので正確に言うと、山腹道路ルネサンスの場合は「創造都市企画課」で、幸せまちづくりは「都市再生課」で担当、事業によって活動手当の支給方法が異なります。
山腹道路ルネサンスで委嘱された方々は、そこが本人の職場となります。
福祉司や芸術家、大学院生、大学先生などです。
それが本職となりますので、会議費で80万ウォン(約8万円)程度が支給されます。
幸せまちづくりの場合は、専業活動家で一つの町で40万ウォン(約4万円)をもらって、3-4か所の町で活動しています。
しかし給料ではなくて会議費で支給されているので、保険などは適用できいません。
この部分は支給しようという話もあるが、町活動家の方々も地域にボランティアする形で行っているので今、議論されている最中です。
質問であるが、釜山市は「山腹道路ルネサンス」の場合、2020年まで1500億ウォン(約150億円)の予算を割り当てていますが、日本の場合も公的予算を投入して長期的な観点でまちづくりを行う場合があるのでしょうか?
そして、住民間の相互の信頼獲得のために、自分なりのコツがあれば何かご教示ください?

A1. 日本の総務省が主導する地域起こし協力隊の事業があります。一人の給料を自治団体を通して支給しています。そして、そこでまちづくりに協力する期間がおおむね3年間という期間です。日本ではあちこちの自治体で活用されだしています。
このようにボランティアをきちんとプロのまちづくりの達人として雇いましょうというのが一つ。
また、市町村、大分県、国などそれぞれのいろんな助成金があるので、何万円から1千万、2千万円程度の大きなお金まで、支援のお金は数々の制度があると思います。
NPO法人の別府プロジェクトというところは、国からお金が出ていましたので、雇われている人たちには給料が出ていました。そのうえで町の中の住民とアーティストの連携をコーディネートするという仕事をしていました。
しかし私の考えは少し異なります。
私はまちづくりに関してはすべてボランティアをしてきました。
一方、家業の印刷会社に所属しているのですが、町に人がいなくなると私の仕事もなくなると思っていますので、町の商業がきちんと成り立つようにと考えながら、私の得意の分野を使って町の人といろいろまちづくりに関する相談をしたり、たいへんな悩み事を聞いたりしてきたのです。
それが結果として、私と町の人との信頼関係を育ててくれたような気がします。仕事の話から発展して、一緒にイベントを起こすなり、まちづくりを一緒にしませんか、と話しを交わしていったり、逆にまちづくりで困っていることを仕事先の人たちに助けてもらったり、というふうにお互いの関係づくりが少しづつできてきたのではないかなと思っています。
私が困っていたら誰かが助けてくれる、誰かが困っていたら私がささやかな支援の手を差し伸べる、というような相互関係をつくるのが、地域のまちづくりにとって一番有効手段ではないかと思うのです。

A2.
(豚星)湯布院で、私は行政の人たちと毎日いろいろな話をしています。日常会話みたなことを通して交流をしていますので、次の湯布院を発展させる行政の計画を聞いたり、たくさんの資料をもらうことができたり、アドバイスをもらったりすることができます。しかし一方で、市からの助成や支援をもらうのはなかなか難しいのです。多彩な市民とつながっていく手段として、私はオリジナルなアートとしての書を使ってきました。いろんな人とつながっていく際に、その特技を使って行けるので、それは私の強みだと思っています。

061

以上。私の母校での講演会を通じて、釜山の役人が考えているまちづくりは日本のまちづくりとかなり意味が違うのではないかと思いました。
まず、釜山の役人はまちづくりを利益創出として把握しているので、利益で何をするのか?という質問が出てしまいました。
一方、今まで利益創出を考えたことがないタカクラさん豚星さんたちは、この質問に若干当惑したのではなかったかなと思いました。
また、釜山では市がボランティア的な人を雇用してまちづくりを始まっているものの、日本の場合は徹底した無償ボランティアとして、利害関係を超えてたくさんの住民たちが関わりながらコトが動いている様子が手に取るように分かる気がしました。
韓国と日本。
住民が参加するまちづくりの相違点を通して、これからの課題が見えてきたような気がします。

以上

D1ジャン

Add Comments

名前
 
  絵文字
 
 
プロフィール

藍蟹堂

藍蟹堂。感受性は海の底から波濤や世界の波瀾万丈を見上げる蟹そのもの。では蟹とは?

『日田ラボ』 最新記事
『きくけん』 最新記事
カテゴリ別アーカイブ
月別アーカイブ
記事検索
ギャラリー
  • 九州鉄道初代門司駅関連遺産を遺してほしい!! 20240303 ついに Change.org  オンライン署名が始まりました!ご賛同を!!
  • 九州鉄道初代門司駅関連遺産を遺してほしい!! 20240303 ついに Change.org  オンライン署名が始まりました!ご賛同を!!
  • 九州鉄道初代門司駅関連遺産を遺してほしい!! 20240303 ついに Change.org  オンライン署名が始まりました!ご賛同を!!
  • 九州鉄道初代門司駅関連遺産を遺してほしい!! 20240303 ついに Change.org  オンライン署名が始まりました!ご賛同を!!
  • 九州鉄道初代門司駅関連遺産を遺してほしい!! 20240303 ついに Change.org  オンライン署名が始まりました!ご賛同を!!
  • 2024年3月16日(土)13:30〜発掘調査で明らかになった九州鉄道の原点に迫る!!講演会開催!
  • 2024年3月16日(土)13:30〜発掘調査で明らかになった九州鉄道の原点に迫る!!講演会開催!
  • 20240315香椎国家公務員宿舎に住んでいた知人もいたが・・・・
  • 20240315香椎国家公務員宿舎に住んでいた知人もいたが・・・・
  • 20240315香椎国家公務員宿舎に住んでいた知人もいたが・・・・
  • 20240315香椎国家公務員宿舎に住んでいた知人もいたが・・・・
  • 20240315香椎国家公務員宿舎に住んでいた知人もいたが・・・・
  • 20240315ネクサスワールドの壁修繕が進む・・・クールハーフ、ではなく、コールハース。マークマックの赤壁再出現!
  • 20240315ネクサスワールドの壁修繕が進む・・・クールハーフ、ではなく、コールハース。マークマックの赤壁再出現!
  • 20240315ネクサスワールドの壁修繕が進む・・・クールハーフ、ではなく、コールハース。マークマックの赤壁再出現!
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ