小池新二先生(1901~1981)は、戦前・戦中・戦後に渡って欧米のデザイン思想を
日本に積極的に紹介し、それらを根付かせる教育機関の設置やアジアに開けた
美術館を提唱しました。また、帝国美術学校の創設に関わり、千葉大学工学部
工業意匠学科を設立、九州大学芸術工科大学初代学長として、日本のデザイン思想
の成長を第一線で牽引してきた人の一人でもあります。
後期公開講座では、様々なゲスト講師をお呼びし、小池新二先生の生涯を辿る
なかで、小池先生が目指した「汎美」=暮らして行くことへの美しさ とは
一体どのようなことなのか。美学的、形而上学的な評価ではなく、私たちの
暮らしの視点で考察してゆくことを目標としています。
第二回は、メディアアーティスト・美術・音楽・パノラマ愛好家の森下明彦先生を
お呼びして、小池先生が生涯に渡ってどのような思想を持ち、どのような仕事を
してきたか、大変貴重な資料を通して極めて実証的にお話いただきました。
森下先生は九州芸術工科大学の4期生として入学し、小池先生の存在や気配を
感じながら「芸術工学」とは一体何か、その謎を現在も追い続けてきました。
神話的に語られる小池先生を今一度論じる際、彼の残した思想や働きを冷静に
見てゆく必要があります。小池先生に関する研究は、既に1979年に論文が発表
されており、2004年頃、千葉大学のグループが「デザイン学研究」という冊子に
3回に渡って年代順に振り返る特殊が組まれるなど本格化しています。
しかし一方で、小池は仕事の量が莫大に多く、その資料は未だに全貌が明らかに
なっていません。森下先生は、散発的に出てくる文章などを長年培った感覚で
見つけ出し、データを収集するところから研究を行っていらっしゃいます。
小池先生が当時どのように外国から膨大な最先端の情報を入手していたのか、
興味関心の変遷や特殊な活動の仕方などが、森下先生の独自の視点によって
語られ、講義は非常に興味深いものとなりました。
小池新二先生は、多分野に渡って膨大な仕事をこなし、広い視野を持つ
「ジェネラリスト」として、あるいは情報、人間関係、教育機関など様々な
ものをコーディネートする「ディザイナー」として大変活躍し、そのような
働きは、小池先生が提唱する概念そのものであり、自ら実践されていたことが
ひしひしと伝わってきました。
現代の私たちが住み暮らす世の中では当たり前となってしまった情報や社会が
小池先生を始めとする先人の方々が一生懸命獲得し、根付かせようとしてきた
ものであったということを知り、その価値や意義を改めて感じることができ
ました。森下先生、どうもありがとうございました。
次回の公開講座は11月11日 19:00〜5号館531教室にて開催予定です。
D3 國盛