建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

2014.6.3 公開講座九州大学公開講座 建築探偵シリーズその10 
創造都市の歩き方 〜アジアの創造都市を訪ねて〜

 

63日の公開講座では、藤原惠洋先生と藤原研究室博士1年の張慶彬さんによって
韓国の創造都市の最先端の現場を、臨場感たっぷりにお伝えいただきました。

   
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藤原先生は長い間、日本のみならず、アジアの建築や都市の文脈に対する研究を
先駆的に行っていました。都市の文脈を紐解く中で、過去から現在、未来の姿に
思いを巡らすようになり、都市再生に対する研究が始まります。
経済性重視によって壊滅される都市の歴史的文化をもう一度再生する行為こそ
地域の人々の暮らしを豊かにすると確信されました。

一方、張さんは韓国釜山生まれ。学生時代も釜山で過ごしました。
賑わう都市に愛しさを感じながらも、疑問が生じるようになり、ヨーロッパが
主導で行っている都市再生に興味を持つようになりました。きっかけは大学で
多くの分野の授業を受けているうちに、創造都市研究に出会います。美術、音楽、
映画等が大好きな張さんは、自らの想像力を都市に向けてみたいと思うようになり
修士論文を創造都市に定め直し、書き上げたそうです。そのお二人が昨年出会い、
近年急速に発展するアジアの創造都市に対する研究を行っています。

 
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藤原先生:都市を創るのは、政治家や行政の人が行うものだという意識が一般的
だと思いますが、アーティストが都市を創るということに対して疑問はありません
でしたか?

 

張:とてもありました。釜山のアーティストは、自らの作品を高く売ることを
望んでいる人も多いです。その一方で、都市に対する働きかけをおこなっている
アーティストもいます。まだまだ韓国の創造都市政策には余地や余力を感じており
これから可能性があると思っています。

 

藤原先生:経済に新しい芸術や文化の力を注いで、刺激を与えることで経済的に
地域再生を行うという手法もありますが、張さんは違う視点をお持ちですね。

 

張:はい。文化産業、想像産業という経済に対する効果も必要と思いますが、
私自身はコミュニティの再生に、アートの力の可能性を感じています。これまで
釜山は国際映画祭を開き、映画産業によって活性化しようと試みてきました。
今のソウルの市長は社会運動家出身です。アートの力によって地域の人々の暮らしを
豊かにするものへと向かいつつあります。
今回はソウル市と釜山市の事例を取り上げ、韓国の創造都市政策を見てゆきます。

 

ソウルの創造都市
 

ソウルは「京城」「漢城」と呼ばれ、現在の韓国の首都である。
都市の歴史は大変古く、朝鮮王朝500年に、四神相応の思想を基に建設された。
城壁に囲まれ、各方向に東大門、西大門、南大門などが構えられている。
現在は首都圏一極集中の人口過密によって、7つの区に分けられている。
1950年朝鮮戦争終結後、高度成長期を迎える中で、特に服飾の縫製産業が活発化。
地区には工場が建ち並ぶ中、清渓川の汚染が公害となる。

その中でも都市は急速に成長し、1988年にはソウルオリンピックによって
近代都市へと発展を遂げ、国際的にも存在感を増していった。
近年は清渓川河川流域の再生と文化の再生に力を入れ、デザイン創造都市政策が取られる。

現在もファッション産業は非常に盛んであり、東大門の通りではたくさんの
服屋さんが並ぶ。
一方、離れた周辺地域であるチャンシンドンには約700の工場が並んでおり、小さな工房で服が作られる。

住民の70%がこの服飾産業に従事する。創造都市としての発展はこのような背景に
由来している。
 

朝鮮時代の漢陽(ハニャン)都城の城郭があった地には、韓国で初となる近代的な
野球スタジアムとサッカー場を有する東大門運動場が設けられていた。
同運動場の老朽化に伴い、ソウル市は東大門歴史文化公園造成事業の推進を決定、
2006年、運動場の移転が決まり、建築デザインコンペが開催された。
センターの中では、ファッションやデザインのプロジェクトを行う場所として
活用されている。DDPを拠点に、都市に創造性を普及させる起爆剤、あるいは
ハブとして構えられている。

creation

 

その地域から少し離れた場所にあるチャンシンドンでは、縫製工場が集積。
そこでは住民の手によるチャンシン村ネットというローカルラジオ局が開局し
ワークショップや音楽祭を開催。音楽祭は村の人が演奏者として舞台に立った。
「なんでも図書館」は芸術集団の支援によって、自らの力でリノベーションを図り
運営している。「000間」は、人々が自由に使える空間である。運営者も競争する
アートを望んでおらず、より新しい制度や価値観の創出を目指している。

 
藤原先生:重要なのは、なぜこの地域にアーティストが集まるようになったか、

ということである。荒廃した地域にアーティストが集まり再生を促す事例は
ごまんと見られるようになっている。なぜこの地域なのか。
トンデムンにはそのポテンシャルやクラスターが既にあったことが大きい。
トンデムン市場は24時間眠らない市場であった。家内制手工業で作られた服を
卸業者が買い、店で売る。そのようなクラスターが事前にあったことに
触発されたアーティストが、行政の支援を受けて事業を行うことで
徐々に育ってきたと言える。

 

 

釜山市の甘川洞は、1950年朝鮮戦争以降に4千人余りの避難民が移り住み
800戸の階段式住居が形成された。甘川洞は2009年より行政主導により
アーティストの誘致や、住民による参画が促され、「甘川洞文化村」として
注目を集めている。近年では1年に30万人の観光客が押し寄せるようになった。

この事業の目的には、貧しい地域であった甘川文化村住民の環境整備、村の所得の
拡大などが含まれている。新しいプロダクトを住民が生産することによって
給与として受け取っている側面もある。

あま


釜山市は観光客のために食堂各地に設置。運営は住民によって行われている。
2010年まで韓国政府による支援もあり、アーティストの作品は町中に設置された。
それ以降は、住宅景観の保存や条例の制定などがなされている。
2014年度以降は、ビジネスセンターの設置、体験型住宅設置、家の修理事業団
(都市計画的な道路、大規模な整備ではなく、個々の家の修理)が発足している。

あま1

あま2


藤原先生:私と張さんは、どちらの事例も踏査してきた。

甘川文化村は他にない不思議な空間となっており「韓国のマチュピチュ」と
呼ばれている。甘川文化村のアートの質、という点においては、美術館収蔵品の
ようなレベルは持ち合わせていないが、生活環境にアートが入り込むことで
住民たちにどのような変化が起こったのかが注目するべきところである。

 

張:現在、住民達の反対の声は未だ大きい。外部から押し寄せる観光客が生活空間
に入ってくることへの嫌悪や、就労、生活環境改善を急ぎ求める声も大きい。
今後、甘川文化村の政策は、より住民へと焦点を当てて展開される予定なので
今後も引き続き注目すべき事例といえる。 

ユネスコでは、一つの代表的な産業を中心として創造都市を制定しているが、

私はもっと沢山の要素が絡み合っている様子がとても良いと思っている。
中心的な産業に重心を置かなくても、個々の都市、街、村の規模に併せた
創造産業が生まれることを理想としている。

 

 

初めて知る韓国の創造都市の事例を臨場感たっぷりに講義いただき、数々の
質疑応答や議論も行われました。隣国の韓国では、非常に大規模な創造都市政策が
戦略的に行われており、急速に発展しています。今後、日本はどのような創造都市
政策に舵を切ってゆくのでしょうか。創造都市は競い合うのではなく、互いの国や
地域がネットワーク化することによって相互に磨き合うことが不可欠です。
2時間に及ぶ講義や数々の質疑応答に対して、しっかり丁寧に向き合って下さった
張さん、おつかれさまでした。講義終了後は、張さんのねぎらいもかねて
赤木酒店で小さな交流会が開催されました。

 

 

次回は617日(火)1900〜 
藤原惠洋先生と、藤原研究室博士学生の柯勝釗 さんと共に
「台湾の創造都市・台北・対中・台南・高雄」を事例に考察します。




踏査写真:張慶彬  記事:國盛

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