建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

皆さん、尹東柱(ユンドンジュ)詩人をご存知でしょうか。

윤동주

韓国の詩人・尹東柱(1917.12.30~1945.2.16)。
1945年2月16日に当時の福岡刑務所で27歳の若さで獄死した国民的詩人です。
1948年に出版された遺稿詩集「空と風と星と詩」は韓国のみならず、世界の多くの人々に読み継がれています。<福岡・尹東柱の詩を読む会 代表 馬男木美喜子(まなぎ)さんにより>

(張)は韓国・釜山から日本に留学していますが、このような機会が生まれるとは思ってもいませんでした。

2014年5月17日午後6時から開催された月例の「福岡・尹東柱の詩を読む会」に行ってきました。会場は福岡市婦人会館あいれふ8階視聴覚室。長年、詩を読み続けたきたメンバーの方が集まっておられました。

尹東柱詩人は私が高校生の時代から大好きな詩人であり、省察的な生き方を教えてくれた人生の先生でもありました。

この日、藤原惠洋先生は大学院生たちを福岡県大川市・柳川市の歴史的建造物や都市遺産へ案内する学外演習が終わってから駆けつけてくれました。遅れて部屋へ入ると、昔の仲間達が懐かしいと迎えてくれました。
はじめてお会いする方もいらっしゃったため、自己紹介も兼ねて
「福岡・尹東柱の詩を読む会」の設立由来を静かに思い出しながら話してくれました。

30数年前から研究のいっかんとして東アジア各地に残っている戦前期日本の近代建築ならびに現地の近代化過程を跡づける遺構調査を行っていった。そのときに韓国の建築学者尹一柱先生と知り合いになったそうです。
当時は尹一柱先生のことを建築学者として尊敬していたが、少しづつ尹一柱先生の周辺のことも知るようになり、じつはお兄さんが韓国で有名な詩人だったことを知らされたことがある、そして終戦直前に福岡で獄死されたことまで知って行った、さらにはそうした詩人の足跡をふりかえった詩集が幾多の困難を越えて発行され、日本語訳が出版された際に、それを直接尹一柱先生から戴くことができた、と。不思議な縁が幾重に重なっていたようです。
そして藤原先生が当時の九州芸術工科大学に異動となり、新聞紙上で紹介された
尹東柱詩人の日韓合同50周忌慰霊祭をすすめる福岡県立大学の西岡先生との交流が生まれ、それらがきっかけになって20年ほど前の頃、「福岡・尹東柱の詩を読む会」が設立されていったのこと。

定例の催しを企画し連絡をする中核として研究会事務局が必要となり、それを藤原研究室がつとめていくことになったそうです。
こうした研究会活動をきりもりしながら藤原先生はたくさんの当時の学生を会に誘って行かれたとのこと。日本語やハングルを超えて響き渡る透明感溢れる詩人の作品を感じながら、詩の言葉の豊かさや普遍的な意味を感じることを通して東アジアをつなげてくれる尹東柱詩人の魅力を学生に伝えてきたと言われます。


IMG_3631
         
         <同志社大学尹東柱詩碑>


「福岡・尹東柱の詩を読む会」は、1995年2月に福岡市で行われた尹東柱詩人の日韓合同50周忌慰霊祭をきっかけに、詩人の詩と死を丁寧に振り返り、日本と韓国の新しい関係づくりをめざして発足。以来、毎月1回詩を1編取り上げ、時間をかけながら議論を重ねてきました。どれだけ彼の思いに近づけたかはわかりませんが、詩を読み解く面白さや詩文学の持つ芸術性、日本と韓国の歴史、時代と向き合い真摯に生きる姿勢など、たくさんの気づきを与えられました。また毎年2月には、命日に合わせてささやかな追悼式も行ってまいりました。
<福岡・尹東柱の詩を読む会 代表 馬男木(まなぎ)
美喜子さんより>


現在、「福岡・尹東柱の詩を読む会」では来年2月に、尹東柱詩人没後70
年、「福岡・尹東柱の詩を読む会」発足20周年を迎えます。そこで、尹東柱詩人の甥尹仁石さんを招待し、追悼式と講演会を開催する計画です。そこでは、作品展示、映像上映など様々な記念事業を考えています。


これからも私は、尹東柱の詩を好きな人の一員として「福岡・尹東柱の詩を読む会」に参加することにしました。「
福岡・尹東柱の詩を読む会」では尹東柱の詩を通じて韓国を分かるようになった方も、韓国の知り合いを通じて尹東柱の詩を分かるようになった方も、そして、いったいどのような方々が韓国の詩人の詩を読んでいるのだろうか、と気になって参加したというNHK放送局の関係者までおられました。じつに多彩な方々が尹東柱の詩を読んでいたのです。

IMG_4622


今晩は「にわとり」という作品をゆっくり時間をかけて
読みあいました。



<にわとり> 1936、春

せまい鶏舎のあちらに青空が広がり
自由の郷土(くに)を忘れたにわとりたちが
味気ない生活(くらし)を嘆き
産卵(うみ)の苦しみを叫んだ。

みじめなにわとり小屋からあふれ出る
外来種レグホン、
学園から鳥の群れが飛び立つ
三月の晴れた午後もある。

にわとりたちは解け始めた積肥(つみごえ)を搔くのに
小さな足が忙しく
飢えた嘴(くちばし)がせわしく動く。
両の目が赤くちばしるまで


さていろいろな感じ方があったようです。
会が始まると、最初は全体の詩の風景に関するいろいろな話を取り交わしました。

詩に書いている言葉の意味を考えると、自然に詩が書かれた時代背景まで話が広がっていきました。

詩が書かれた時代は1936年、この時期は尹東柱が通いだした平城(現在は北朝鮮)の崇実中学校が神社参拝拒否問題で閉校された時期とのこと。そうすると詩の中の「にわとり」は、当時の東アジアを巡り緊張した政治的な経緯の中、日本統治を余儀なくされた韓国の民衆、あるいはそのような環境の中の詩人自身を示していったことなのかもしれません。

そして遅れてきた藤原先生も含めて、参加者一人一人が自分の感じ方を丁寧に出し合って、じつに多彩な見方や感じ方がこの会では開陳され合っていきました。私もけっして日本語が十分ではないかもしれませんが、恥じること無く、感じた想いをどんどん伝えることができました。

けっして答えが用意されているわけではないのですが、他の方の感じ方や読み込み方が参考となり刺激となり、私の考えもより深まった気がします。

このように尹東柱の詩を読む会では、尹東柱の詩の美しさを感じることと共に、当時の韓国人の苦しみまでもが議論の話題となっていました。

来年は、尹東柱詩人の日韓合同50周忌慰霊祭であり、韓国と日本の国交正常化50年になる歴史的な時期でもあります。政治家の一言も重要ですが、両国間の文化交流を通じた共感がこそ、新しい関係が生み出すきっかけになるだろうと思います。
 
最後になりますが尹東柱の「序詩」という作品をご紹介させていただきます。
尹東柱の詩が、今なお多くの人々に愛されているのは、彼の省察の深さと自己反省的な態度が
現代を生きている私たちにも変わらず要求されているからかもしれません。

今後、尹東柱の詩を読みながら詩の言葉の美しさを感じたい方、あるいは来年の「尹東柱詩人の日韓合同50周忌慰霊祭」に手を貸したい方がいらっしゃいましたら、藤原研究室の張(ジャン)又は福岡・尹東柱の詩を読む会代表 馬男木美喜子(マナギ ミキコ)さんまでどうぞご連絡をお願い申し上げます。今後も月例会は同じ会場で開催され続けますので、そこでお会いすることもできます。どうぞご参加なさってください。
次の読む会は6月21日(土)を予定しています。

張 慶彬: 
kbjang12あっとま〜くgmail.com
馬男木美喜子さん: mikikomあっとま〜くmub.biglobe.ne.jp




<序詩>        曹紗玉訳

 

  死ぬ日まで天を仰ぎ

  一点の恥なきことを、

  葉群れにそよぐ風にも

  私は心を痛めた。

  星を歌う心で

  すべての死に行くものを愛さねば

  そして私に与えられた道を

  歩んでいかねば。

 

  今宵も星が風にこすられる。


Comments

    • 原田 節子's comment
    • 2014年06月01日 22:42
    • 5 張さん!!!こんばんわ!!先日詩の会でお会いしました原田と申します。
      あの日発表者だった者です...。先日はお忙しい中本当にありがとうございました。張さんのお話が聞けてとっても良かったです。なんだかさわやかな新しい風が吹きぬけた感じでした。又是非いらしてくださいね。お待ちしていますよ。又今回はこのように丁寧に情報を発信してくださり感激です。
      私たちは来月の一柱先生との建築ツアーを前に色々と企画を練っています。
      韓国留学中の私の友人も参加します。本当に楽しみです。
      それでは又。

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