座学で授業として建築を学んだことはありません。そんな私でも十分に楽しめるトークイベントと展覧会のオープニングレセプションでした。派手で大仰なプレゼンは何一つなく、ありのままの藤森建築を提示しているだけですがなぜが会場から笑いがおこる、そんな楽しい会でした。(中央:藤森先生、左:ローランド・ハーゲンバーグ氏)
イムズ(福岡市中央区天神1)8階の三菱地所アルティアムで4月26日より5月25日まで、企画展「藤森照信建築と『鸛庵(こうのとりあん)』」が開催されております。
「鸛庵」は、作曲家フランツ・リストの生誕地として知られるオーストリアの小村ライディングで、9組の著名な日本人建築家によって2009年から進めてられてきた『Raiding Project』の最初の具体的建築物。茶室のにじり口などの日本様式を取り入れつつ、オーストリアの建築法に則って、芸術作品でありながら実際に宿泊できる建物としてつくられました。屋根の上方には本物のコウノトリの巣(既に100年使われてきたもの)が設けられており、春になると、はるばるアフリカから飛来するコウノトリと一緒に暮らすことができます。今回の展覧会では、藤森氏に密着してきた「鸛庵」の創案者のひとりであるローランド・ハーゲンバーグ氏の記録を基に、初期のアイデア構想から最終的な建設までを紹介、また、藤森氏のこれまでの代表作品として、初期作品や「ニラハウス」「チョコレートハウス」なども模型や写真で紹介されております。
私はトークイベントとその後の展覧会オープニングレセプションに参加し、藤森先生と直接お話をする機会を得ることができました。 ※表題のstorkhouseのstorkとはコウノトリのことです。
藤森照信:1946(昭和21)年長野県出身の建築史家・建築家。東京大学大学院に進学後、近代建築史・都市史研究の第一人者として活動。建築家としては長野県の神長官守矢史料館を設計してデビューした。屋根にニラを生やした「ニラハウス」で1997年に第29回日本芸術大賞、「熊本県立農業大学校学生寮」で2001年に日本建築学会賞を受賞している。藤森先生は、東京大学生産技術研究所在籍時代、建築史を専門とする村松貞次郎教授の門下生で、同じ門下には、私たちの先生である藤原恵洋先生もおりました。
巨大都市の空間と田舎の隠れ家のイメージを融合させ、未来的で小さくても多機能な建造物を創造しようとするプロジェクトが「ライディング・プロジェクト」。日本人建築家9組(原広司、伊東豊雄、藤森照信、大野秀敏、隈研吾、青木淳、SANAA(妹島和世+西沢立衛)、山下保博、手塚貴晴+手塚由比)が参加しています。鸛庵はその最初の具体的建築物。今後、この建築に多くの芸術家・音楽家が滞在して芸術活動を展開する拠点となる予定だそうです。
↑鸛庵の屋根には、10メートルの高さのオーク材でつくられた木の柱があり、その上にはコウノトリの巣を設置。例年、多くのコウノトリが南アフリカまでの渡りの途中、このライディング村に立ち寄るとのことでした。
鸛庵は、「焼き杉」という、表面を炭状に焼いたヒマラヤスギが使われています。一度、火で表面を炙った木材は耐火性が高まり、強度を増すとのことです。日本では何百年も前から農夫や山林管理者たちはこのような技法を用いてきました。藤森先生によると、「炭の建築は世界的に無いので気に入っている」とのことでした。(しかし、数寄屋と書院と茶室は炭状に焼いた木ではつくらないとのことでした。)また、鸛庵の家具も藤森先生が自らで作っています。
展覧会のレセプションでは、
「数えてみると九州での仕事は多くて、福岡で住宅をひとつ(「一本松ハウス」模型展示)、「熊本県立農業大学校学生寮」(写真展示)、大分県竹田市の温泉施設「ラムネ温泉館」(写真展示)です。意外とたくさんやったんだなぁという気がしています。というのも他ではほとんどやっていないんです。四国でも中国地方も北海道も東北もやっていません。だから関東圏、京都と九州だけなんです。そういう点で九州とは相性がいいという気がしております。展覧会としても地方都市で故郷以外ではここが初めてです。不思議な縁を感じております。」とお話がありました。
藤森照信先生がオーストリア・ライディングに建てた「鸛庵」が、オーストリア観光革新賞2014を受賞したそうです!
https://www.youtube.com/watch?v=wMWlj-6LeK0&feature=youtu.be
youtubeで、Austrian Tourism Prize 2014 goes to Storkhouse by Terunobu Fujimori と入れていただくとニュース映像がでてきます。ご覧ください。
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トークイベントでは、今まで携わってきた建築の写真をみながら、
「美術館をつくる時は、先入観を取って臨んだ。靴をぬいで美術を鑑賞する美術館をつくった。『靴を脱いで美術を見るのはいかがなものか』と言われたら、『土足で日本画を見るのはいかがなものか』と答えた。その結果、美術作品を座ってみることができる空間が誕生した。」
「熊本県立農業大学校学生寮をつくったが、本当はもっと向こうが見えないくらい木の柱を使いたかった。木の柱があっても邪魔にはならない。」
「(明治30年前後の箱根の家々の屋根の写真をみせながら、)ある時期まで茅葺屋根の上には草が植えられていた。日本とフランスのノルマンディ地方だけに見られるつくり方で、屋根に土をかぶせ、土が流れないように草を植えることがあった。戦前は日本全国に存在したものの、今はほとんどない」
この他、博多の一本松ハウス、メンテナンスが大変というニラハウスが写真で紹介された。高過庵については、「5人までは大丈夫である。はいる時揺れはするものの、中に入りじっとしていたら止まる」とのことでした。
お話をきいているだけで面白いイベントでした。年齢的には藤森先生は私よりずっと上ですが、頭のやわらかさ、発想の豊かさ・柔軟さに驚きました。しかし、藤森先生の建築は、派手で面白さを狙っているのではなく、上記の屋根の上に草を生やす芝棟のように、建築の歴史を踏まえたものであることがわかりました。私がイメージするハコモノとしての建築とは全く違う世界観が提示され、非常に刺激的なトークイベントとなりました。
藤森先生に好きな建築家は誰ですかと伺ったところ「コルビジェ」とのことでしたよ。
福岡での展覧会は5月25日まで。この展覧会はオススメです。
岩 井