建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

 世界遺産について世界遺産一覧表に「不記載」のICOMOSの勧告が出た鎌倉に、近藤誠一前文化庁長官が訪れ、表題の講演をした。

 近藤さんは、5月初め、ICOMOSの勧告を知りショック受けると同時に、世界遺産委員会が終わったら鎌倉に説明に行かなければと思ったとのこと。その言葉通り、昨夜の鎌倉での講演となったが、文化庁長官は7日で任期切れとなり、直後の講演となった。

 鎌倉不記載の理由については、以下のような理解を示された。

 鎌倉の歴史的な意義は、ICOMOSの勧告でも認めている。日本側は武士政権というより武士がつくりだした文化の方に重点を置き、それを体現して いるものとして、緑の山とその谷戸に造営された寺社をセットにして推薦した。ところが、ICONOSは武士政権の本拠地としながらも政権の本拠地、つまり 幕府跡がはっきりしない。市街地や住民の生活跡などがはっきりせず、証明されていないとした。

 (1)こうした相違は、日本と西欧的な価値観との違いに起因することで、西欧の価値観に基づいた登録基準は、「物質的で目に見えるもの、科学で証明できるものに限る」とするのに対し、日本は、「目にみえぬ価値、ストーリーを重視する」。

 平泉では、藤原氏の政治行政上の拠点、柳之御所遺跡は浄土思想に関係ないとして除外され、追加、拡張登録をめざしている。日本側は、藤原氏が浄土 世界をめざしたから平泉ができたとすると、その政権の本拠地の柳之御所があればこそ平泉が出来たので除外はできないとの考えだ。

 日本と西欧的価値観との違いについては、短期的には世界に合わせつつ、徐々に日本の価値観を浸透させる必要がある。それがうまくいった例として、歴史的な文脈で遺産の保護を考えていかなければいけないとする奈良文書を採択させたようなケースがある。

 それとともに、(2)日本人にとっては当然のものを、日本の思想・歴史について詳しくない専門家に説明する必要がある。

 (3)英語またはフランス語で論理的に説明すること。

 (4)資産を絞り込まなくてはいけない時に、一緒にやってきたんだから忍びない。ダメなら駄目で仕方ないからそのまま推薦資産に入れて推薦しよう というようなメンタリティーが働きがちだが、それは全滅してもいいから突撃しようという帝国陸軍的自己満足に終わってしまう恐れがある。合理的な戦略を立 てる必要がある。

 (5)官民・地元が連携して登録をめざし、保全にもあたるべきだ。以上、5点について、鎌倉の不記載の理由と今後の日本の世界遺産への取り組みの教訓を示された。

 続いて、これからの鎌倉のあり方を考えていく上での参考にしていただきといとして、現代は都市の時代をむかえているとして、都市の復活、創造について具体的な動向について説明された。

 何故これからは都市の時代なのかというと、現代の課題を解決するのに国は中途半端だからである。

 防衛、テロ対策、エネルギー・環境問題等の地球環境問題を扱うには国は小さすぎるし、個人の健康、医療、福祉等の毎日の関心に応えるには国は大きすぎる。国は、時代の変化に敏感に対応して行動できなくなってきているのである。

 したがって、グローバル化の下で、個人のアイデンティティーは都市に求められる。都市は歴史、伝説等に根ざした固有の文化的価値をもち、それにもとづいて経済的な価値を作りだすことができるのである。

 そうしたことを踏まえると、都市は人々が自然と一体になって固有性をもちつつ連帯し、文化芸術分野で力を発揮できる適当なサイズをもった単位なのである。

 そこで、現実に世界における文化を通じた都市の発展をみると、もっとも顕著な例としてユネスコの世界文化遺産があげられる。文化遺産は、複合遺産も含めると現在世界で788件に達し、そのうち日本には13件ある。

 欧州文化首都は、各国の首都が持ち回りで文化的な行事を集中的に実施している。

 ユネスコには創造都市ネットワークという制度もある。

 ASEANでも文化首都を実施している。

 そうした中、わが国でも、「文化芸術創造都市部門」で文化庁長官表彰の制度をもうけたし、「文化芸術創造都市モデル事業」を実施している。文化芸術の創造に関しネットワークの構築と強化をめざし、モデル事業を展開している。

 日中韓の外相会議で「東アジア文化都市」の活動を始めることを決め、周りもちで行うが、初年度の2014年度は日中韓の三国がそれぞれに開催することになっており、日本は横浜で開く、韓国も開催都市を決め、中国は検討中だ。

 廃墟のようになっていた都市が、文化を中心とした活動で復活、再生した例はフランスのナント市、スコットランドのグラスゴー市、スペインのビルバオ市、ドイツのドルトムント市など事欠かない。

 

 都市が文化で成功する要件としては、

 ①リーダーの先進性。市の場合は、市長だ。

 ②市民の理解と協力、

 ③才能ある推進者、

 ④地域の特性を見つける、

 ⑤寛容性があげられる。

 鎌倉が世界遺産をめざすとすれば、幕府の所在地を発掘調査等で明らかにする必要があり、かなり時間がかかることも考えられる。

 上述したような都市創造のケースもあり、鎌倉のこれからを考えていく上で参考にして欲しい。

             

****
 

 以上が、近藤前文化庁長官の講演の大意である。

 鎌倉が今後も世界遺産をめざすかどうかについては、一義的に地元の意思が重要との意見と私は理解した。

 世界遺産をめざすにはどうしたらいいかについては、ICOMOSの真意を十分つかんでおく必要もあるが、今回Phnom Penhでの世界遺産委員会の期間中には富士山の登録推進の件も抱えICOMOSの有力者と十分話し合う機会がなく、専門家に任せたが専門家に対しても詳 しい見解は示されなかったという。今後の課題であろう。

 また、創造都市をめざす件については、鎌倉だけでなく日本の他の都市にとっても大きく参考にしなければいけない問題提起であった。

 近藤さんとは、2008年に石見銀山がNZのChristchurchで逆転登録された時に初めて世界遺産委員会の取材をし、その時以来の付き合いである。

 文化歴史を自らの言葉で語れて、足腰軽く諸課題に対処されるし、尊敬すべき外交官であり、その後は文化庁でのお仕事であった。

 

 ただ一つ心残りなのは、都市問題についていうと世界遺産条約40年を前にユネスコが都市における歴史的景観に関する勧告を出した点にもみられるよ うに、歴史都市、ひいては都市全般にとっても景観からのアプローチは有効であるし、日本の場合、景観法は出来たとは言っても景観に対する取り組みは、西欧 に比べると大きく遅れているのではなかろうか。 

 その点に関する発言が、文化庁長官の近藤さんから聞けなかったことである。

 昨夜の創造都市をあげての提言に深く共感し、あわせて景観問題も大きな課題であることは鎌倉にも通じる問題ではと指摘しておきたい。

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