建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!




文化政策学会鳥取大会では、ゲストを招いての貴重講演・シンポジウムが開催され
ました。 第二部基調講演では、ここ山陰地方において最も有名な、地方における
芸術創造の先駆者、鳥の劇場代表の中島諒人氏と、NPO法人グリーンバレー
(神山アーティストインレジデンス)代表の大南信也氏がゲストにお越し下さい
ました。



鳥の劇場代表/中島諒人氏
 
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中島さんは大学在学中に演劇活動を開始、卒業後東京を中心に劇団を主宰。

2004年~1年半、静岡県舞台芸術センターに所属。”社会に必要とされる劇場”を創り
たいと、2006年に鳥取にて廃校を劇場に変え「鳥の劇場」がスタート。

立ち上げの資金難は友人の助けがあって解決でき、劇団員10数人によって運営。

現在は日本各地はもちろん、他国間の交流も盛んであり、演劇に留まらない、アート
をはじめとする多様な文化的活動と関連しますます注目を集めている。


鳥の劇場の活動

劇場は、東京にあるとどうしてもシアターゴアのための場所として、収益性として
の劇場としてのみ成立している。しかし地方においては精神性のための場所として
地域社会にとって欠かせないものとして在ることができる。

鳥の劇場は地域に貢献できなければすぐ死んでしまう場所である。

一つの講演で、一番お客さんが来ても600-1000人。チケット料も2000円。
子どもは無料。県、市から助成を受ける上で、地域社会への関係は必須。

現代劇の上演が基本。現代劇を見るということは、社会を捉え直すためのきっかけ
である。生きている社会を自ら見ることはできず、しかし現代劇を通じて、その
ようなことを捉えられる。

鳥の劇場が行うワークショップは幼稚園~大学、少年院にも出かけてゆく。
手をつないで四角形を作るとか、星形を作るとか、とても単純なものから始まる。

つるむことはあっても、人と何かを行うことは極端に少ない少年院の子どもたち。
その機会を与えるべくアプローチを行っている。 

現在は小学校5年生ー中学校対象に、料理、芸術体験、など様々なプログラムを
全て受けてもらっている。最後に芝居を作る「小鳥の学校」という人材育成を
行っている。


今後日本の低成長の時代の中では、一人一人が社会の問題と向き合う姿勢が必要
となる。劇場文化、アートの体験は紛れもない力をもたらす、インフラのような
ものだと考えている。



NPO法人グリーンバレー 大南信也氏
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1955年神山町誕生。過疎の町で行った一つの異変。人口2万1000人からの減少を
防ぎ、転入者12名という快挙を行った。9社の企業がサテライトオフィスを設置。
とくしま国際文化村プロジェクトという、住民の、住民による国際文化村を
徳島県に発足させることに邁進中。



神山インレジデンス
環境×芸術合わせたプロジェクトを1999年から発足。外国人2名、日本人1名で
作品を残してゆく。
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アートによるまちづくりの2つの方向
 

・見学に訪れる観光客 評価の定まった芸術家の作品を収集。

・政策のために滞在する芸術家にターゲットを当て、場の価値を高める。

「日本に制作に行くなら神山」 滞在制作→ビジネスへ

結果……神山でアート、より神山で暮らす がヒットした。

働き手や起業家を逆指名。用途を指名することで、神山に必要なものを揃えてゆく。

アーティスト・イン・レジデンスから、クリエイターズ・イン・レジデンスへ。

現在は神山で企業の中でもトップの営業が可能である。

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トークディスカッション

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野田:人がコンテンツであるという考え方が出たきかっけは?


大南:現代アートが田舎に降り立ってきたとき、住民は理解ができないから無関心。
だから良く言えば足を引っ張られることなく進めることができた。

10年行っていたら、神山が魅力的に見え始める。感度のある若い世代が神山に
やって来るようになる。人が神山コンテンツになり、人々を呼びよせるようになる。
住民の人には訳の分かることとなってきた。


中島:劇団員が10人程地域に入った。日々稽古をしているので「何をしているのか
分からないが真面目な人だ」という。周囲は演劇に対する理解というよりも

人間的な興味から始まった。鳥取は芸術に対するコンテンツが少ない。
都会だったらアートはアート、フィルムはフィルム、と縦割りとなったアクセスが
地方だと「とりあえず鳥の劇場に行ってみるか」ということになるので、分野を
越えた繋がりが出てくる。このようなことは田舎だからできるのではないか。


野田:中島さんは本来演劇が行いたくてこっちに来たと思いますが、地域が変える
芸術・芸術が変える地域というものに関しては?


中島:年間1万人程度の来場者であるので、経済規模とすれば決して大きいもの
ではない。しかし人々はアートというものを通じて、非日常をきっかけに、

「市民としての良い部分」を表出しだす。その瞬間に立ち会えるのは素晴らしいと
感じる。周辺で若い人々の活動が実践になってきている例は増えている。
このような側面が、アートが果たす役割だと考えている。


野田:大南さんはアートがやりたかった、というきっかけだったそうだが、
   どこで当初の想像を越えたのか?
 

大南:僕らが行いたいのは場作り。アートの専門知識はないからアートは高められ
ない。けれどアーティストを高めてあげることはできる。

最大限の制作の支援をしてきただけ。クリエイターに関しても、アートに関しても
そのこと自体に敷居も垣根もない態度である。四国の良いところは、昔からお遍路
文化があった。四国人の習慣として、人に声をかけ助ける文化があった。
 また国際交流という点においては、毎年50名英語の先生が3泊4日の民泊体験を
行うことで地域住民の関わり方もとても変わった。これまで壁と思っていたことが
壁でなくなる。外国の人に対して「外国人だ!」という指差しがなくなることで
外国の人にとっても快適性を保ってきた。


野田:中島さんの話で文化政策でどんどん変わってきている。文化は経済効果が
ある、としてやってきたが、どうやらそうでもない。感覚的に、芸術・文化は
何で計ったらいい?


中島:お芝居を見るときにいいなと思うのは、知っている人、知らない人と同じ
時代を切り抜けてゆく同じ船の乗組員だと感じることができる。今後どう考えても
社会は大変になってゆくし先導者もいない。そういう社会の中で一緒に物事を
考えて行けるコミュニティがあることは絶対的に必要なこと。アートは物事の
本質について考える機会であると共に、仮の答えを出し、その仮の答えをさらに
検証していゆく。そのような機会を東京からのおこぼれじゃなくて自分たちが
体感することにスペシャルさがある。


大南:日本人の悪いところ(?)で形から入ることがある。サテライトオフィス
を他地域の人が見学し、それらを持ち帰ってまた形から入る。税制優遇など
人参のぶら下げ競争がはじまる。そのような形式主義の競争は格差や搾取を
生むだけである。

ところが神山、徳島、鳥取などはいつも定位置。そのような尺度であれば、都心
にかなわない。条件で競争すると、条件で判断する企業がやってきて、その条件が
なくなると企業は撤退する。

「経済効果を生む」ではなく「おもしろそう」「楽しそう」から最終的に経済効
果を繋げる形が健全であると考える。


野田:戦後日本がハードインフラを整えてきたことによってそのような風潮を
生んできたのではないか。



質疑応答



参加者:地政学的なことを聞きたい。鹿野町、神山町がアクセスにも問題がない
ところで、そのような効果があるのかもしれない。地方といっても、どちらも
東京から3時間あればアクセス可能である。地域によっては、そのような人が
いても効果が出ない場所があるのではないか?


中島:関係あるかもしれませんね。考え方としては便利な場所であることに
こしたことはないが、人間は本当なスペシャル・面白さがあれば時間や距離は
越えてくる。


大南:3時間は重要。人間は1時間動いたら、よそに来た、という感覚がない。
しかし3時間も移動すればある意味開放感や価値観を与える。近ければ近い程いい

というものではない。地域の人は「あんたら不便なところに来て」というが、
彼らにとって不便というのは、越えることのできる条件だったので不便だと
思っていない。

便利を求めすぎた都心が人口集中し不便になる。そのような価値観から離れる
ことがあるのではないか。感覚の良い若年層が地方に増え始めている。
日本においても良いことである。


野田:現代の若者の半分以上が田舎に関心がある、という統計が出ていたりする。


首都大学東京 荒田:2人の話は大変面白く、沢山の人々を巻き込んでいる。
Ph,Dシュナイダーはドイツの文化発展の計画理念や実践であった。
ハウスレンダーをどのように刺激してゆくか、日本においても先駆的な問題の対処
へ向かっていると考える。よそ人がやりたいことを行って、地域に対しても作用
して行ける活動を生み出す秘訣はなんですか。


中島:文化政策に対して新しいアプローチをすることも大切である。教育を制度化
された劇場で行うことも重要である。

劇場とは何か、を考えさせるきっかけを提供すること。文化を伝えること、文化を
媒介すること、作った作品を享受するのではなくて、人と人が媒介することが重要
であり、それらが成功するのなら、文化政策にとってこの上ない嬉しさである。


大南:これまでは「これを行ったら〇〇になるだろう」という4年ー5年行って
結局ならないからやめる、ではなく、〇〇年後このような姿になるために、現在
何をすべきか、というような計画の仕方をすると非常にクリアになった。
どのような人が集まればそれが可能になるのか。
地域に対しても考え直す必要がある。


中島:瞬間瞬間の充実が大切に感じる人間にとって、芸術は本質的な充足を与え、
これからの社会何が正しいのか分からないが、考える機会を与えることができる。

文化政策が地域を変えるという小さなものではなく、社会変革にとっても必要
不可欠であると考える。実践という立場でこれからも行っていきたい。




アートプロジェクトや地域における芸術創造を考える学生にとって、お二人の
お話が直に聞けるという機会はとても興味深く、学会に参加してよかったと

充実した気持ちでした。芸術創造が持つ様々な垣根を越える”ハブ”としての特徴と
芸術が本来持つ人間の根源に立ち返る行為・物事を再考する機会・共有する場と
いった本質を生かしながら実践されているお話を聞くことができました。
また成果として、経済性を取り払うことは難しくも、「面白い」「やってみたい」
といった意識をどれだけ地域内外に持ってもらうことが出来るか、といったことを
基準にされていることが共通しているな、と感じました。



D3 國盛


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