建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
2012年11月11日(土) 14時開演
 会場:西部市民センター 大集会室

第一部 基調講演
 講師:重里徹也 氏(毎日新聞論説委員)
 演題:「まちをものがたる想像力」

第二部 菊池文化資源総合調査 平成24年度第1回中間報告
 九州大学大学院芸術工学研究員院 藤原惠洋教授 

主催:九州大学大学院芸術工学研究院藤原惠洋研究室
共催:菊池市
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菊池市から委託され続けてきました菊池文化資源総合調査、その中のプログラムの一つである菊池文化資源講演会が今年も開催されました。
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まず初めに福村市長からご挨拶をいただきました。
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これまでの藤原研究室が行ってきました菊池研究・調査・ワークショップや講演会などの活動についての数々を挙げられ、そこでたくさんの菊池の文化資源を発見されて、今後の菊池が歴史と共によみがえっていってほしいという言葉をいただきました。

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今回ご講演いただいたのは、毎日新聞論説委員の重里徹也氏です。

◆重里徹也氏のプロフィール◆

 1957年 大阪市生まれ 大阪外国語大学(現在、大阪大学)ロシア語学科卒業。

 1982年 毎日新聞入社。東京本社学芸部長、学芸部編集委員等を経て昨年から現職。

 著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「司馬遼太郎を歩く」全3巻(同)、
 聞き書きに吉本隆明「日本近代文学の名作」「詩の力」(新潮文庫)等。


全国各地の地域を訪ね歩かれ、ジャーナリズムの世界でご活躍されている重里氏に、都市や地域・まちを見つめるときの見方や考え方というものを、多くの事例と共に講演いただきました。


冒頭、まちを見つめるための心構えともいえるポイント、メモをご紹介いただきました。

 ①まちの物語とはつくるものというよりは、みつけるものではないか

 ②物語を語るのは、ものをしゃべれない者たち。
   死者、動物、樹木、森、弱い人、何かの都合で口をつぐんでいる人、
   石ころ、水、川、泉。


 ③ひたすらに死者の思いを聞き取る。
   しゃべらない者たち(しゃべれない者たち)の声を感じることから、
   物語が立ち現れないか。
   そのためには死者に近づかないといけない。


 ④歴史をさかのぼるのは有効。思い切ってさかのぼるのもいい。
   弥生時代、縄文時代、旧石器時代までさかのぼるのも、
   得るものが大きいかもしれない。

 ⑤文化は「人」に蓄積する。「人」にしか蓄積しない。地元の「人」に蓄積する。

 ⑥外部の力、外部の人にうまく活躍してもらおう。それを刺激にしよう。

 ⑦そこに住んでいる人が幸せにならないのなら、文化も、まちおこしも意味がない。

 ⑧まちについて語ろうとすると、人生について語ることになる。
   何のために生きているのか、突きつけられてしまう。




まず、司馬遼太郎に学んで・・ということからお話が始まりました。
司馬遼太郎の全四十三巻に及ぶ長大な作品『街道をゆく』の第一巻の冒頭の言葉。

『街道をゆく』第一巻より

「近江」
というこのあわあわとした国名を口ずさむだけでもう、私には詩がはじまっているほど、この国が好きである。京や大和がモダン墓地のようなコンクリートの風景にコチコチに固められつつあるいま、近江の国はなお、雨の日は雨のふるさとであり、粉雪の降る日は川や湖までが粉雪のふるさとであるよう、においをのこしている。

「近江からはじめましょう」

というと、編集部のH氏は微笑した。


この『街道をゆく』は、『週刊朝日』1971年1月1日号から連載がはじまりました。
高度経済成長を経て社会が急激に変動していった日本、1970年はさまざまなことが起こった年でした。
大阪万博が開催されたその年、1125日、日本文学会を代表する作家三島由紀夫は自裁します。
その事件のすぐ後、司馬遼太郎の『街道をゆく』の連載がスタートするのです。
司馬は何をしたかったのか?



松本健一『三島由紀夫と司馬遼太郎』(新潮選書)で論じられている
松本へのインタビュー(20101114日『毎日新聞』)

三島の自裁前の言葉「私の中の25年」(70年7月7日『産経新聞』)

「からっぽな」戦後日本


 私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである。



司馬の三島自決への批判「異常な三島事件に接して」(701126日『毎日新聞』)


 三島氏のさんたんたる死に接し、それがあまりになまなましいために、じつをいうと、こういう文章を書く気がおこらない。ただ、この死に接して精神異常者が異常を発し、かれの死の薄よごれた模倣をするのではないかということをおそれ、ただそれだけの理由のために書く。



司馬は、日本の津々浦々を歩くことで、「からっぽな日本」を埋めようとしていたのではないか。
『街道をゆく』で描かれていたのは、苦労してお米をつくることや、技術をいかにして培うか、そういった日本人が築き上げてきた生活の営み。
そこから、三島とは違う肯定的な日本像を求めて旅をしたのではないか、と重里さんは語られました。


そこではじめに紹介された「近江」の文章です。
地域をみつめるときに、司馬はまずその土地の「地名」から入りました。
「近江」というその言葉の響き、故郷の包容力を感じさせるやわらかな印象から〝あわあわとした国名”と表現し、その土地を語りだすのです。

地名を見ると、そこにはその土地の由来来歴が見えてきます。
例えば「肥後」と言う言葉は、もとは「肥国」が肥前と肥後に二分してできた名前だそうです。「肥国」は、土地の生産力が非常に高く、九州諸国の中でも米の収穫量が群を抜いて高かった土地だったとのこと。
熊本・菊池は今でも農業が盛んで、美味しい水にはじまり、美味しいお米・野菜と、たくさんの大地の恩恵を受けております。「肥国」という呼び名は現代でも納得するものです。



◆他の地域の事例(一部抜粋)

岩手県遠野市

柳田国男『遠野物語』の舞台になっており、それに遠野の市民の方は誇りを持っており、現地に行くと『遠野物語』に由来する地域の歴史風土を語ってくれるそうです。現在では語り部1000人プロジェクトと銘打ち、地域の物語を伝える人材の育成に取り組まれたりもしているとのこと。
東日本大震災の際、司祭下三陸海岸の支援拠点(自衛隊やボランティア等の復興活動拠点)となった誇り。


岩手県花巻市


宮沢賢治という絶対的な切り札。花巻で生涯を過ごした賢治の視線も指紋も足跡も、花巻一帯に刻まれている。
今年の春、市が「賢治まりづくり課」を設置し、賢治関連の仕事を統合、調整、情報発信をしている。

大震災後、さらに輝く賢治の言葉。「みんなのほんとうのさいわい」とは ?
自然とのつながりや日々の暮らし・営み、人間社会のコミュニティ等が、宮沢賢治の作品で取り上げられています。
地域の歴史を掘り起こしていくこと、みつめていくこと。震災以降、そういった動きが全国で求められました。

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最後に、中沢新一著『大阪アースダイバー』が取り上げられました。
大阪とは何か、その可能性はどこにあるか、根本的な問いかけが書かれています。
大阪を知らなければ日本を知ることができない、と語られることもある種々雑多な要素を抱える都市。

都市の特性をみるときに、二つの都市軸から考えるとある性格が見えてきます。
その軸とは、アポロン軸とディオニュソス軸。
ギリシャ神話に登場する神から名づけられたこの考え方は、ニーチェの哲学思想から来ています。

アポロンは太陽の神様。
近代を象徴する“理性・合理性・客観性・計画性・科学技術”を志向するもの。生命の威力、権力の思想を表現します。

ディオニュソス(バッカスとも言われる)は、お酒の神様。
非近代を象徴する“陶酔・熱狂性・感情性・刹那性・芸術性”を志向するもの。太陽の動く方向、生死の円環を感じる「野生の思考」の素地にもなる。


ディオニュソス軸のもたらしたものとして、物事を多角的に見る複眼的な思考や、地べたから這い上がるようなリアリズムが挙げられます。
砂州の上にできた海民のまちとして、商業における「信用」と、芸能の発生と隆盛、笑いの聖地。
そういった発展を遂げてきた大阪から、人々の営みや、人間の追求する働き等を見つめていくと、都市をとらえることができるのかもしれません。


では、菊池のディオニュソス軸とはどこでしょうか?



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冒頭、紹介いただいたポイントについて、特に印象強かった言葉です。

 ②物語を語るのは、ものをしゃべれない者たち。
 ⑤文化は「人」に蓄積する。「人」にしか蓄積しない。地元の「人」に蓄積する。
 ⑧まちについて語ろうとすると、人生について語ることになる。
   何のために生きているのか、突きつけられてしまう。



とりわけ②の〝しゃべれない者たち”というフレーズにはどきりとしました。
私達が地域社会を見つめていくときに、物語は何だろう何処にあるだろうと探していきます。しかしそれらは自分で語ることができず、丁寧に探して掬い取らなければ、埋もれてしまったままになってしますのです。また、それら物語を発見できたとしても、私達の受け取り方次第でその様相は大きく変わってしまうのだと気づきました。
しっかりと地域に入り込みながらも、鳥瞰的な視点と、包括的な思考を同時に持っていなければなりません。
その時に、物事のとらえ方・考え方の拠り所となるような自分なりの視点・スタンスというものを整えておきたいと思いました。そのスタンスが、⑧にもつながるのだと思います。

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今回、重里さんの講演を拝聴し、またお話させていただいて、地域社会への視線の向け方、さらには社会をとらえていく視点・論点について、大きな考え方を学ばせていただきました。
講演会の始まる前、ご一緒に菊地のまち歩きをしているなか、菊池の歴史だけでなく、様々なまちの営み、人々の生活・様子について観察され、こまやかに情報を掬い取っていくパワーに圧倒し、敬服いたしました。
今回ご紹介いただいた数々の書籍も、是非、読んでみたいと思います。

ありがとうございました。


(修士 北岡慶子)

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