2012年6月11日(月)5限目 学部生授業「芸術文化環境論」
本日はスタソーマ物語を作り上げた、インドネシアバリ島のデワスギご夫妻が
ご来場くださいました。バリ人と日本人、異なる宗教、文化、人種、それらを越えた
共感や感動を芸術はもたらしてくれます。今回は昨年藤原研究室主催で開催した
バリの伝統的な神話をもとに、絵巻物、ガムラン音楽、舞踊が織りなす舞台
「スタソーマ」の絵巻物を描かれ演奏者でもあるデワスギさんとご夫人
加藤恭子さんと息子の龍くんにお越しいただきました。
デワスギ氏が描いたスタソーマの絵巻物(一部)
加藤恭子さんは大阪芸術大学出身のピアニストでいらっしゃいます。体が
小さい頃丈夫ではなかったこともあって、ピアノがすごく好きだったそうです。
高校生の時、音大への進学を決意され入学。大学では西洋音楽を学びますが
厳格な教育ゆえピアノを弾くことが好きではなくなってしまったそうです。
当時アジアの音楽には触れたことがなかったのですが、1992年、学生時代
一人でアジア旅行に行かれます。女の子一人でもバリのウブドだったら
安全だということで、計画もほどほどに3週間バリに行かれたそうです。
たまたま行った宿舎が踊り子さんの家だったそうです。「日本で音楽をしているなら
楽団のところへ行ってごらん」と言われ、行ったのがデワスギさんのお宅
だったそうです。バリの音楽大学に日本人留学生として再び訪れます。
バリで音楽は日常生活に欠かせないもので、宗教儀式と密接な関係を持ちます。
競争ではない、勝者のための音楽ではないバリの音楽文化に惹かれたそうです。
このスタソーマ講演は日本の能とコラボレーションしています!
バリではトカン(職人)という職人としての音楽業があるそうです。彼らの
体の中には、何百という音楽の楽譜が蓄積されていて、「今日はなにをしよう!」と
一声かければ、オーケストラのように奏でることができるのです。絵を描くことも
とても日常的な営みです。
藤原先生:何気なく音楽を奏でるとか、絵を描くという力はどこで身に
つけたんでしょうか。
デワスギ氏:質問もちょっと分からなくて…いつ頃からどのように練習して
いたかも分かりません。踊り、音楽、絵も盛んで、私の祖父は寺を造る人でした。
建物を作る人は聖職に値します。父は楽団のリーダーでした。母方の祖父も
画家で、見渡す限り芸能を行う人たちでした。その環境の中で当然のように
身に付いていったものです。1970年代はテレビもなく漫画もなく、アスファルトの
道も、電気すらありませんでした。子どもの遊び場といえば野原です。
遊びは音のなる葉っぱで音を出したり、ワヤンという陰芝居を草木や紙で
作っては物語を作っていたそうです。木に上って物語を語ってみたり。
未だに村社会というものが強く、田んぼを耕している人が休憩がてら子どもに
神話を聞かせたりしてもらっていました。またその話を陰芝居にしてみたり…
ワヤンは子ども達にとってとても楽しみな遊びでした。
加藤氏:ガムランセットは子どもの格好の遊びものです。各村に楽団があり、
それらはみんなのものとしてあります。
藤原先生:バリには尊敬されている奏者も画家もいますが、西洋社会的な
特権的なアーティストではありません。生活と密着していて、田畑を耕す
こともする。社会的に敬愛される芸の達人は米を作らせても、人々を仕切らせても
上手な、ある種人格者といった印象が強いと思います。そのような芸能の
在り方に対してどのような考えをお持ちですか。
デワスギ氏:厳格な定義はありませんが、学んでアーティストになるというより、
才能、感覚、遊んでいく中で見つけた素質が自然発生的に認められ、(家柄という
のもあるが)磨かれ、画家や踊り手になることが多いです。演じる前には必ず祈り
神様の許しを得るのです。そういった流れで、周りの人々からも認められていく
存在へとなっていきます。
藤原先生:私たちは画家になりたいと思えばデッサンをします。音楽をしたいと
思えば基礎練習も欠かせません。そういった基本の技術はどこで習得するのですか?
デワスギ氏:私が紙に初めて絵を描いたのは小学校5年生の時でした。遊びの中で
造形のセンスなどを見て認められた場合、「君は絵がうまいね、ちょっと
描いてごらん」というふうに絵を描くことになります。それから祖父、
父からバリ独特の技法を学んでいくことになります。
藤原先生:スタソーマの絵巻物は美術としても高い質を持っていて、美術館での
展示にも値するものだと思います。しかしこの中では演奏者として参加されて
いるのですよね。加藤さんに質問ですが、西洋音楽との差異については?
加藤氏:西洋音楽は厳格で、間違ってはいけないという意識が強く働きます。
しかし
バリのガムランは感覚的なものが重要です。個人練習をすることはありません。
皆が集まって初めて練習となります。常に皆の音が合わさって1つの音になり、
ハーモニーが重視されますポリフォニーの世界です。
学生:(舞台の映像を指して)衣装や、能とのコラボレーション、事前の
準備などはどうやっているのですか?
加藤氏:これは2日間で準備したものです。当日衣装も誰が何の衣装を着て
くるのかも分からないのですよ。
一同:えー!?
加藤氏:唄を歌う方も好きなことをしています。物語は共通のものとして皆
分かっているので、それらをふまえて集います。物語を忘れている人もいて
演奏の途中に絵巻物を見に行って、「あー、これこれ」とか納得して演奏に
付いていますよ笑 能を演じられる方もこのような調子なので「私は無になります」
といって、その場で即興のものを奏でてくださいました。
学生:舞台は男の方が中心となって演奏をしていますが、男女の構成などは
ありますか?
デワスギ氏:バリの通常の形ですと、楽団は男性が中心で、踊りは男女ともに
舞台に上がります。女性は未婚の人が中心に踊り子をしています。女性は
家庭に入って、男性は楽団を行うといったことが伝統的にありますが宗教的な
背景ではありません。
それから昨年バリ島フィールドワークの参加者が体験したガムラン音楽と
踊りのワークショップの様子を見ました。
芸術に対する考えや態度を常に相対化することが大切です。今日の授業も
芸術の在り方、日本とバリ、アートと生活の在り方について考える時間だったと
思います。9月には30名以上でバリ島調査を行います!
[D3 國盛]