建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!

2012.6.5  19:00 ~21:00
公開講座公開講座 建築探偵シリーズ6
「土木と建築の遺産から見る近代産業都市」が行われました。
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近代建築学は、日本の明治期における近代化自我の芽生えを、様々な視点により
相対化することで発展してきました。藤原先生の専門は近代建築史学ですが
土木・都市・建築・生活(芸術・美・哲学なども含め)多彩なファクターから
「近代そのもの」を検証する姿勢で長らく研究されてきました。

 

|鉄道と近代

東京大学生産技術研究所では、グラバー邸の発見者である村松貞次郎先生の下
土木・都市・建築・生活とあらゆる視点から近代の検証を行っていきます。
刑務所、港湾、鉄道etc… たくさんの調査資料は、東京大学教授を藤森照信先生が
ご退官の際に門下に分配され、その数十部が研究室に残っています。

 

|港湾にみる近代化

日本の近代化は、インフラの整備によって著しく促されていきました。
港湾の発展の仕方の1つに神戸周辺が挙げられます。兵庫県近辺は川崎造船所、
三菱重工による造船所などが建設され、開港後も外国人は入らない形で
発展していきました。
一方神戸は外国人の来航、西洋文化の輸入によって発展していきます。
その後も近辺の山際を削り埋め立て、新地を作って経済発展してきた。
しかしこのような埋め立て裏は阪神・淡路大震災によって多大な被害を受け
開発計画は疑問視されるようになりました。

福岡も埋め立てによる都市整備を行っていますが、現況としては好ましくない状態となっているようです。



土木史という分野は19812年に日本土木史学会が設立し生まれてきました。
それまで土木の分野において歴史的検証をなされることは少なかったのです。

藤原先生は土木史学会に所属し、さらに研究を深め、1988年1月8日講談社より
「上海—疾走する近代都市—」を出版されました。上海の港湾や急速な都市の
形成を跡を都市の中から見いだすことによって、日本の、上海の近代化を
振り返るというものです。
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講談社 1988 

開港場と呼ばれる港は背景に条約があり、強制的に開港した場所です。
日本はペリーによって開港を迫られますが、当時江戸幕府は拒否します。
しかし1840年中国はイギリスとアヘン戦争を起こし、清が敗北する様子が
日本に伝わっていたこともあって、日本は欧米諸国に恐れ、条約締結に至ります。

1853年 日米和親条約 締結
1858年 日米通商修好条約 締結

治外法権や開港条約を結び、横浜・神戸・長崎・函館などが開港していきます。
のちに最恵国待遇の条例により、日本はイギリス、オランダ、フランスなども
締結を望んでおり、開国をせざるをえなくなりました。 

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|鉄道にみる近代化

鉄道建設は明治維新後の文明開化の象徴と言えるでしょう。横浜—東京間の
開通によって、情報、生産量の爆発的拡大が進みます。日本初の鉄道開通は
明治5年、新橋—横浜間開通。関西は明治7年。大阪—神戸間、九州は
明治9年に西南戦争があっていた頃です。江戸時代には街道はあっても
鉄道はありませんでした。小さな国に相当する藩は280余。緩やかに連合して
日本が国家として形成されていたのです。明治時代になると、ネーションステート
(国民国家)日本の近代、あるいは近現代は明治国家の建設と共に促されます。

線路は帝都「東京」に繋がっており、明治天皇の御陵列車に乗り全国を行脚、
国家の形成を進めていきます。鉄道によって太陽暦に基づく単位の時間概念が入り
ダイヤグラムの導入(分単位の運行計画)によって広まっていき、人々の
生活の概念も西洋化していきました。



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|改軌論争=我田引鉄

鉄道が陸上の要であったこともあり、鉄道はしばしば大論争の的でした。
明治後期から大正にかけて、政界では鉄道レール幅を現行の狭軌(1067mm
か世界基準軌(1435mm)にするかの論争が起こります。
「改主建従」鉄道院派=全線を標準軌に改軌し大型高速で走れる列車の導入希望。

「建主改従」=早く地方に鉄道を通し、日本全国をつなげていきたい地方議員派。

しかし支部の一部私鉄を除いて狭軌になり、世界基準は新幹線の開通まで
待たなければなりませんでした。



|弾丸列車計画

軍部は日中戦争のための輸送力増強計画
東海道本戦・山陽本線などの線路増設計画
高速化のための標準軌による新線建設案

しかし様々な計画は戦争激化と配線によって凍結されたり、停滞することと
なりました。しかしこれらは新幹線プロジェクトとして戦後活かされていき
国鉄の標準軌鉄道として結実ゆきます。

 

このように近代化の先陣を切り、日本を近代化へと一気に促していった鉄道も
遺構は時の変遷によって役割が変わってゆきます。豊後森の機関小屋は、
九州唯一の扇形機関庫として現在も残っています。


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01
玖珠町商工会http://www.kusu-shokokai.jp/kikanko.html?start=8

昭和9年、九大線の鳥栖と大分の中間の玖珠に、日田との誘致合戦の末
機関庫が設置されました。給水、石炭の積み替え、メンテナンス等を行う
機関庫が玖珠にできることで、経済効果の期待が見込まれたのです。


昭和16年、太平洋戦争開始にともない、戦時下で鉄不足のため路線は収集、
運転中止となりました。機関庫に受けた爆弾の跡は現在も残っています。

昭和29年、戦後に路線は復活。豊後森機関区は復興し1日利用客
5000人以上となりました。しかしながら昭和45年、現在のJR九大線の導入に
よって蒸気機関車停止となり、機関庫は遺構として残ります。

2001年秋、機関庫保存委員会が設立され、機関庫を残そうと2万2千447名の
署名が集まりました。JRと協議の末、玖珠が買い取り、現在は登録有形文化財へと
登録されるはこびとなり、市民の重要な遺産となっています。

 

 

藤原先生:近代化遺産の洞察点としては、近代化することによって受けた
多大な恩恵と同時に、大きな副作用も逃してはいけません。近代化することに
よって喪失してしまったかつての歴史、文化に焦点を当てなければなりません。


遺産の役割はどのようなものなのでしょうか。現代の私たちが日々の暮らしを
振り返る際、遺産が間に立つことによって、過去に喪失した文化、価値、
歴史を再考することが可能になると言えます。価値付けや価値の共有が
なされなければ遺産は廃棄物として消去されてしまいます。しかしその遺産が
持つ意味、価値を論理的に裏打ちする為には、表立っていないさらに沢山の
背景や歴史、生活文化を照らし合わせ、唯一無二であり普遍的な価値を導く
必要があります。

これらは遺産のみならずその地域を価値付け、地域や市民のアイデンティティの
構築にも大きく関わってくるでしょう。


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講義終了後は、月に一度の満月の日の宴、月宮殿祭をAKAGIで行いました。
参加者多数でこの日も大変盛り上がりました。

 
次回の公開講座は6月19日(火)1900〜です。

 

[D3 國盛]

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