大学院授業の1つ「環境・遺産デザインプロジェクト演習Ⅲ」では
「大震災を知る、見る、考える」というテーマのもと、文献調査から現地調査を
通して震災を考えていく取り組みをしています。
今回は岸泰子先生による建築史学会大会シンポジウムのご報告をいただきました。
建築史学会大会シンポジウム
東日本大震災における歴史的建造物の被害傾向と保存対策
2012.2.7朝日新聞記事
「有形文化財6件登録抹消、文化庁、震災被災で六角堂など」
美術史家の岡倉天心が設計した茨城県北茨城市の「茨城大学五浦美術文化
研究所六角堂」など東日本大震災で被災した国の登録有形文化財6件について
文化庁は7日、登録を抹消した。震災に伴う登録抹消は今回が初めて。
六角堂は1905年、海辺の岩の上に造られた。天心が思索にふけった場所とされ
2003年に登録された。しかし、震災後の津波で流失。現在、茨城大が
再建に取り組んでいる。ほかに、津波で壊滅的被害を受けた岩手県陸前高田市の
蔵元「酔仙(すいせん)酒造」の「本社事務所」「守衛所」「倉庫」と
宮城県石巻市の「旧北上町役場」、倒壊の恐れから昨年3月に解体された福島市の
「日本基督(きりすと)教団福島教会会堂」の登録が抹消された。
2012.4.21 建築史学会 [災害と建築史学]
東日本大震災における歴史的建造物の被災状況報告
山形大学 永井康雄氏報告
4月20日〜建築学会 歴史的建築総目録 DB を基に調査 対象5880件
現在2300件程度調査済み
県 | 調査済 | 全物件数 | 状況 |
青森 | 72件 | 117 | 土壁の亀裂など割と軽微 |
岩手 | 394 | 2247 | 津波の被害と塩害が大きい 内陸、木造軸組工法は被害が小さい 土蔵さらには石造・煉瓦の被害 |
宮城 | 1201 | 1971 | 調査する大学機関などが多いので調査が比較的進んでいる 宮城県以外大きな木造建築の被害は少なかった 差鴨居が外れるほど大きな揺れだった |
秋田 | 247 | 310 | 雪によって被害拡大 |
山形 | 102 | 581 | 被害は3割程度 軽微 |
福島 | 309 | 653 | 震度6でも軽微な被害 修復可能なものが多い ↓ 郡山やいわきでは公費解体の事例が目立ち、安易な修復が多い |
被害例:男山酒造 常磐線坂本駅駅舎など 写真スライドで紹介
土蔵<石造・煉瓦造 の被害が大きい
津波 2メートルを超えると流される 屋敷林が被害の減少に役立つ
まちづくりの契機へ
宮城県村田町の土蔵商家群→文化財化へ向けて市民の意識が高まり、まちづくりの契機へ
先例:石川県輪島市黒島地区
北前船の拠点として発展、能登半島地震による被害を契機に地元の意識が高まった
今後の対応
復旧に向けて所有者への助言
文化財的価値+被害の的確な判断
応急処置的な処理方法の提案←→文化財の修理方針
文化財は2割、3割程度の補助しか受けることができないので、登録有形文化財の
修復は難しい
さらに続いて筑波大学 藤川昌樹氏の研究の報告へと続きます
[D3 國盛]