2012年の前期も藤原先生の授業[芸術・文化環境論]が始まりました。
昨今、アートという存在は社会的な繋がりをもって成立するものも多く
なりました。地域社会で展開される「アートプロジェクト」もその一つです。
クリエティヴィティは行為そのものや発露が社会性を持つことによって
社会的な問題を解決する力へと成り得ます。このような力を集約させ
衰退した地域を再生させることをクリエイティヴ・シティ(創造都市)
と言い、対して様々な問題を内包する分野や地域を「ブラウンフィールド」
と言います。ブラウンフィールドをアートの力でクリエイティヴシティに
転換することーこれらは世界中で始まっている動きです。
(チャールズ・ランドリー/リチャードフロリダ 提唱)
この写真はどこの写真でしょうか。
震災などで荒廃した場所と重なるかもしれません。しかしこれは
1974年に炭鉱が閉山した長崎県端島の軍艦島です。
私たちの暮らしは、石炭エネルギーから石油エネルギー、そして原発のある
暮らしへと変わっていきました。けれどもエネルギー政策によって荒廃する
地域が生まれる、という事自体からは何も変わっていません。軍艦島は
38年前にエネルギー政策で翻弄され、打ち捨てられてしまった姿なのです。
クリエイティヴ・シティを提唱したチャールズ・ランドリー、リチャード・
フロリダがシンポジウムを行った場所も、アムステルダムから少し離れた
ガス工場跡地で行われました。エネルギー政策紛争、テロ、宗教対立など
様々な事柄によって荒廃する場所は世界中で生まれています。この荒廃した
場所を「ブラウンフィールド」と称し、人々や専門家はクリエイティヴィティ
をもって再生していく必要性があります。
チャールズ・ランドリー著 THE CREATIVE CITY
日本にとってのブラウンフィールド
2011年3月11日東日本大震災が起きました。国、行政の動きに加え
NPO、NGOの活動は復興に欠かせないものでした。医療、整備などに加え
アートの分野からも沢山の人々が関わり、復興に貢献してきた一年でした。
しかしまだまだ復興への道のりは遠く、継続的な支援が必要です。このような
場所にこそ創造的な行為によって生まれるものが必要です。
社会の大きなカタストロフィーに対して私たちができることを,この授業では
実践的に模索し手法を学びます。
藤原先生は先月末、九州大学の先生方と福島県、宮城県に被災地を調査され
ました。立ち入り禁止区域地区の瀬戸際まで近付き、被害の爪の跡を目の
当たりにされました。
相馬市の海岸際に位置する原町火力発電所は被災した福島第一原発を冷却
するための電力を供給するために、新たな送電線を建設していました。
港町、渡、名取、閖上へと移動しながら、痛々しい被災地の痕跡に胸がふさがる
体験だったと伝えられました。
一瞬にして荒廃せざるをえなかった東日本の太平洋岸の地域。いわば突如として
巨大なブラウンフィールドと化してしまったこれらの地域に対して、私達は
いったい何ができるのでしょうか。
講義の前半にはさまざまな角度からの学外演習が用意されています。
福岡市内を代表する美術館を三ついちどきに鑑賞する一日。疲弊する地域社会の
元気再生の取り組みを実地に体験するための複数の現地フィールドワーク、すでに様々な
ブラウンフィールドで活躍している方をゲスト講師に招いた講義、などがこれから
展開していきます。
文化芸術の力を再確認し、先例を見ることによってプロジェクトマネジメント
のイメージを構想する力に繋げます。
講義後半はグループを編成し、チームで身近なブラウンフィールドを見つけ
テーマを設定し、実際に企画事業として実施できるようなプログラムを
構築し提案します。現場でのリサーチ、関係者へのアプローチ、チームプレーが
独創的なアイデア創出へと結びつく経験を学ぶ場所となるでしょう。
次回は4月20日 金曜日 13:00-531教室にて講義があります。
4月29日には最初の学外演習を開催します。これはもともと学部用に用意されたもの。
早朝9:30〜福岡市美術館、13:30〜福岡県立美術館、16:30〜福岡アジア美術館の3つを
訪ねながら、最前線の現場で活躍される実際の学芸員の方々にお話しや解説をいただ
きながら鑑賞します。