建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
7月13日(水)夜 日田ラボでは第5回ご隠居カフェまちづくり交流研究会が開催されました。 
 
今回のお話しもシタンキャ亭主の藤原惠洋先生による講話。
テーマは「欧州世界を蘇らせる創造都市の魅力」でした。
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お話しの冒頭、なぜ欧州社会から学ぶ必要があるのか、なぜ創造都市なのか、といった大枠が解説されましたが、この10年近く、毎年のように学生・大学院生を伴いながら欧州社会での調査研究をしてきた理由が明快に語られていきます。
1990年代、欧州病やイギリス病、オランダ病とまで言われた複雑な時代の問題をどのように克服していったのか、が大きな背景です。当時までの欧州社会の先進国が高度の福祉社会を生み出すために努力してきた反面、一方で旧来の重厚長大型産業が構造転換を余儀なくされる時期にあってスムーズな社会転換がはなせないまま産業経済活動が停滞し、社会が活力を失い欠け、社会資本整備が滞ってしまっていました。まちのど真ん中に、かつての工場跡地や港湾施設や労働者住宅が廃墟のようになって残されていく風景が荒涼と広がっていたそうです。
こうした荒れ地や都市の残滓を、いわゆるブラウンフィールドというようになったとのことですが、90年代後半からの取り組みは、こうした場所やイメージを刷新するために、アーティストたちの活躍による芸術文化を軸とした再生活力を投入しながら、徐々に廃墟然としたブラウンフィールドを新たな創造拠点にしていったというのです。こうした大逆転とも言える経緯が、具体的なまちの事例を通して解説されていきました。
 
ところで聞くところ、現在、九州大学大学院芸術工学府の藤原惠洋先生の授業「芸術・文化環境論」では、まさに「ブラウンフィールドからクリエイティブシティへ」と題して演習が展開しているとのこと。それらは具体的な場所や土地の課題を探り当てながら、グループワークを通して解決策を検討していくという作業なのですが、大逆転に用いる道具やエネルギーを「芸術文化」やアートのコンテンツ(中味)の力で行うというところが欧州社会からの援用というわけです。
今回のご隠居カフェもこれにリンクしたお話でした。
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そもそもブラウンフィールドとは、ウィキペディアなどで調べてみると「土壌汚染の存在、あるいはその懸念から、本来、その土地が有する潜在的な価値よりも著しく低い用途あるいは未利用となった土地」のことを指しているようです。
しかし藤原先生のお話に出てくる場合は、もっと身近なものを含んでおり「以前は繁栄していた土地・地域が産業の衰退などにより人口の減少などで荒廃している地域」と言った意味で使われているようです。
 
欧米、特にヨーロッパの各地は産業革命以降、炭坑産業など工業が盛んだった都市などは大いに栄えました。
しかしエネルギー転換や産業構造の変化などで衰退。
では、そこでどのような再生を目指したか?というのが、今回のお話しの核心にあったテーマです。
 
1.産業の残骸を壊してまっさらにし、いちから都市を造り直す?
2.産業の残骸を「残骸」と見ず、文化資源としてを活かし直す?
 
しかしながら、現在の日本を見ていくと、「地域再生事業・再開発」という名のもと、もともとあった町並みや産業を壊してしまって、新しいまちを作り直している場合も多々見られます。
しかし欧州社会では、元来はブラウンフィールドであった場所や都市の一角を、歴史的な文脈の中で把握し直すと同時に、かつてあった産業や機能性・用途などもその場所やまちの矜恃(プライド)だったときちんと認めることから文脈を紐解き直すという態度がとてもたいせつです。
そこから、どんな荒廃した場所や一角でもその土地やまちにとってのなくてはならない「地域固有の文化資源」と見なし、そこから多くのステークホルダー(なんらかのかたちで利害関係を有する当事者)たちが参加し合って再生への哲学や道筋を合意形成する中、見事にそれらを再生していくケースが多く存在します。
その要になっていくのは人材です。与えられた労働に身を挺してしまうのではなく、みずから創造的な仕事を生み出す中、人材同士のつながりや信頼が次の創造的な仕事を生み出し合っていく、という波及効果のまちづくりが広がっていくのです。
そうした魅力に惹かれて、次なる人材が定住していく、いつしかそうした独創性・創造性に満ちた人材が集約される一方、こうした人材が仕事をしやすくなるための社会的用意やインフラ整備、さらには出逢ってお茶を飲んだり、ミーティングをしながら美味しい食事をしあう、そんなカフェやレストランがすぐ近くに立ち並ぶ、そんなまちのイメージが紹介されていきます。
そうして、独自の再生の道を生み出しながら、数多くの創造者や創造産業を生み出しているまちや都市を「創造都市=クリエイティブシティ」と評価して呼ぶようになってきました。
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今回は、実際の都市を踏査しながら、それらの町が大きな流れとして、どのように再生に成功していったか、実例を通しての紹介でした。
 
昨年、藤原惠洋研究室の夏の欧州踏査で訪れた都市(主としてフランスのナント、アヴィニョン、スペインのバルセロナ、など)は、すべてクリエイティブシティと呼ばれ、文化や芸術を取り入れながら、再生されていった都市です。
 
フランスのナントは、かつて貿易や造船で栄えた町でしたが、70年代より港が移動したことなどで衰退していきました。
1989年に30代半ばで市長に就任したフランス社会党のジャン=マルク・エローが文化政策を軸に都市を再生していきました。
 その代表的な事例が、港湾に広がる造船所跡地を技術者ごと活用した「ラ・マシン(La Machine)」(機械を作ると同時に動かすパフォーマンスをするフランスの劇団)による再生や大規模なビスケット工場跡地を創造拠点・アートスペースとして再生した「リュー・ユニック(Le Lieu Unique)」の事例です。

アヴィニョンは、人口10万人程度の地方都市において1946年から世界最大の演劇フェスティバルを開催しています。

バルセロナも、アントニオ・ガウディという建築家によりこだわってデザインされた数多くの建築群が人気を集めるのみならず、まちの中に眠れる文化資源を丁寧に生かしながら、市民が誇れるまちづくりを展開しています。
こうして訪れたどの都市も、行政と市民と創造者たちが、たっぷりと時間と手間と人の叡智をかけて、いっけんどの町にでもあるような文化資源を活力源として用いながら、産業や経済の立て直しにかぎらず、都市全体のイメージや存在感を含めた再生に成功していったものです。
 
だからといって、すぐさま、こうした都市の真似をしよう!と呼びかけられているわけではありません。
日田で演劇フェスティバルをしよう!とか、工業跡地をアートホールにしてしまおう!というわけではありません。
日田には日田の良さがふんだんにあります。
そうしたまちの資源を見つめ直して行く契機を、こうした他の地域の取り組みや壮大な試行錯誤に学ぶ必要があると言うのです。
たちどころに日田を創造都市にしようとしても無理があります。
しかし日本でも横浜市や金沢市のように、文化施策を取り入れながら都市計画をしている地域も徐々に増えてきました。
今まであったものをリセットして、いちから都市を造るというものではなく、営々と築かれてきた営みや産業や町並みや祭礼といった幅広い文化資源を丁寧に見つめ直し、点検したり磨き直していくことが大切だというお話だったのです。
それは、第1回目のご隠居カフェのお話しのときから藤原先生が、どこか忍者の呪文のようにむにゅむにゅと唱えていた「ぶんみゃく・きょうじ・ちゅうたい=文脈・矜持・紐帯」そのものなのです。
言葉は少々難しいですが、地域の歴史を寸断してしまってズタズタにしてしまうと、取り返しがつきません。

これまでにこの地域はどんな歴史を歩んできたのか、どんな人々が住み暮らしていたのかを知らなければいけません。
そして、現在住んでいる人たちの矜持(プライド)を大切にしていき、さらに、人と人、コトとヒト、モノとヒト、歴史とヒトなどを繋いでいくか、、、、それが、再生した欧州の都市には活かされています。
とっても単純だけど、なかなかシンプルにたどり着けません。
今回のご隠居カフェも、「ん~日田はどうだろうか?」と考えさせられるお話でした。

次回の第6回ご隠居カフェまちづくり交流研究会は、
8月3日(水)19時~
「市民参加型まちづくりワークショップの原理と手法を学ぶ-1」です。
お楽しみに!

さらに続々と続くよ
ご隠居カフェまちづくり研究交流会の今後の予定・・・

8月31日(水)19時~
第6回 ご隠居カフェまちづくり交流研究会
日田ラボ夏の音楽祭~日田ラボと音楽と残暑を楽しむ夕べ~

9月14日(水)18時~(予定)
第7回ご隠居カフェまちづくり交流研究会
 「日本全国スギダラ倶楽部の活動とスギの可能性」
 講師:日本全国スギダラケ倶楽部

10月5日(水)19時~
第8回ご隠居カフェまちづくり交流研究会
 「市民参加型まちづくりワークショップの原理と手法を学ぶ その2」

11月9日(水)19時~
第9回ご隠居カフェまちづくり交流研究会
 「バリ舞踊公演」~日田ラボで楽しむバリの芸術~
 講師:小谷野哲郎ほか

2012年3月11日(日)パトリア日田小ホール
第10回ご隠居カフェまちづくり交流研究会
シンポジウム「地域再生の3つのてがかり~文脈・矜恃・紐帯~」
 パネリスト:藤原惠洋ほか

日程は、都合により変更になる場合がございます。
参加料/無料

日田ラボに、こんなものがあったらイイナ★
近所をぐるっと散策できる自転車!
みんなで懇親会をする時の準備に、お鍋!
たまにご飯を炊きたいので、炊飯器!
割り箸じゃなくて、お箸!
暑いときに・・・うちわ!
コーヒーメーカがあるとコーヒーが飲めるなぁ・・・・
など、なんとなく、待ってます・・・(^^)

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◆日田ラボの場所/
 「旧横尾家 下の隠居家(シタンキャ)」
  日田市三和天神町252 ※旧街道沿いの建物です。(天神郵便局斜め向かい)
◆主催・お問い合せ
 Q大日田ラボ/九州大学大学院芸術工学研究院藤原惠洋研究室
  電話・FAX 092-553-4529
  keiyoあっとまーくdesign.kyushu-u.ac.jp
 まちそだて交流機構・日田ラボ/タカクラ 090-2395-4593
  kako3あっとまーくlime.ocn.ne.jp
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藍蟹堂。感受性は海の底から波濤や世界の波瀾万丈を見上げる蟹そのもの。では蟹とは?

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