2011年2月20日福岡県福岡市、福岡銀行本店大ホールにて
「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産シンポジウムが開催されました。
九州・山口の近代化産業遺産。ここは、幕末から明治にかけて日本が近代化を進めた産業遺構の集積です。加藤康子さんのコーディネートのもと、ニール・コソン氏(英国の産業考古学の第一人者)
西村幸夫氏(ユネスコ諮問機関・国際記念物遺跡会議元副会長/東大大学院教授)マイケル・ピアソン氏(オーストラリアの先史歴史考古学者)スチュアート・スミス氏(国際産業遺産保存委員会事務局長)
が、今後、九州・山口の近代化産業遺産群が世界遺産になっていくことの意義や可能性などを述べていきました。
産業革命による技術や哲学が、西洋から東洋にもたらされた瞬間の痕跡である遺構の数々は『シリアル・ノミネーション』という構想のもと世界遺産登録をすることを目指しています。
シリアル・ノミネーションとは、遺産の一つ一つが独立して保存されるものではなく、西洋から近代化の影響を受けた日本の変遷を、九州・山口各地の遺構を繋げることで読み取るような、ストーリー性を重視したものです。
これらの遺構を世界遺産に登録することで、遺構の保存活用と歴史的文化の発信を増幅させ、文化都市としての形成を行う計画であることが述べられました。
以下が今回の世界遺産へのノミネーションとして挙げられています。
長崎県:小菅修船場跡、長崎造船所関連施設、高島炭鉱、端島炭鉱、
旧グラバー邸
山口県萩市:反射溶鉱炉、(岩手県が日本初の溶鉱炉と製鉄所)、恵美須ヶ鼻造船所跡
大板山たたら製鉄所跡、萩城下町
鹿児島:旧集成館、旧集成館機械工場、鹿児島県旧紡績所
福岡県大牟田市・熊本県荒尾市、宇城市:三井三池炭鉱に関する産業遺産
福岡県北九州市:旧官営八幡製鉄所関連施設
佐賀県:三重津海軍跡
山口県:長州藩下関前田台場跡、六連島灯台
これらの遺産が世界遺産になるためには、様々な関門を突破しなければなりません。
例えば長崎造船所、新日鉄八幡製鐵所、三池港など、九州・山口の近代化遺産は現在も生きている稼働資産が多くあります。これらに関しては、所有者やまちの住民の生活を圧迫しない措置をとること、稼働している遺産として価値付けを行う必要性があるとのことでした。
一方、軍艦島は重要文化財ではないため、文化財保護法で守られることは現在のところありません。文化財保護法で保存されていない
世界遺産は国内において存在しない状況ですが、別の法律で保全することができるのではないか、と検討されている状況です。
その他にも「海沿いは構成資産から500m範囲を保存地区と定める方針を検討中」「世界遺産登録の範囲を調査によって調節している。近代化以前の様相が分かる痕跡もバッファーゾーンとして取り入れる。(西村教授)」などの計画が話されました。
シリアル・ノミネーションの方法で世界遺産の登録を果たした英国南西部のコーンウォールも錫や銅を生産していた場所であったことから、九州・山口の近代化遺産の世界遺産登録も期待が高まっている様子でした。
会場には各県の関係者が集っており、自分たちの自慢の遺産を持ちながら各地と交流してお互い意識を高め合い、連携を計ろうとする雰囲気が印象的でした。
まだ目にしたことのない近代化遺産も多いので、今後もフィールドワークなど進めていきたいと思います。