1.目的
筑豊・田川の地に残る旧三井田川炭鉱に関係する産業遺産群を訪れ、炭坑産炭地だった歴史と意義を振り返り、田川というまちの歴史や成立についての知見を得ること。また、旧林田春次郎邸(料亭「あをぎり」)にて行われる藤原惠洋教授の講演を通して、歴史的建造物の保存と活用について考えることを今回のフィールドワークの目的とします。
2.スケジュール
09:00 大橋キャンパス集合・出発
10:30 松原社宅跡地など、バスで周遊
11:30 田川市石炭歴史・博物館 見学
12:30 料亭「あをぎり」にて昼食
14:00 あをぎり・秋の講演会三部作/藤原惠洋教授講演「登録有形文化財について」
16:00 田川市伊田界隈の散策
17:00 現地出発(18:00~18:30頃 大学着予定)
松原社宅跡地
2010年5月に訪れたときは,まだ一帯,社宅が建っていましたが,今回訪れるとほとんどが取り壊され,更地になっていました.まだ一部,取り壊されずに残っているところがありました.
田川市石炭・歴史博物館
館長の安そ龍生さんのご案内で,田川市石炭・歴史博物館を見学しました.
筑豊地域の概要にはじまり,炭鉱町を支えてきた人たちの当時の生活や筑豊炭田の資料について,解説いただいた.また,旧三井田川鉱業所伊田竪抗櫓や同第一・第二煙突を見ながら,当時の様子を言葉で再現され,その迫力に圧倒されました.また見学後の自由時間に博物館の2階のテラスから香春岳(かわらだけ)の一番よく見えるポイントにご案内していただき,現在の姿になるまでの様子を教えていただきました.お話を聞いていると,目の前にその情景が浮かんでくるようで,安そ館長の語りの力に感動しました.(*そは,蘇の魚のれんがが大になったもの)
あをぎり・秋の講演会三部作 藤原惠洋教授講演「登録有形文化財について」
昼食,そして藤原教授の講演の会場となった料亭「あをぎり」(旧林田春次郎邸)は,この研究室でもなじみの場所になりつつあります.わたしもここを訪れるのは4回目です.
その「あをぎり」が,2010年8月に登録有形文化財を目指した申請手続きを行い,それを機に市民に向けた講演会が開催され,今回がその最終回でありました.料亭「あをぎり」の経営者,母里聖徳さん,勤子さんご夫妻が,「市内でも珍しい古い建物を地域の財産として後世に残し,活用したい」*として登録申請が行われ,またこの建物についてもっと市民の方に知ってもらいたいと始まったこの講演会.離れ2階の大広間にはたくさんの人たちが聴講にいらしていました.
藤原教授による講演のテーマは「登録有形文化財について」.1996年に制定された登録有形文化財の制度が創設されるまでの経緯や,その哲学に含蓄される「市民が取り組む」という姿勢,所有者の合意形成をプロセスに含むよりゆるやかな保護の方法であることなどについて,わかりやすく講じられました.驚きなのは,この登録有形文化財が明治時代より長きにわたり考えられてきたということです.そこには,「地域社会全体の財産」という認識を社会や所有する人たちが持つまでの困難さや葛藤などを感じられました.先駆けは成熟したイギリス社会です.そのイギリスでは現在400,000棟の登録有形文化財があり,それに対して日本は8,146棟と4分の1にも満たない数です.そこには先ほどの共有財産であるという認識や,思想.生活様式の違いなど多くのことが影響し合っていると思いますが,そういったものを越えて,登録有形文化財に申請・登録を経た8,000以上もの文化財を私たちは受け継ぐものとして見つめていかなければならないと感じました.
2010年12月,料亭「あをぎり」の女将さんから,お便りが届きました.
「料亭あをぎり本館」と「料亭あをぎり新館」が登録有形文化財に指定されたとのご報告でした.
同封の新聞記事には
「地域にとっても励みにつながる.」
「苦労が実った.今後は林田春次郎についても広く知ってもらえるようにしたい.」
という母里さんの喜びの声や,
「多くの市民らの支援が得られて登録に至った.田川以外の各地で,文化財の保護に向けてこのような動きが広がればいいと思う.」
という藤原教授のコメントが記載されていました.
(2010/12/11 朝日新聞より)
今後,料亭「あをぎり」が地域の人たちにとってどのような場所になるのか,また,そのためにわたしたちができることは何か,考えていきたいです.
(D2 A.Nakamura)