建築史家でまちづくりオルガナイザーこと、九州大学藤原惠洋(ふじはらけいよう)名誉教授の活動と、通称ふ印ラボ(ここで「ふ」の文字は意味深長なのでちょっと解説を。ひらがなの「ふ」は「不」の草体。カタカナの「フ」は「不」の初画を指しています。そのまま解釈すれば「つたない」かもしれませぬ。しかし一歩踏み込んで「不二」とも捉え「二つとないもの」を目指そう、と呼びかけています。ゆえに理想に向けて邁進する意識や志を表わすマークなのです。泰然・悠然・自然・真摯・真面目・愚直を生きる九州大学大学院芸術工学研究院芸術文化環境論藤原惠洋研究室というわけ、です!)の活動の様子をブログを介して多くの同人・お仲間・みなさまにお伝えしています。 コミュニケーションや対話のきっかけとなるようなコメントもお待ちしております!
今日9月16日から福岡アジア文化賞の受賞式典が展開します。

研究室のボス藤原惠洋先生(いわゆる「ふ印」先生)も、この福岡アジア文化賞選考委員会に相当深く(!)関わっている(芸術文化部門の選考委員会の副委員長とのこと)ので、毎年この季節には多士済々の受賞者の方々がお客様として来福されるのをご案内されることも多いようです。

受賞式典は、秋篠宮同妃両殿下をはじめ、国内外の来賓紳士淑女の方々をお迎えした華やかな授賞式(本日開催)と市民参加型の関連事業が盛りだくさんです。 

しかも市民参加、のようです。申し込めば参加できる枠が用意されているとのこと。福岡アジア文化賞は、どうも地方都市のノーベル賞とは少し違った顕彰制度のようです。

ぜひぜひご参加ください。 
大 賞
黄 秉 冀 ファン・ビョンギさん
HWANG Byung-ki
音楽家(韓国伝統音楽演奏家、作曲家、研究家)
【韓国/音楽】

黄秉冀氏は、韓国の伝統楽器である伽倻琴(カヤグム)の演奏家であり作曲家である。氏の柔軟で卓越した音楽的想像力によって、伽倻琴の演奏を通して創作された作品の数々は、伽倻琴の伝統を受け継ぎつつも現代性と国際性を兼ね備えた独創的な世界を持つ。

黄氏は、1936年ソウルに生まれる。1950年の朝鮮戦争時に疎開した釜山において、初めて伽倻琴に出会い、その美しい音色に魅了される。1951年から1959年まで国立国楽院で伽倻琴を学ぶとともに、1959年ソウル大学校に国楽科が創設されるのを機に講師として教壇に立った。その後、1974年から2001年まで梨花女子大学校韓国音楽科の教授を務めながら,ヨーロッパや米国など各地で公演を行い、世界を活動の場としている。現在、梨花女子大学校の名誉教授であるとともに、2006年から国立国楽管弦楽団の芸術監督を務めている。

大学で人材育成にあたるなど韓国音楽界に多大な貢献を果たす一方で、自身が優れた演奏家、作曲家として1957年のKBS全国国楽コンクール最優秀賞をはじめとして、1965年の国楽賞、1992年の中央文化大賞、2003年方一榮(パンイルヨン)国楽賞、2006年の大韓民国芸術院賞など名誉ある賞を数々受賞し内外の評価を得るとともに、伝統音楽の創作に先覚者として力を尽くした。

黄氏は、自身を伝統的な演奏家であり現代的な作曲家と表現する。伝統に対する深い理解者でありながら、伝統や自己の感性をも超える独創を見出そうとする。韓国の伝統音楽が形作られた朝鮮王朝の宮廷音楽の時代的枠組をさかのぼり、西域とも交流のあった新羅時代をイメージすることで生まれたのが、氏の音楽の転換点とも言われる1974年の『沈香舞』である。この作品は、美しさと幽玄の妙を見事に表現したものである。既存の固定観念を打破した点で前衛的とも言える1975年の話題作『迷宮』もまた、新たな境地を切り拓いた代表作であり、伝統音楽から現代性、世界性に対して受容と挑戦を続けている。

伽倻琴の伝統を正しく受け継ぎ深い理解に裏打ちされた卓越した演奏と、伝統と現代の超克の中で韓国からアジア、世界へと広がりを見せる作曲との融合により創り出された作品の数々は、演奏家のみならず作曲家として偉大な業績であり、まさに「福岡アジア文化賞-大賞」にふさわしい。

市民フォーラム
「韓国音楽の伝統と創造」
● 9月19日(日)14:30~16:30/イムズホール(定員:400名)



学術研究賞
ジェームズ・C・スコット さん
James C. SCOTT
政治学者、人類学者(イェール大学政治学、人類学教授)
【アメリカ/政治学、人類学】

ジェームズ・C・スコット氏は、東南アジア農村社会において、小農や小作農が生存の保障を求めて国家や地主の過重な介入や収奪に抵抗する心情と論理、それに起因する社会動態のメカニズムを、詳細な文献研究と2年におよぶマレーシア農村でのフィールド・ワークによって明らかにした。その知見は、アジアという地域を超え政治学の領域を超えて、「モラル・エコノミー論争」と呼ばれるような、学際的議論を呼びおこした。

その後の研究展開で、権力に対する面従腹背の姿勢は、奴隷制や農奴制やカースト制をはじめ、支配と抑圧の中にある従属階級の人々に広く見られる抵抗の基本形態であり、権力関係の及ばない舞台裏での言動の批判力と変革への可能性を明らかにした。さらには貧者の生活を改善しようとする社会工学的な国家プロジェクトが繰り返した失敗を回避するためには、地域に根差した実践的な知識と慣行を理解し尊重すべきことを、理論的考察と事例研究を通して説得的に示した。

東南アジアから始まり、近現代世界における権力の支配と人々の反発が織りなすダイナミックな関係を分析してきたスコット氏の知的遍歴は、最新刊『統治から逃れるための技術-東南アジア山地のアナーキズム史観』(2009)で再び東南アジアへと回帰した。国家の徴税や労役徴発を嫌って山地に逃れた人々が、自由と自律を守るために柔軟で流動性に満ちた社会と文化を作り守ってきたという大胆な主張は、侃々諤々の議論を引き起こしつつある。

スコット氏は、1967年にエール大学で博士号を取得し、ウィスコンシン大学教授を経て1976年よりエール大学の政治学教授および農村社会研究所所長として、多くの後進を指導育成してきた。また、近代国家における支配と被支配の関係を、生存の維持、支配と抵抗、日常の政治、アナーキズムなどの概念を核として精緻に分析した。支配されてきた弱者の価値観と意味世界に焦点を当てた深い洞察に基づく研究は、政治学のみならず、文化人類学、農村社会学、歴史学等を包摂する豊かな学際性を有する。

このようにジェームズ・C・スコット氏の研究は、東南アジア地域研究と政治学を出発点として越境し隣接諸学を刺激し、挑発し、生産的な議論を誘発してきた。この貢献は、まさに「福岡アジア文化賞-学術研究賞」にふさわしい。

市民フォーラム
「統治する国家・支配されざる民」
● 9月17日(金)18:30~20:30/イムズホール(定員:400名)
 
 
学術研究賞
毛里 和子 さん
MORI Kazuko
現代中国研究家(早稲田大学名誉教授)
【日本/地域研究 [ 現代中国 ]】

毛里和子氏は政治学者で、日本における現代中国研究の第一人者である。氏の学問的業績は中国政治、中国国際関係史、中国の民族問題の3分野にわたり、それらを有機的に統合することによって現代中国の全体像を描き、アジア地域研究の共通基盤となる方法的枠組みの構築にも大きな貢献をなした。

毛里氏は1940年東京都に生まれ、1962年お茶の水女子大学文教育学部史学科(東洋史専攻)を卒業した。その後、先駆的な女性研究者として、次々と質の高い研究論文を発表した。日本国際問題研究所主任研究員、在上海日本国総領事館初代専門調査員、静岡県立大学、横浜市立大学を経て、1999年4月から2010年3月まで早稲田大学政治経済学部・大学院政治学研究科教授として、地域研究、中国政治と外交、東アジアの国際関係にかかわる研究と教育を担当してきた。

毛里氏の代表作『現代中国政治』は、社会主義、発展途上国、伝統の三つの視座から党・国家・軍の機能と関係を比較政治学の手法で分析しており、その内容は日本の中国研究の最高水準を示すものと評価された。また『周縁からの中国-民族問題と国家』は、1940年代から現在にいたる中国の国家統合・国民形成のプロセスでウイグル人など辺境の民の歴史を政治学と国際関係論の立場から分析した体系的研究で、国際政治の中での中国のもうひとつの姿を立体的に浮かび上がらせることに成功したと評価された。さらに2007年の『日中関係-戦後から新時代へ』は、相互依存と相互不信が複雑に絡まる現代の日中関係を過去にさかのぼって実証的に整理し直し、今後のあるべき関係を説得的に提示した。

毛里氏は研究者としての傑出した業績だけでなく、中国研究とアジア地域研究の組織化、国際学術交流の分野でも大きな功績を残した。特に文部省科研費重点領域研究「現代中国の構造変動」(1996-98年度)では、代表者として70人を超える中国研究者の共同研究を推進し、その成果を『現代中国の構造変動』全8巻として刊行した。また文部科学省21世紀COE「現代アジア学の構築」プロジェクト(2002-06年度)の拠点リーダーとして、日本のアジア地域研究のレベルアップのために精力的に活躍してきた。このように、学術界の発展に大いに寄与し、その功績はまことに顕著であり、まさに「福岡アジア文化賞―学術研究賞」にふさわしい。

市民フォーラム
「中国式発展モデルの向かう先~中国は、世界モデルになりうるか~」
● 9月18日(土)17:00~19:00/イムズホール(定員:400名)


芸術・文化賞
オン・ケンセン さん
ONG Keng Sen
舞台芸術家(劇団シアターワークス芸術監督)
【シンガポール/演劇】

オン・ケンセン氏は、世界を舞台にいま最も旺盛な創作活動を続ける舞台芸術家である。現代的な感覚でアジアと欧米の伝統を鮮やかに出会わせるその演出作品は、世界的に高く評価されている。伝統を軽んじることなく俳優の身体性を生かしつつも、ポップな感性を忘れない氏の演出作品は、舞台芸術の国際的フロンティアを切り拓いている。

オン氏は1963年シンガポールに生まれ、1989年シンガポール国立大学法学部卒業。大学在学中の1988年、「シアターワークス」を設立して演出家としての活動を開始。1993年から1994年、アメリカ合衆国ニューヨーク大学大学院に留学して修士号(パフォーマンス研究)を取得。留学と前後して演出作品が日本や欧米でも上演され、その名が世界的に知られるようになった。以降、アジアと欧米の主要な劇場や演劇祭から委嘱されて多彩な作品を発表、2003年にはシンガポールの文化勲章(演劇部門)を授与されている。

オン氏は常に、「今、アジアで芸術家として生きるとはどういうことか」という根源的問いに向き合いつつ、その活動を展開している。氏の演出家としての眼差しは、アジア諸地域と欧米への地理的な広がりと歴史的記憶への時間的な広がりを同じように胚胎する。1996年から継続的に展開している「フライング・サーカス・プロジェクト」では、アジアと欧米から古典芸能と現代芸術の、また舞台芸術にとどまらない多様なジャンルのアーティストを招いて画期的な共同作業の場を設定した。そこから生まれたのが、『リア』(1997-99)や福岡アジア美術館でも上演された『デスデモーナ』(2000-01)といったシェイクスピア劇の斬新な翻案舞台である。また、『サンダカン葬送歌』(2004)や『コンティニュアム―虐殺の場所の彼方へ』(2001-10)のようなドキュメント演劇というジャンルに属するパフォーマンスでは、アジア地域の戦争の記憶をフィールドワークでたどりながら、その鋭い批評意識によって、アジアの歴史を観客とともに見据えるようなスリリングな舞台作品に結実させた。

ジャンルと国境を横断しつつ、古典と現代、東洋と西洋という二元論を打破するパフォーマンス作品によって世界の演劇界をリードするオン・ケンセン氏の活動は、その今日的な問題意識で、根源的かつ普遍的な芸術の持つ力を再認識させた。この貢献は、まさに「福岡アジア文化賞-芸術・文化賞」にふさわしい。

市民フォーラム
「身体の越境~オン・ケンセンの挑戦~」
● 9月18日(土)13:30~15:30/イムズホール(定員:400名)
 
 
 
 

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